不思議な少女に彼は恋をする
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「シュートを撃つ時って炎とか出たりしないものなの?」
「……は?」
ミステリアスなマネージャーの彼女から出た言葉に、勝也はペットボトルを落として呆然となってしまい、傍で聞いていた豪山も同じような反応だ。
「ゴールネット突き破るとかも無いし、ああ……いちいち破ってたらネット取り替える予算と手間がかかるから」
「待て、一旦待て、とりあえず待て!」
京子のサッカーに対して有り得ない知識ばかりが飛び出す。一度流れを断ち切ろうと、勝也は一旦京子の話を止める。
「それはあくまで超次元が許される漫画の世界であってだな……現実ではそういう事が出来る奴はいない。世界一のサッカープレーヤーでも無理だ」
「飛び上がって回りながら炎を纏ったシュートを撃つとか、風を起こしてドリブルで相手を吹き飛ばすとかも?」
「出来るか!」
京子は漫画やゲームでしかサッカーを知らないようだ。超次元の方が見てる期間が長く、あまり現実の方は馴染みがないと見える。
クールな外見には寄らないものだ。
綺麗な子と思っていたが、勝也は変な女子だと認識を改める。ちゃんと彼女には現実のサッカーを教えなければと、この日から京子に本当のサッカーを教えるようになる。
「っと」
京子が勝也のパス練に付き合い、隣では成海と豪山が二人で練習をしている姿が見える。
勝也は京子の出したパスをトラップ。意外と彼女の蹴るボールは正確であり、普通の女子より結構動ける。下手したら男子と同じぐらいかもしれない。
倉石京子という女子はスポーツ万能で頭脳明晰と文武両道の才女。外見も良く完璧な美少女に見えるが変わり者だ。
他の運動部へのスカウトはあったが京子は全部断り、サッカー部のマネージャーを選ぶ。
一体何故と京子に聞いたら「サッカー部のマネージャーやりたいから入った。問題ある?」と、迷いが全く無い回答をされて誰も何も言えなかった。
知識については偏っているが姿勢は真面目。マネージャーとしての仕事をこなし、先輩マネージャーよりも効率良く動いている。
「練習については偏りとか無いのかよ。えー……山に行ってサッカー仙人とかいう人物に特訓してもらうとか!」
「サッカー仙人って何? そういうのはいないと思うけど」
「そうだけど、お前にそれすんげぇ言われたくねぇな」
スポ根の少年漫画でありそうな感じの練習を勝也はとりあえず言ってみれば、京子にそれは無いとあっさり返される。練習は結構現実寄りらしく、今時の漫画とアニメのバランスどうなってんだよと勝也は心の中で愚痴った。
美少女だが変わり者の京子。勝也は何時の間にか、学校で一番長く話すようになっていく。
「ボールに乗って玉乗りみたいにドリブルとかは行けない?」
「思いっきり落ちて転んで怪我して終わる未来しか見えねぇよ」
勝也は京子に現実のサッカーを出来る限り教える。相変わらず彼女の知識は漫画寄りで、勝也はそれに対して全部答えを返す。
2年に上がった勝也は成海、豪山と共にレギュラーへと選ばれて東京予選に臨む。
「7番上がってる! 真ん中フォロー頼んだ!」
中盤の守備的MFの位置で勝也は声を出して味方を動かし、此処ぞという所で自ら大胆に飛び込む。攻撃的な守備で相手からボールを奪うと、自らドリブルで攻め上がる。
敵が止めに向かうと素早く前にパスを送って成海へ繋がると、豪山に高いクロスを放り込む。豪山の叩きつけるようなヘディングシュートが、相手のゴールネットを揺らした。
成海と豪山が共に喜び、勝也がそこに飛び込んで祝福。
柳石中学は3人を中心とした攻撃サッカーで勝ち進み、去年出来なかった都大会予選を勝ち抜き、全国への切符を掴み取る。
そして夏の全国大会。
1回戦を豪山のハットトリックがあって4-1で快勝するも、2回戦で優勝候補と当たり1-2で敗退。
2年目で全国への挑戦はピッチに立つ事は出来たが、頂点までは届く事は無かった。
「遊園地、興味無い? チケット2枚あるけど一人行く人いないから」
「え?」
全国大会が終わって暑い夏でも変わらず部活で汗を流す。休憩の合間に京子からドリンクを手渡されながら、誘いを受けた勝也は一瞬思考が停止。
女友達などを誘わずに男である自分に来るという事は、そうなのかと勝也は考えるが、思考の個性的な京子の事だ。本当にチケットが余ってるだけで、予定無さそうな者に声をかけた可能性の方が高いかもしれない。
いずれにせよ、これを聞いた勝也は京子に少し待つように言うと、成海と豪山の元へダッシュで向かった。
「わり、野暮用出来たんでその日無理になったわ」
「え!? 急にかよ!?」
「おいおい何だ野暮用って!」
「だから悪いって! 別日にハンバーガー奢ってやるから許せ!」
それだけ言うと勝也は再びダッシュで京子の元へと戻って来る。背中に「単品じゃなくセットだからなー!」という声を受けながら。
夏の土曜日、人気の遊園地は家族連れが多く目立ち、各アトラクションに列が出来ている。
何時もは制服や練習着にユニフォームという格好ばかりだが、この日はブランド入りの黒い半袖Tシャツに白い半袖の上着と黒いジーンズ。更にサングラスをかけて首にネックレスと、普段はしないお洒落を勝也はしてきた。
