不思議な彼の生活と始まり
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
入学式から帰って来た弥一。電車で3人とも乗っており摩央は途中で降りて別れ、弥一と大門は降りる駅が同じだった。
桜見駅
この駅で降りて大門とは駅で別れ、弥一は一人で大通りを歩いて行く。日は沈みかけていて夕方を迎え、帰宅する者が居れば、今から飲みに繁華街へと向かう者も居る。
色々な目的、目当てで歩く人々の中に溶け込みつつ弥一の足は大通りから住宅街へ向かう。
やがて家に到着すると、10階まであるマンションが目の前に聳え立つ。弥一が住む家は10階で、エレベーターに乗って上昇していく。
到着した弥一は自分の家の前まで来て、スマホを取り出して鍵を開ける。昔は鍵を持っていて当たり前だったのが、今の時代ではスマホ一つで鍵の開け閉めが出来るようになっており、昔と比べて随分とハイテク化が進んでいる。
「ああ、弥一お帰り」
家の中に入ると母の涼香が忙しそうに外出準備を進めていた。
「ただいまー、ってお母さん仕事?」
「そうそう。一旦家に帰って来たんだけど、また出ないといけないの」
涼香は仕事をしていて家にいない事がほとんどで、今回は家にある必要な物を取りに来て、休憩が終わった所に息子の弥一が帰って来たのだ。
「弥一。高校は馴染めそう?」
「スタートは良い感じだと思うよ、1年の友達出来たから」
「あら良かったじゃない。ってもう時間! テーブルにある物でご飯食べてね」
そう言うと涼香は身支度を整え、家を出て仕事へと戻る。
テーブルの方を弥一が見ると、料理ではなく現金の2000円が置かれており、これで自分で飯を買って食べるんだと理解。
別に今日に限ってではない。父親が海外出張で家を開けて、母親も仕事に出ていて一人だけというのは神明寺家では共働きでよくある事だ。
流行りの宅配アプリで出前を頼もうかと考えたが、コンビニやスーパーで買う方が安く済むと、弥一は近くのスーパーまで走ってサラダ、鳥の唐揚げ、チャーハン弁当を買えば家に戻って食べる。
夕飯を済ませると風呂に入り、歯を磨いて後は眠くなるまで適当にスマホを見る。人気の動画サイトで面白いグループの最新動画を発見し、弥一は声を上げて笑ったりしていた。
◇ ◇ ◇
ピピピピッ
「ん~……」
カチッ
まだ外が薄暗い朝の5時50分。ベッドにて夢の世界を堪能中だった弥一を叩き起すように、彼の頭上にある目覚まし時計が鳴り響く。現実へ引き戻された弥一は寝ぼけつつも時計に手を伸ばし、スイッチを切る。
起き上がってベッドから降りると少しでも眠気を覚まそうと顔を洗い、パジャマから制服に着替えてカバンに菓子パンを入れておく。充電していたスマホを手にして、軽く操作。
身支度を済ませた弥一は家を出てスマホの操作で鍵を閉めてから、エレベーターに乗り込む。降りていくエレベーターの中でクリームパンの封を開け、移動時間を利用して朝の食事をする。
朝の6時頃
桜見駅に着く頃に弥一はクリームパンを食べ終え、2個目の卵サンドを食べようとしていた。
「おーい神明寺くーん!」
「んあ?」
卵サンドを口開けて食べる彼に声をかける人物が居た。遠くからでも分かる長身で、大柄な同じ学生服を着た男子は見間違いようが無い。大門が弥一の姿を見つけて駆け寄る。
彼らが会ったのは偶然という訳ではない。スマホで互いの連絡先を交換済みで、明日この時間に待ち合わせをして一緒に行く事を決めていた。
同じ街に住んで学年や通っている学校に部活まで一致しているなら、こうして共に電車を待つのは自然な事だ。
「今日からサッカー部で練習……何か、緊張するね」
「そう?」
今日から他の1年や先輩達と顔合わせとなって練習する事になる。その事に対して大門は緊張してくるが、弥一の方は特に緊張した様子を見せずに卵サンドを食べていた。
「そこで緊張してたら試合とか滅茶苦茶ガチガチだよー。特に全国なんてなったら緊張し過ぎて身体動かなくなりそうでしょ?」
「ぜ、全国!?」
まだ試合に出てもいなければ今日からサッカー部の練習に参加なのに、弥一はもう全国の舞台を見ているのかと大門は彼の発言に驚く。
その前の予選もどうなるか分からない。それでも弥一は躊躇いもせずに地区ではなく、一気に全国と口にする。
「(全国か……勿論、やるからにはそこが目標だよな……)」
確かに弥一の言うように、チームメイトとなる先輩達に緊張していては試合で悪い緊張を抱え、試合で実力を発揮する事が難しい。
此処で緊張している場合ではないと、大門は自分の両頬を軽く叩いた。
そして弥一が卵サンドを食べ終える頃には電車が到着し、立見を目指して二人は乗り込んだ。
