37.久々の出勤
格ゲー特訓は昨日の夕方まで続いた。
全てのキャラクターでルゼと対戦し、やっと解放された。
そして今日は会社だ。
特訓後に爆睡したから問題はない。
俺は1人で電車に揺られている。
ルゼとは出勤をずらした。
さすがに2人で出勤は恥ずかしかった。
俺が休んでいる間の仕事は本当に大丈夫だったのだろうか。
進んでいないところがあったら今週中に片づけてしまおう。
▽ ▽ ▽
会社に来て業務をこなしているがおかしい。
俺が休んでいる間、業務が滞っていなかった。
これは部下が優秀ということで納得することにした。
だけど、俺が休んでいたことに対して誰も追及してこない。
いなかったのが当たり前かのような雰囲気だ。
ルゼの『魅了』の効果かと思ったが、それも違う。
ルゼは萩原や田端などに休みにどう過ごしたかなど質問攻めにあっている。
なぜ俺だけ…。
休んでる間、忙しすぎて俺にヘイトが向いた可能性も考えた。
だけどみんなは休む前と変わらない距離感で接してくる。
「及川、例の取引先の件なんだけど」
「あ、ああ。どうした?」
「ん?大丈夫?なんか変なものでも食べた?」
「いや大丈夫だ」
萩原は俺の様子を見て首を傾げた。
「それでどうした?」
「あー。先方に送る資料なんだけど、前に作ったのをベースにしたいからデータもらえる?」
「わかった。共有フォルダに入れておくから確認してくれ」
「うん。ありがと」
萩原は挙動不審な俺のことを変人を見るような目で見ていた。
▽ ▽ ▽
「あー。なんかモヤモヤしたなー」
「そうですね。どうぞ」
「ありがと」
俺はルゼから缶ビールを受け取る。
「なんか雰囲気がおかしすぎて、仕事に集中できなかったな」
「うーん。私は違和感なかったですが、言われてみれば私と同じ期間休みを取ったのに何も噂されてないのはおかしいですよね」
「だよねー。休んだから怒ってるのかと思ったら、今までと変わらない態度だし」
俺は色々考察してみたが、正解を導ける気がしなかった。
「異世界転移が関わってそうですね」
「え?」
「だってハルキさんの日常で変化したのは、異世界に行くようになったことですよ?」
完全に盲点だった。
「そうか。異世界に行ったことが影響した。逆になんでもありになったせいでもっと答えがわからなくなった」
「あっ!でも私は違和感がなかったから関係がないのかな?」
「あーもう考えるのはやめる!ルゼ!ダンファイやるよ」
「いいんですか?」
「明日も仕事だから10戦だけね」
「はい!」
ルゼは嬉しそうにゲームの準備を始めた。
▽ ▽ ▽
あれから数日。
違和感は晴れないが、問題なく仕事をこなした。
萩原はなぜかニヤニヤ俺のことを見てきた。
多分ルゼの様子から何かを察したみたいだ。
ルゼは『魅了』を使って今月中に円満退社することが決まった。
そして今日はリディア様が帰ってくる日。
俺とルゼは急いで仕事を終わらせて帰宅した。
ルゼ宅の客間で待っていると、真っ暗な空間になった。
天井が光り、大きな扉が現れた。
その扉からリディア様が降ってきた。
リディア様は華麗に着地した。
「おかえりなさい」
「はーただいま」
リディア様は疲れているようだ
「どうでしたか?」
「無事に弐の島に着いたよ。着いたのは良かったんだけどね」
「何かあったんですか?」
リディア様の顔は引きつっていた。
「ちょっとした地獄があってね」
「地獄?」
「うん。地獄から解放されたから疲れが一気に出たみたいだ。詳しい話は明日するから、ひとまず寝させて」
「わかりました」
リディア様はそういって自室に戻っていった。
俺とルゼは顔を見合わせた。
「大丈夫なのかな?」
「お姉ちゃんのあんな姿は久々に見ました」
「弐の島にはモンスターが大量にいたとか」
