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試合前に彼は知らない彼と会話する

※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。

 見上げるイタリア帰りの天才リベロ、それに対して見下ろす高校サッカー界No1天才ストライカー。



 二人の目は確実に互いを見ていた。




「あ、居た!神明寺くん早く早く!」


 そこに弥一が来ないかと出迎えに大門が正門の方へと来ていて、弥一の姿を見れば彼へと向かって呼びかけた。



「あー今行く!どうもー」


 弥一は八重葉の面々へと軽く頭を下げてから大門の方へと駆け出す。




「なんだ今の子供?」


「さあ?つか高校の制服着てたよな。て事は此処の生徒か」


 体格の良い八重葉の面々と比べ弥一はかなり小柄だった。それで彼を子供と思う者も少なくない。まさかその人物がこれから試合するサッカー部の一員だとは、この時誰も思っていなかった。



 そんな中で照皇は話題に加わる事なく立見の正門を通って行く。






「八重葉だ……!」


「うわー、やっぱ貫禄あるわぁ」




 八重葉学園がついに立見サッカー部の前に現れる。やはり高校サッカー界の王者とあって貫禄は伝わって来ており、見学に来ていた生徒達からヒソヒソとそんな話が出て来た。




「さ、さあー。いよいよ八重葉との大一番ね!皆飲まれちゃ駄目だから、飲み返す勢いでや、やりましょう!」


「ラッキー先生が一番飲まれてますよ」


 緊張を隠しきれないのが誰の目から見ても明らかだった。黒髪でショートボブ、黒いパンツスーツを着た若い20代の女性。



 彼女は立見サッカー部の顧問を務める高見幸たかみ さち、皆からはラッキー先生と呼ばれる。サッカーは好きだがサッカー経験は無くて、深い知識も無い。



 部の事は主に部員へ任せているが、大人の教師として出来る事をしてサッカー部の力になっている。そんな彼女は部員以上に王者を前に緊張していた。










「相手は新設サッカー部のチーム、だが東京大会予選でベスト8まで勝ち抜いている。エースの長身FW豪山、キャプテンの成海に気をつけろ。あの二人が立見の主力で彼らを抑え、どんどん攻めていけ。決して気を抜くな」



 八重葉側のベンチではミーティングが行われている。八重葉の監督は50代ぐらい、短髪の黒髪だが白髪が多くなりつつある。



 立見の事は調べているようで、戦績や要注意選手をしっかりとマークしていた。何処だろうが相手について調べる事を怠りはしない。


 これも王者八重葉の強さの一つだ。




 一通り試合前のミーティングが終わると、八重葉の選手達にマネージャーらしき女子数名がそれぞれに何かを配る。


 片手で持てる包装の物を開けると中にはカステラが入っており、選手達はそれぞれカステラを食べ始める。






「何だあいつら?試合前だっていうのに呑気にカステラなんか食べてる……」


 その光景は遠くから見ていた摩央には、格下相手だから舐めて菓子を食う余裕があるのかと、映って見えた。



「あれが八重葉の伝統、試合の1時間前ぐらいに彼らはカステラを食べる。カステラというのは短時間でエネルギー摂取出来て消化にも良いから、身体に負担をかけずに栄養を吸収出来る。これは実際にプロアスリートもトレーニング中や試合の前後に食べているって聞いた」


 決して舐めている訳ではなく八重葉の決まりで行っていると、摩央の横に立つ京子は冷静に説明。相変わらずの知識に摩央は凄いなと思いながら聞いている。




「(あー、良いなぁ。美味しそうなの食べてて、こっちはそういうの無いからなぁ~)」


 遅刻を怒られた後、サッカー部の青ジャージに着替えた弥一はウォーミングアップに入る。カステラを食べる八重葉を横目で見て、カステラが美味しそうで羨ましいと食べたい欲が増してくる。




「よー、そこのおチビちゃん」


「?」


 弥一に向かって呼ぶ男の声が聞こえた。弥一は声の方向を振り返ると、八重葉のジャージを着た男子が草の上に座っていて、いくつもの菓子パンと菓子が傍らに置いてある。



 座っていて正確な身長は分からないが身体は細い方。緑の帽子を被っており、銀髪が見えている。



「何か羨ましそうにうちの方のベンチ見てたみたいだけど、カステラならあるから食う?あ。これこっそりくすねてきたヤツだから内緒にしといてな?」


「あ、良いの?食べるー」


 帽子を被る八重葉の男子の隣に腰掛け、弥一はカステラを勧められたので遠慮なく封を開けて食べ始める。しっとりふわふわのカステラで心地良い甘さが口の中に広がって、しっかり美味しさが伝わってきた。



