気になる彼らを追いかけて
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
満開の桜の木と共に、在校生や今年から通う新入生を迎え入れる立見高等学校。
入学式まで15分ほどといった所で、走っていた弥一が高校の正門前まで辿り着いた。今日から通う高校を前に、自分が高校生になったんだと実感が湧く。
「ふわぁ~、桜の木がいっぱいだぁ~」
物珍しそうに弥一は桜の木を見上げている。1年のうちの春にしか見られない光景で、短い間だけの美しい木々に目を輝かせており、花見で弁当でも食べたら絶対美味い。
弥一が妄想の世界に入りかけていると、後ろから声がした。
「おーい、もうちょっとで入学式始まるよ神明寺くーん!」
声の主は大門。弥一が声に気付き振り返れば走っていって、一足先に着いていた弥一に大門、摩央が追いつく。
「はぁ……はぁ……わざわざ走らなくても……」
体力の無い摩央だが弥一、大門に付いて行く為には走るしかなかった。
思ったよりも時間に余裕がなく、急がなければならないのは想定外で、徒歩何分で辿り着くデータと実際に歩いてでは時間通りに到着するとは限らない。特に初めて訪れる不慣れな道や場所だと、遅れは生じやすいものだ。
入学式は大きな体育館で行われ、スポーツが盛んな高校とあって体育館も力を入れているようで、とても広々としている。
弥一、大門、摩央は無事に入学式に出席。彼らと同じ1年の新入生に囲まる中、壇上の校長先生や在校生代表、新入生代表による挨拶を聞く。
話が長すぎて弥一や摩央は入学式が終わる頃には、もう彼らが何を語っていたのかは綺麗さっぱり忘れていた。
クラス分けは大門が1-1、弥一と摩央が1-2で二人がクラスメイトとなる。
担任の先生や同じクラスメイトと顔を合わせての挨拶も終わり、入学式の今日は授業は無い。本格的な高校生活の開始は明日からだ。
入学式は終わったが、弥一と大門の二人はこれで終わりではない。校舎の外に出ると、数々の部が新入生を勧誘する為に呼びかけを行う姿が見える。
その中でも人気があるのは甲子園出場を果たした野球部で、そこに新入生が多く集まっている。やはり公式戦で大きな戦績を残した効果は絶大なのだろう。
弥一、大門は自分達が入ろうとしているサッカー部を探す。
「君ガタイ良いなぁ! ラグビー部どうだい?」
「柔道向きの身体だな、我が柔道部は歓迎するぞ!」
「あ、いや……」
大門は自分に色々な勧誘が来て困惑している。これだけの長身で体格の良い1年は早々おらず、運動部は有望そうな新入生を放ってはおかないので、大門に声をかける者は少なくないだろう。
「すみませーん、彼もう入る部活決まってるんですよー♪」
ハッキリ断れない大門を守るように、弥一は彼が部活に入る所が決まっていると笑顔で伝え、その場から去る為に大門の背中をグイグイと押す。
「ありがとう……助かったよ」
「サッカーやりに来たのに柔道家やラガーマンになっちゃう所だったねー。大門がそれで良いなら止めなかったけど」
「いやいや! 俺はサッカーがやりたいから、止めてくれて良かった!」
助けられた大門が礼を言い、弥一から冗談混じりに止めずに行くのも有りかと言われれば、首を横に振ってサッカーがしたい事をハッキリ言う。
「なんだ、ちゃんと言えるじゃん。さっきもそう言えば良いのに」
「ご、ごめん」
この短い時間で大門が優しくお人好し。悪く言えば気弱というのを弥一は理解した。
「(何で俺あいつらについて行ってるんだ……?)」
二人から離れた位置に摩央は歩いていた。何処の部にも入る予定の無いので、このまま帰れば良いのだが自分でも分からず、弥一と大門が気になって二人の後を追いかける。
今まで他人を避けていた人生、それが今日彼は少し変わる時かもしれない。
「えー、サッカー部サッカー部……あ! あったあったー♪」
多くの部活動の勧誘が見られる中、弥一はサッカー部の文字が見えて小走り。それに大門も続く。
