勇姿と勇気をその目に焼き付けて
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
Uー12少年サッカー大会、柳FCは破竹の勢いで勝ち進んでいた。
キャプテンマークを巻いた6年生の勝也が攻撃陣を引っ張り、ゴールを量産。守備では弥一の(心が読める)先読みからのコーチングが光って、相手チームの攻撃を止めきる。
そのおかげでチームは毎試合3点差以上で勝利。圧倒的強さで東京予選を勝ち抜き、全国大会出場を難なく決める。
そして全国大会の決勝戦、柳FCはフィールドに立っていた。
決勝まで勝ち進み、彼らの前に立ち塞がるのは前回大会で柳FCが負けたチーム。勝也にとって因縁の相手だ。
前回は土壇場で失点して敗れた所を弥一も見ていたが、今回は違う。
自分が守っている時は破らせない。二度も勝也を負けさせたくない。
「いいよー! ナイスディフェンス! その調子ー!」
味方の守備に弥一は声を出して、決勝の大舞台でも変わらずチームを盛り上げる。
「(ホント、良い声出すようになりやがって)」
少し前はコーチングを知らずに全部一人で止めるような奴だったのが、嘘のように今はコーチングが得意となった。弟分の急成長した姿に、思わず勝也の顔にフッと笑みが浮かぶ。
「攻めろ攻めろ! 右走れ!」
弟があれだけ守ってるのに兄貴が頑張らないでどうする、と自らに言い聞かせて勝也も声を出して行く。
柳FCが攻め込んで、ゴール前のパスを受けた味方選手がシュート。枠内の右に飛んで1点のチャンスだ。
これを相手キーパーが横っ飛びでダイブからのキャッチ。見事なスーパーセーブに会場から歓声が上がる。
すると直後に相手キーパーが起き上がり、パントキックで一気に前線のFWへ送る。此処まで大会で一番ゴールを量産してる、今大会No.1のFWと呼び声高い選手。
前回大会でも柳FCは彼のゴールにやられて、DFにとっては厄介な存在だ。
柳FCのDFが正面から止めに行く。相手FWはキーパーから来たボールに対して、DFの動きも見えてたのかトラップせずに軽く右足の甲で蹴ると、DFの頭上をふわりと通過。
高等テクニックのダイレクトループだ。これをDFは読めず、その間に相手FWは横を通って落ちてくるボールへ向かって走り込む。後は落ちてきた所に再びダイレクトでボレーを撃ちに行く。
決まればカウンターから文句無しのスーパーゴール。大会MVPは間違いなく彼の物となるはず。
それを許さないとばかりに、このダイレクトプレーを最初から読んでいたのか、ループのボールに飛び込んで行く影が相手FWから見えた。
正体は弥一で、相手FWよりも早くボールに飛び込むと、思い切り蹴ってクリアする。
このスーパーゴールを実現させはしない。弥一は相手がそう来る事を心で見ていたおかげで、思い切った飛び込みが出来たのだ。
攻撃のスーパープレーに対して守備のスーパープレー。会場のボルテージは上がり続け、1点が重くのしかかる時間帯になってきた。
敵味方共に足が重くなってきて、勝也も息を切らすようになる。後半の終盤、最も体が言うことを聞きづらくなってしまう時間帯。
加えて全国大会決勝という大舞台。普段では感じない雰囲気とプレッシャーを受けて、普段よりも体が重いと感じてしまう。
「敵さんも苦しいはずだよー! 此処乗り越えれば勝てるよー!」
そんな中で弥一は手を叩いて声を出し、味方を励ます。
弟分からの声を受けてから、勝也は相手の方を見る。
相手チームの方も疲労の色が見えて、息を切らす選手が何人か居た。
自分が最も苦しい時は相手も同じように最も苦しい時、つまりチャンスだ。
勝也は疲労した体に鞭打って、前を向いた。
「準優勝なんかくそくらえだ! 優勝するぞお前らぁーーー!!」
仲間だけでなく自らも奮起させるように、勝也は腹の底から叫ぶと再びボールを持って攻めに出れば、単独で相手のエリア内へ侵入する。
パスで来ると思っていた相手DFの意表を突く事に成功するも、相手の方も1点もやれないと必死のディフェンスで勝也のドリブルを止めに行く。
「うわっ!」