「あり得ます。これは気合を入れないといけませんね」
「そうだね」
俺とルゼは気合を入れなおした。
▽ ▽ ▽
翌朝、客間に再び集まった。
リディア様の顔はスッキリしていた。
「昨日はごめん」
「大丈夫だよ。私もハルキさんも気合は入ってるから!寝ている間に魔力も渡しておいたよ」
「うん、ありがとう。ルゼとハルキさんは地獄になるだろうから頑張って」
俺はその言葉に少しビビってしまった。
「タンク達は地獄の中に置いて来ちゃったから、急いで戻ろう」
「わ、わかりました」
「じゃあ行くよ。ワールドトリップ!」
周りが真っ暗な空間になった。
足元が光り、大きな扉が現れた。
俺達は落ちるように扉に入っていった。
▽ ▽ ▽
着いたのは城壁に囲まれた街の中だった。
「え!?街の中ってことは敵がいる?」
ルゼと俺はすぐに戦闘態勢を取った。
『異世界装備』を開くと、みんな範囲内にいる。
俺はビュラを胴、右腕にタンク、左腕にポンプ、両脚にビーとティーを装備した。
「ハルキ、帰ってきたか」
「「「おかえりー」」」
「ハルキー走ろー!」
みんなは相変わらずで少し安心した。
「街ってことは怠惰の悪魔候補がいるんだよね」
「あーいるぞ。あいつは地獄だ」
タンクに地獄って言わせるなんて、相当な奴なのだろう。
「来るぞ!後ろだ!」
後ろを振り向くと走って俺達の元に向かって来ている悪魔族がいた。
走っているのにかなり遅い。
「え?あいつが怠惰の悪魔候補?」
「ああ。あいつは地獄だ」
その悪魔族をよく見ると白衣を着ている。
「え?シャーメイン!?」
ルゼが声をあげた。
「知ってる人?」
「はい。お姉ちゃん!なんでシャーメインがいるって教えてくれないの」
あのヘロヘロで走っている悪魔族はシャーメインというみたいだ。
「いや、シャーメインがいたって言ったら逃げるだろ?」
「逃げはしませんよ!ただ心の準備が必要なだけで…」
2人が警戒していないということは悪い奴じゃないのか。
そんなことを思っていると、タンクが口を開いた。
「ハルキ。絶対に捕まるな。あいつはやばい」
「やばいよ!」
「気持ち悪いんだよー」
「逃げよ!」
「走って!」
みんなの必死さで逆に怖くなってきた。
シャーメインは息を切らしながら、俺達の元にやってきた。
「はぁ、はぁ、ル、ルゼ様。お久しぶりです」
「ひ、久しぶりですね。よく気付きましたね」
「はぁ、はぁ。学院時代を知っていますからね」
シャーメインの息切れは全然落ち着かない。
「はぁ、はぁ、そ、そしてこちらの方がハルキ様ですか?」
「ああ。ハルキだ」
「と、ということは!!!!!!」
シャーメインはいきなり俺に飛びついてきた。
「な、なんなんだこいつ」
シャーメインは俺をベタベタ触ってくる。
「魔法が無い異世界でこの量の魔力を所持している異世界人。この姿は『異世界装備』というやつですか?あーそれとなくタンクさん達の面影が各部位に出てますねー。あーもっともっと見せてください。その素晴らしい身体と力を」
シャーメインはぶつぶつ何かを言いながら俺を触りまくる。
「リディア様!こいつは何なんですか?てか助けてください」
俺はリディア様に助けを求めた。
「あーごめん。無理だ。そいつはシャーメイン。元魔王軍でマジックアイテムの製作と研究をする部署のトップをしていた。昔から研究ばかりやっていて、研究対象になった人はそのように襲われるんだ。ハルキさんには悪いけど生贄になって」
「えー。俺が研究対象ってことですか」
「ああ。シャーメインにとっては私やルゼやタンク達も研究対象だ。誰かが生贄にならないといけない」
「そんな!」
ルゼを見るが目を逸らされた。
俺は諦めて、シャーメインに身を預けることを選んだ。