数人の新入生がサッカー部の受付で入部届にサインをしており、自分達以外にもサッカー部に入る1年が居る。
前に居る新入生が手続きを済ませ、弥一と大門の番を迎えた。
「……貴方達も入部希望ですか?」
「はい♪」
「あ、はい」
青髪のセミロング女子。クールそうな雰囲気を持っていて、静かに女子は二人へと尋ねると弥一、大門はそれぞれ答える。
そして二人もサッカー部の入部を希望するとサインをすれば、サッカー部の手続きはこれで終了。
「練習は明日から朝6時50分から8時20分、授業が終わる3時40分から6時10分。1時間30分と2時間半の練習時間です」
サッカー部の練習時間について伝えられ、弥一と大門はそれぞれ時間を覚える。
それは後をつけていた摩央の耳にも入って、頭の中に刻み込む。
一通りの説明を聞くと、弥一の目に飛び込んで来たのは芝生のグラウンドだ。
「わー、芝生だー♪」
弥一はグラウンドを見れば一直線に駆け寄り、グラウンドを見回している。今は誰も使っておらず、入学式の今日はサッカー部の先輩も使っていないらしい。
「ねえ大門。今のうちに軽くボール蹴らない? こういうのって先輩が主に使って1年の僕らは使わせてもらえなくて、雑用を押し付けまくりなイジメ受けそうだし」
「漫画やアニメの見過ぎだって……此処ではない、と思いたいけどね。というか勝手に使っていいのかな?」
弥一から芝生のグラウンドでボールを蹴ろうと、誘って来るのは魅力的に聞こえるが、入部届けを出したばかりの1年が使って良いのかと、大門は受付の女子の方を見た。
「ああ……今日から貴方達はサッカー部だから問題ありません、部外者なら勿論駄目ですけど」
女子は大門の視線に気付き、使って良いと伝える。
許可も出たので弥一と大門はグラウンドに入って行った。
近くにボールが転がっていて、弥一は足で持ってくると大門に軽くパスを出す。
「(きちんと俺の足元へ正確に……神明寺君も経験者なんだ。何処の中学行ってたのか、まだ聞いてなかったなぁ)」
弥一のパスを受けて、大門は彼がサッカー未経験者ではなく経験者である事が伝わる。正確に足元へボールが来た上、足で受けやすかった。こういうパスを未経験で出すのはほぼ無理だろう。
「(彼は何処のポジションなのか……FW? MF? 足とか速そうだからサイドのポジションかな……)」
結局まだ弥一のポジションを大門は聞いていないが、それは明日のサッカー部の先輩と顔合わせで明らかになるかもしれない。
何処のポジションを具体的にやりたいか、聞かれるはずだ。
あまり制服を汚す訳にいかず、今日帰って洗濯したら明日に間に合うか怪しい。軽くボールを蹴っていた弥一、大門は帰る支度をして正門を出ると、そこに一人の人物が門の前でスマホを見ていた。
「あれ、杉原君?」
「! よお……偶然」
大門が正門前に居る摩央へ声をかけ、それに気付いた彼の方は視線をスマホから二人へ向ける。
「どうしたの? もしかして僕達の事ずっと待っててくれたとかー?」
「違ぇよ、ソシャゲに夢中になってただけだ。それで大門が声かけて今やっと気付いた……」
ふいっと摩央はそっぽを向くと再びスマホの方を見た。
「何か杉原ツンデレっぽいねー」
「は!? んだよそれ、そんなつもり無いからな」
「杉原が女子だったらツンデレ女子でモテそうだよー、可愛い顔してるし」
「お前に言われたくねーよ! お前の方が可愛い顔してるし!」
「えー!? そう!?」
弥一と摩央で言い合いが始まるも、喧嘩っぽい雰囲気ではない。大門から見れば微笑ましい光景に思えた。
「大門ー、杉原の方が可愛い顔してるよね?」
「え!?」
「大門! よく見ろ! 明らかに神明寺の方が女っぽい!」
「え? え?」
二人の小柄な男子に挟まれ、大門は巻き込まれる。どっちの方がより可愛く女っぽいのか、正直大門から見れば、どっちもどっちという感じだった。
勿論それは言い出せないまま、争いは立見の駅に着くまで続いた……。
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