その時、相手DFが後ろから足を引っ掛けると勝也はフィールドへと倒れる。
これを見ていた審判は笛を吹き、相手チームのファールを取るとPKの判定を下す。
大事な場面でのPKの大チャンス、蹴るのはファールを受けた勝也。
此処まで相手キーパーは好セーブを連発して乗っている。そのせいか自信がある様子だ。
それでも関係無いと、勝也は相手を見てから深く深呼吸する。
こういう時こそ落ち着き、目を閉じる。
勝也の心境は弥一にも伝わっていた。この大舞台、1点を争う重要な局面で回ってきたPKのビッグチャンス。
緊張しない訳が無い。
PKに関してはどんなに名手だろうが、重圧でコントロールが狂って外す事があるのだ。
PKを蹴るのに大事なのは技術ではない。
気持ち、勇気で蹴る。
勝也はプロである太一から学んでいた。
そして笛が鳴り、PKが始まる。
勝也はボールから離れない。助走をとって蹴るのが一般的なPKの蹴り方だが、希に世界では型にはまらない方法がある。
助走無しのPK。
勝也は走らず、そのまま助走する事なく左足で蹴る。この大舞台でセオリーを無視したPKを実行したのだ。
ノーステップでのキック。今大会数多くPKはあったが、これをやった小学生は誰もいない。
「え!?」
面食らった相手キーパーは反応が出来ない。ボールはそのまま地面を転がり、右下隅のゴールに入っていった。
「うぉっしゃぁぁぁ!!!!」
助走無しのPKが見事に決まり、ついに柳FCが先制のゴール。待望の1点が入った瞬間。勝也は喜びの雄叫びを上げて、仲間は彼へ飛び込んで祝福し、共に喜びを分かち合う。
「すげぇぇぇ!! 流石勝兄貴! ねぇ見た!? 今の有り得ない走り無しのPK!」
最後尾で弥一は味方キーパーと共に喜び、勝也の有り得ないPKに興奮していた。
最も勇気ある難しいPK。それを勝也は物にして1点をもぎ取った。
後はそれに応える為に0で終わらせる。
この1点を守りきる事が最後にDFとして残された仕事。
弥一は声を出すと自らも動き、相手のチャンスを潰し続けていった。
そして試合終了の笛が鳴り響き、柳FCは歓喜の瞬間を迎えた。
全国大会優勝、去年成し遂げられなかった事が今年達成出来た。
ある選手は喜び、ある選手は泣き崩れ、監督やコーチは共に握手を交わす。共にそれぞれ反応は異なれど優勝を喜び、勝利を噛み締める。
「勝兄貴、やったねー♪」
「弥一!」
「おわ!?」
弥一が駆け寄ると、勝也は弟分を強く抱きしめた。
「ありがとな……! お前がいてくれたおかげで、勝てた……ありがとう……!」
勝也の声は震えていた。弥一からは見えないが、おそらく泣いている事だろう。
だが、去年のような悔し涙と違って今回は嬉し涙だ。
クラブを去る前の最後の大会を優勝で終えた。これで勝也は悔い無く卒業して中学へ、新たなステップへと進む事が出来るのだから。
代表してキャプテンの勝也が優勝旗を持って高々と掲げる。柳FCが日本一に輝いた瞬間だ。
今大会のベストDFに選ばれた弥一は優勝トロフィーを手にする。
これが弥一と勝也が共に同じチームで試合をした、最初で最後の大会。
思い出の旅を終えて、現実へ戻った弥一は目を開ける。
目の前の仏壇には小学生の頃より成長し、高校生となっていた勝也の遺影。そこに映る彼の顔は中々の銀髪の男前に見えた。
同じ部屋の棚の上には小学生時代、弥一と共に優勝を勝ち取った時の記念写真が飾られている。
小学生の勝也が居て、その隣に弥一が共に写っていた。
本当だったら、またサッカーを共にするはずだった。日本に戻った時はそのつもりだったのが、今となっては永久に叶わなくなってしまう。
遺影から小学校の時の写真へと弥一は目を向ける。
思えばコーチングの大事さを知らないでいた未熟なあの頃。勝也に早めに教わっていなかったら、此処に自分はいなかったかもしれない。
弥一にとって兄のような存在でサッカーの師であって、同志でもある勝也。
彼の勇姿を見る事も、成長した自分を見てもらう事も叶わない。
目を伏せる弥一の目には光るものがあった……。
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