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彼に導かれて集う者達

※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。

「1年経った今でも、俺は信じられないんだ。勝也の奴が……もう何処にもいないっていうのが」


「……」



 神山家にある勝也の部屋。太一の案内で弥一は通されて、その場に立っていた。



 生前勝也が過ごしていた部屋。サッカー関連の本があれば、関係無い流行りの漫画の棚がある少年らしい部屋。



 勝也が亡くなって、使われる事の無くなった部屋だが綺麗な状態だ。多分母親が定期的に掃除しているのだろう。




「本当だったらプロに上がって来ていずれは兄弟揃ってプロのフィールドに立つ、そう思ってたんだけどな……」


 実の弟が早々に旅立った事、太一のショックは計り知れないはずだ。弥一も相当なショックだったが、実の家族にとってはそれ以上だろう。



 今も現役のプロとしてピッチに立ち続ける太一。小学生の頃から高度なテクニックを使えたり、コーチングの大切さを理解したりと、勝也は将来このまま行けばプロだろうという期待を密かにしていた。



「勝兄貴、クラブと小学校卒業した後に中学のサッカー強豪校に入ったんですよね。そこでも活躍したりと、そのまま行ける所まで行く。それが高校は…正直何で?って驚きました」




 中学サッカーに場所を移し、勝也は強豪校で揉まれながら更に成長。その活躍は弥一も勝也とのスマホでのやり取りだったり、中学サッカーのライブ中継などで知っている。


 同じ頃に小6へ進級した弥一。柳FCを3年連続日本一へとチームを優勝に導き、有終の美を飾ってクラブを卒業。その後に親の仕事の都合でイタリアへの留学が決まった。



 この知らせは勝也や太一にもしており、太一がそれを知るとイタリアに知り合いが居るからと、紹介してもらい力になってくれた。おかげで知らない異国の地で上手くやれてきた。




 勝也は弥一がイタリアへと旅立つ時、わざわざ空港まで来たりしてくれた。





「弥一、イタリアでしっかりレベルアップしてこいよー!こっちも強くなって待ってるからな!」




 本当は慣れ親しんだ日本に残るという選択もあった。それで勝也と同じ中学に進学して共にサッカーをするという選択もあったが、イタリア行きを強く勧めたのは勝也だ。




 海外留学は早いうちに経験して本場のサッカーを体感して学んだ方が良い、大チャンスだろ!と。




 その言葉があったから弥一は日本に残らず、イタリアへ旅立つ決心する事が出来た。



 慣れた日本で勝也を追いかけるのではなく、自ら離れて更に高いステップへと進む。イタリア語を学んだりと外国語を学ぶ苦労もあったが、持ち前のコミュニケーション力、そして心を読める力でそれは乗り切った。




 イタリアで生活している間も、日本での勝也については本人からの知らせや日本の中学サッカーを見てればそれは分かった。



 勝也の方にも中学の新たな友人が出来て、彼らと共に全国大会に出て優秀な成績を残した事。勝也のチームの課題は守備で弥一がいてくれれば心強いのにと、愚痴をこぼされた事もあった。




 勝也が中学を卒業すると、弥一はスマホで彼から驚くべき事を告げられる。




「高校は自分でチームを作る」




 弥一は急にどうしたんだとこの時思った。勝也の実力と実績なら高校の強豪校へ入れるはずなのに、一から自分のチームを作る必要が何処にあるんだと疑問を持つ。


 心を読もうにもスマホ越しではそれは出来ず、勝也が何を考えているのか弥一には分からなかった。



 チームに関しては、中学から一緒にやってきた友人達がついてきてくれたり、勝也や友人達が声をかけて人をかき集め、まだサッカー部の無い高校でサッカーを始めようとしている。




 イタリアでもこういう事あるのかと弥一はチームメイトに訪ねたりしたが、それは無いという答えが帰ってくる。チームメイトの中には日本は規律が厳しく上下関係を重んじるから、厳しい先輩や監督とかきついルールが嫌で、自由を選んだんじゃないかと言う者もいた。



 結局明確な答えは分からず、イタリアに弥一が来てから2年が経つと弥一の元に知らせが入った。太一からだ。






 弟が、勝也が死んだと。






 聞いた時、軽いはずの弥一の持つスマホは鉛のようにズシっと重く感じて、手に持てず地面へと落とした。




 神山勝也 高校2年生



 これからという時期に早すぎる死だ。




 太一が色々言っていたかもしれないが、弥一はこの時何も耳に入らなかった。何かをする気にもなれなかった。




 それまで通っていたイタリアのクラブの練習を、弥一はこの日初めて無断でサボる。




 勝也がもうこの世にいない。



 弥一はどうしようもない喪失感、無力感に襲われていた。




 数日続き、クラブの練習に全く行こうとしない弥一に対し、母の涼香は息子を心配して言葉をかける。




「弥一がその分までサッカーをした方が勝也君も喜ぶはずよ、その姿を彼に見せてあげ続ける方が」





 すぐには立ち直れなかった。しかし涼香の言葉に時間の経過、そのおかげで練習に再び顔を出すようになる。




 そしてある日、弥一は決心した。




「日本の高校に通いたい」



 涼香にそれを話すとイタリアには父親だけが単身で残り、弥一と涼香は3年過ごしたイタリアの地に別れを告げて、二人で日本へと戻る事になったのだった。




 弥一はかつて勝也が在籍し、彼がサッカー部を作り上げた立見高等学校。



 小学生時代のクラブの時と同じ、再び彼の後を追うように立見へと入学したのだ。







「人生ホント……わかんねぇよ……何でよりによってあいつが……」


「……」



 今は亡き勝也の部屋でぼやくように言う太一。彼の深く強い悲しみは心の読める弥一には鮮明に強く伝わって来る。


「ああ、すまん。こんな事言って……」


「いえ……」



 太一がそういう事を言いたくなる気持ちはよく分かる。あの知らせを聞いて1年経った今でも弥一はそう思っていた。勝也が何故死ななければならないのか。




 その時玄関の方から声がした。新たな来客のようで太一の母親が出迎えている。




「詳しい話、聞きたかったんだろ弥一君。この時間に彼らは来ると言っていたから聞くといい。俺より詳細を知ってるはずさ、君が日本にいない間に勝也がどう過ごしていたのかを」



 今日は弥一の他にこの家に来客の予定がある。それは勝也の友人で共に同じ時を身近で過ごした仲間。



 向こうもそれを知っており、勝也と親しい者がこの家に来てる事は知っている。




 弥一の方は誰が此処に来たのか、それはもうなんとなくだが分かった。共に立見サッカー部を作り上げたなら彼らだろうと。










「え、神明寺君!?」



 玄関で対面した弥一、そこに居たのは弥一を見て驚く立見の教師でサッカー部の顧問の幸、キャプテンの成海、副キャプテンの豪山。マネージャーの京子。




 まるで勝也が彼らを導いたかのように此処に関係者が集ったのだった。

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