 流石優勝校と言うべきか名菓のカステラのようだ。



「うーん、美味しいー♪」


「あーやっぱうちのカステラ美味ぇんだ。毎回食ってるから味慣れちまったせいか、たまには他の食いたいんだけどな」


 美味しくカステラを食べる横で帽子の男子はカレーパンを食べている。これから試合する対戦校と一緒に食事するという、なんとも妙な光景だ。



「試合前なのにそんな食べて大丈夫なの?」


「俺試合出ねぇからいいの。お前は試合か?」


「そうだよー、ベンチだから出番あるのかどうかわかんないけど」


 本来試合開始前に彼のように菓子パンや菓子を多く食べるのは、アスリートとして良くない。だが彼は試合に出ず出番が無いので、こうして好きに食べているのだという。



「まあ出るなら頑張んな。マコは相手が格下だろうが容赦無ぇ野郎だから気をつけるこった」


「マコ?」


「あいつだよ、仏頂面してカステラ食ってる奴」


 帽子の男子が視線を向ける先。弥一も同じように見ると視線の先に居るのは、八重葉のベンチで表情一つ変えずに、カステラを食べてエネルギー補給に務める照皇。


 彼の名前はまことなのでマコと呼んでいるらしい。




「あの人そんな凄い人なの?」


「おいおいお前知らねぇのか、うちの2年エースを。こいつは珍しいな」


 照皇の事を知らない弥一に、帽子の男子は珍しそうに弥一を見下ろす。高校生でサッカーに携わる者なら知ってて当然ぐらいの常識だが、レアケースで疎い弥一は別だった。


「去年高校1年ながらゴールを量産してインターハイ、選手権の得点王に選ばれて八重葉の原動力となった高校No1天才ストライカー、ていうのがマスコミやネットの紹介だ。天才天才言われてるけどあいつは努力の天才、マコ程ストイックにサッカーへ打ち込む奴を俺は見た事ねぇな」



 努力の天才、それが照皇誠という男らしい。ストイックにサッカーへ打ち込む彼ならば立見に対して、手加減して臨むという事はまず無いだろう。


 試合に出て来るとすれば2年エース、高校No1ストライカーの照皇を抑えれられるかどうか。それが重要な鍵になってくるかもしれない。



 帽子の男子の話を聞きつつ弥一はカステラを味わう。



「にしても、立見の女子はレベル高ぇな。あのマネージャーっぽいクールビューティーな子とか良い」


「マネージャーだよー。3年の人」


 帽子の男子の興味は女子、立見側の方でスマホを見てチェックをしている京子の姿が見えて、彼からしたらレベルが特に高いらしい。弥一は京子を3年の先輩マネージャーと伝える。


「ほー、年上の先輩……いいねぇ。あの顧問っぽい先生も捨てがたいけどなぁ」


 京子だけでなく顧問の幸も良いと帽子の男子はそれぞれ見ていた。試合に出ないとはいえ、勝手にカステラをこっそり持ち出したり間食したりと、真面目そうな照皇とは対照的だ。



「八重葉の女子も可愛い子多いんじゃないのー?」


「あー、まあいるけどあの年上の先輩ほどじゃねぇな。あの人彼氏とかいんの?」


「聞いた事ないなぁ。でも見てる限りなんかサッカー以外関心がめっちゃ薄そうだったよ」


「マジか!そいつはマコの女バージョンみてぇだな」


 サッカーから女子の話、他校の試合に出ない部員と弥一は話し込んでいた。




「あ、そろそろ行かないと。ただでさえ遅刻で怒られてるからまたやらかしたら不味い」


「なんだ遅刻してんのか?ちゃんと時間の10分前ぐらいに来なきゃモテないぜおチビちゃん」


「気をつけるよー、カステラごちそうさまー」


「おう、グッドラック」


 見つかる前に弥一は立見のベンチへ向かおうと立ち上がれば、帽子の男子にカステラのお礼を言ってベンチへ走る。幸い彼が他校の者と呑気に菓子を食べる所は見られず、バレないまま戻る事が出来た。



 帽子の男子はパリパリとポテチを食べつつ走る弥一を見ていた。




「(あんな小さいのがベンチ入りねぇ、出たらどんなサッカーやるんだあいつ?)」











「向こうのスタメン、ほとんど聞かない2軍ばかりだけど照皇誠は出て来るみたい」


 試合開始時刻が迫り、両チームのウォーミングアップが終わって気づけば、サッカー部にギャラリーが集まってきている。京子は向こうのベンチを見ておりユニフォーム姿となったのが11人、その中に照皇の姿も見えた。



「1年だけど高さあって競り合いに強い川田が間宮と組んで何処までやれるか、だな。照皇は足元の技術に加えて高さあるヘディングも得意だし」


 成海が1年の川田を採用したのは高さ対策、八重葉には長身の選手が揃って空中戦に強い者が多い。今の2軍のメンバーも身長あるのが何人か見られる。



 対抗してDFの方は身長が高い者で立見の方は揃えてきた。



「照皇の他にも厄介な1軍は出てんな、中盤には村山。最終ラインには大城が居て攻守の要がしっかりいやがる」


 豪山はスタメンの八重葉を見てそれぞれの選手を見る。照皇に目が行きがちだが八重葉は彼だけではない。あの二人も照皇と同じく八重葉の要で1軍だ。




「まあ1軍少ししか出てなくてうちを舐めてるってんならむしろチャンスだろ。逆に叩き潰して思い知らせてやろうぜ、俺らの力を!」


「だな、いっちょかますか!」


 豪山の力強い言葉に成海も頷いて答えると部員達に集合をかける。




 要の3人が居るがそれ以外は名前を聞かない八重葉の2軍、立見にも勝つチャンスはあるとそれぞれが意気込む中で試合開始は迫ってきていた。

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