前日にスマホでプロサッカー選手の兄である太一へ連絡。女性と出かける時どういう格好すればいいんだと聞けば、太一は弟の為に当時の自分が着てたやつをやると返事する。
今、勝也が実家に住んでいて太一の部屋に残ってる私服を譲ってもらえる事になり、兄からは「しっかりやれ」とエールを貰う。
ダサいと言われて帰られたらどうすると、試合とは違う緊張感に勝也は襲われていた。
「……何、その格好?」
そこに京子が現れると、彼女の方は黒いノースリーブのシャツと青いショートパンツの私服だ。
京子は普段見ない勝也の格好を見て、特に目立ったリアクションは見られない。
一方の勝也は普段見ない京子の姿に思わず言葉を失った。
「ねえ?」
「え? あ、いや。えー……京子、私服似合ってて良いじゃんか」
「……そう?」
しどろもどろになりながら勝也はなんとか言葉を出して、彼女の服装を褒める。
「(って……初めて京子って名前の方言っちまった)」
今になって勝也は自分の言った事に気付く。今までは倉石とかそうでしか呼んでいなかったのが、このタイミングで名前の方で呼んでいた事に。
「時間が勿体無いから、行こう勝也」
「! お、おお」
京子は勝也の名前を言ったかと思えば彼の手を引いて歩き出す。
初めて彼女に名前で呼ばれたと思ったら手を繋いでくる。これに勝也の心臓は一気に高鳴り、胸の鼓動は速くなるばかりだ。
「え、いきなりジェット……!?」
「そうだけど、苦手?」
「い、いや! 何言ってんだ、俺はこういうの大好きだからよ!」
最初からジェットコースターへと行こうとしている京子に、勝也は明らかに動揺している様子。
本当は絶叫系が苦手で乗りたくないと思っているが、それは男らしくなくて格好悪いと意地を張り、共にマシンへと乗り込む。
「うぉわぁぁぁ~~~~~~!!!!」
それから少し時間が経って、園内で勝也が大絶叫したのは言うまでも無い。
ベンチでぐったりとなりながら座る勝也。その様子はサッカーをしている時よりも疲弊しているように思えるぐらいだ。
「苦手だったんだ、ああいう絶叫。はい」
「あ、ありがとな……悪いかよ」
「別に? 何でそう思うのかが分からない」
オレンジジュースを二つ持って京子は戻ってきており、京子は一つを勝也へと差し出し、勝也は受け取りストローに口をつけた。
「だって……格好悪いだろ」
ジュースの甘さで落ち着き、一息つけた勝也は言葉を続ける。絶叫で動じない女子に対して叫ぶ男子はみっともなくて格好悪い。
格好悪い事をしたくないから、男としてのプライドでジェットコースターに付き合ったのだ。
「勝也を格好悪いと思った事は一度も無い。貴方は小学校の頃からずっと輝いてる」
「え? 小学校……?」
京子に小学校の事を言われるが、勝也は京子と小学校時代に会った覚えは無い。そもそも、あの頃は親しい女友達が特にいなかったと記憶している。
一体なんのことを京子は言ってるのか、勝也が考えを巡らせると。
「小6で柳FCの決勝戦、見てた。あの時の勝也、キラキラ輝いて今まで見てきた綺麗で美しい景色よりも良いなって思った」
「! あれ……見てたのか」
今でも鮮明に勝也の記憶に残る、全国の頂点に輝いた瞬間。天才的なサッカーセンスを持つ弟分のおかげで勝つことが出来た。
京子はその年の試合をたまたま会場で見て、その中で勝也の姿が特に強く印象に残ったのだ。
「「準優勝なんかくそくらえだ! 優勝するぞお前らぁーーー!!」だったよね?」
「!? こんな所でそんなの言うなよ……!」
当時の勝也のマネか、それを京子は再現するかのように叫んだ。これが聞こえた周囲の人々は二人に目が向き、勝也は恥ずかしそうに周りの目を気にした。
この日、意外と京子はモノマネが凄く上手いと初めて知る。
がむしゃらで必死に優勝を目指し、周りを鼓舞する為に言った言葉だが、言われれば恥ずかしいなと勝也は思った。
「今だから言うと、輝く貴方を見たいからサッカー部……入った」
オレンジジュースを飲み干した後に、京子は勝也の方を見ないまま理由を告げる。
京子がサッカー部に入った本当の理由。小学校のあの頃に見た彼を追いかける為だと。
「これ、大勢の前で言ったら騒ぎになるの分かってたから伏せた」
「そ……そうなのか?」
「信じるも信じないも勝也次第」
勝也は京子の事を意識していた。その京子が実は自分を追いかけてきてくれて、わざわざサッカー部に入ってくれた。
これはひょっとしたらという想いが勝也の中で強くなっていく。
「あ……京子」
勝也は京子の名前を呼ぶと、ベンチから立ち上がって彼女の目を見る。
心臓の鼓動が速くなって行くのを感じれば、まるでPKでも蹴るような緊張が勝也を襲う。
「アトラクション……時間なくなるから次行くか、俺もう休憩充分出来たし」
「分かった」
喉から言葉が出かかっていたが、それを伝える事が出来ないまま二人は揃って歩き出すと、次のアトラクションを目指す。
そこまでの勇気を今は持っていなかった。
この言葉を言うのは早すぎて、まだ未熟だ。
彼女に相応しい男になってから言いそびれた言葉を言おう。
勝也の夏は色々と持ち越しになり、暑い季節に別れを告げたのだった。
宜しければ、下にあるブックマークや☆☆☆☆☆による応援をくれると更なるモチベになって嬉しいです。
サイコフットボールの応援、ご贔屓宜しくお願いします。