早朝の電車は人が少なく弥一と大門が席に座るのは容易で、目的地に着くまで立ったまま到着を待つ事は避けられた。
二人は昨日も隣同士で座り、弥一が大門に寄りかかって熟睡していた事が切っ掛けで、そこから大門や摩央と知り合う事が出来たのだ。
昨日と違うのは弥一が今日は寝ておらず起きている。
「神明寺君、今日は眠くないか?」
「あー、昨日はね。時差に慣れてなくてさ」
「時差?」
今日は起きている姿が気になった大門に問われ、時差に苦労してああなったと明るく笑って弥一は説明。
時差という事は弥一は最近まで日本から海外に居たのだろうか。益々気になった大門は更に尋ねる。
「時差ってつまり、日本に帰ってきたのが最近? 海外旅行でも行ってた?」
「そうじゃないよ。僕は小学校卒業してから3年ぐらいイタリアに居たんだよ」
「……え? イタリアって……あの、ピザやパスタが美味しくてサッカーの本場で有名な?」
「うん、そのイタリア」
大門は思わず声を上げそうになった。それは周りの乗客が少ないとはいえ居るので、堪えはしたが驚かされた内容だった事に変わりは無い。
サッカーに携わる者なら誰もが知っている強豪国。主にヨーロッパや南米とあって、イタリアも世界の強豪国の一つ。
サッカーのレベルは世界最高峰の国内リーグが行われる程に高く、国際大会でも4年に1度しか行われない、世界一の国を決めるワールドカップ。その栄冠に何度も輝いた実績を持つ。
イタリアサッカーで最も有名でイメージが強いのは、閂を意味するカテナチオ。強固な守備が特徴で古くから伝統として、現代にまで受け継がれている。
その強豪国に弥一は3年間居た。そして彼は日本へ戻ると、立見サッカー部への入部を希望。
大門の中で彼に対する期待は自然と膨らむ。昨日の弥一は自分のポジションを明かさなかった。もし彼が本場のイタリアでサッカーを学び、そのプレーを身につけたとしたらと考えるだけで胸が熱く感じる。
イタリアで学んだなら、そのサッカーを是非見てみたい。
「それより、大門もキーパーとしてちゃんとアピールしときなよー? 試合に出られる椅子はたった一つしかないし。実力あれば1年だろうが試合出る事は可能なはずだからさ」
「あ、ああ。そこは勿論頑張るよ」
身体が大きくGKの経験を持つ大門。弥一も昨日パスを受けており、正確に足元へと返してくれて、ボールを扱う時も足を使った技術が上手い。
シュートを止めるだけがGKではない。最後尾から常に全体が見渡せるので、そこからのコーチング。声を出していくのも重要で、現代サッカーでは守備と同時に攻撃にも貢献する為、足元の技術も求められる。
フィールドプレーヤー並か、それ以上の技術をキーパーのポジションにも求められ、その点について大門は合格だ。
ただ、声を出す方は不安要素はある。あの勧誘の嵐を自分からハッキリ断らない押しの弱さを思うと、コーチングはあまり得意ではないように見えてしまう。
そうなるとアピールは難しく、1年から試合どころかベンチも厳しくなるかもしれない。
「……よお」
話している二人へと声をかける人物が現れる。話し込んでいて気付いていなかったが、立見まで残り駅2つ。そのタイミングで現れたのは摩央だった。
「急にビックリしたよー。杉原も朝練見に行くとか言い出すから」
彼が此処に現れた事は、弥一も大門も特に驚いてはいない。昨日二人だけでなく摩央も入れて、3人によるグループチャットで連絡するようになったのだ。
摩央は二人が同じ電車に乗って練習行くというメッセージを見て、自分も行くと言い出せば、この時間の電車に乗り込んだ。
「別になんとなく、気になっただけだよ。今までテレビやスマホとかでしか高校サッカーやプロのサッカー見た事無かったし…せっかくサッカー部のお前らと知り合ったから、どういう事やるのか見ておこうかなって」
「やっぱツンデレだー」
「だからツンデレじゃねーよ!」
「まあまあ……」
確実に摩央は二人と出会った事で、自分から関わろうと変化していた。昨日からこれだけ人と話すというのは親以外では無い。
ただ悪くないなと思い始め、サッカー部としての二人に興味が湧いてきた。
昨日の入学式へ向かう時と同じように立見の駅に到着し、昨日の今日なので道は記憶しているから、今度はより短い時間で学校へと向かう事が出来た。
人通りも早朝のせいか少なく、人混みで遅れるというのも無くスムーズな移動で、初日より早く立見高校は見え始める。
時刻は6時30分前、弥一達は正門前まで来た。
昨日は入学式だったが今日は違う。今日から彼らの高校生活は本格的に始まりを迎える……。
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