閑話:とあるナースの診療記録①
夕方。
色々なお客さんを相手してフラフラな俺。
そしてそんな自分に、よく構ってくる人が居る。
彼女の年齢は多分5個ぐらい上。
聞けないよね怖くて。
「何か失礼な事考えてますね」
「こわっ」
「で? 何ですか?」
「いや気になったんだけど、俺寝てる時音無と刑事さん以外誰か来た?」
「えっと……そうですね、貴方の妹様と神楽様、あとは先生が来られてました」
「へ、へぇ」
「嬉しそうですね。女の方ばっかりですね」
「……」
ジト目のナースさんを見ると、俺が悪いみたいになってて嫌だ。
「あーそういや名前なんて言うんですか?」
「っ! まさか私も口説くつもりで……」
「いやいやずっとナースさんって呼ぶのもアレでしょ、あと『も』って何?」
「……『笑美里』です。えみちゃんって呼んでください」
「質問スルーかよ! というかいきなり下の名前教えるのかよ……」
「うるさいですね」
突っ込み所が多い、一応患者に何てカロリーを消費させるんだよこの人。
「でも、どうして俺にそんな構うんだ?」
「あら? 自意識過剰じゃないですか」
「……恥ずかしい男みたいに言うな! 統計見せてやろうか?」
「理詰めの男性は嫌われますよ」
「ええ……」
このナースさんだけ、他の人に比べてずっと話し掛けてくる。
そしてその要因は恐らく――
「えー、えみりさんは異能持ち?」
「!? 知ってたのですか」
「勘」
「あら」
「だから俺にここまで構うのかと」
少し面食らった様な顔をするえみりさん。
ちょっと心地が良い。
「……同じ異能持ちとして、羨ましかったのかもしれませんね」
「俺が?」
「私も過去に魔法学園の入学を切望していた時期がありました、結局諦めましたが」
「……そっか」
「異能のせいで魔力量は少ないし、回復魔法も下級のものしか扱えませんので。周りにはよく嫉妬しました」
「じゃあ、何で今の仕事を?」
「憧れた魔法使い様がここならよく現れ、看病も出来る――少しでもこの魔法世界の一員になりたかったんですよ」
彼女は話す。
これまでの毒舌が嘘のような、正直な言葉だった。
……何か似てるな、俺とこの人は。
そして自分は幸運だった。実際魔法学園への入学なんて、今の情勢や運、母親の力が無きゃ無理だったろうし。
「ここまで話するなんて思わなかったよ」
「ふふ、同じ異能持ちなんて中々現れませんからね。それに……」
「それに?」
「……気になってたんです。貴方に会う人物は全て魔力が溢れていて、強者の感覚があった」
「分かるもんなんだな」
「ええ。これまで何度も魔法使い様の患者を見てきましたから」
「へぇ」
「後はその、刑事さんの反応とか」
「もちろん聞く気はありませんでしたよ」と付け加え、彼女は俺に淡々と話した。
「以上です。乙女の告白を受けてどうですか」
「……。ああそうだ、えみりさんの異能は?」
「まだ満足せず私の秘密を探ろうと……」
「いやいや違う違う! 気になっただけだって!」
この人は気を抜いたら駄目だな。
「良いですよ貴方になら。久しぶりにやりましょうか……ほら、こっち向いて下さい」
「え? ああ……」
そのまま、彼女の両手が俺の頬へ。
そして目を合わせ――数秒経つ。これが発動条件なのだろう。
「はーい、リラックスリラックス」
「……」
「はい、『笑って』」
瞬間。
《――「ねぇ優生くん! 一緒に帰ろ~!」――》
《――「碧、明日遊びに行こうぜ」――》
《――「私の魔法特訓、付き合ってよ優生!」――》
頭の中で湧き上がる、相野市、転校前の風景。
ああ、楽しかったなあの時は……
あれ? なんで俺今こんな事を?
「はっ……まさか」
「良い笑顔でしたね。これが私の異能ですよ」
「ま、マジか」
「……どうです? 何の戦闘能力も無い、ただ人を笑わせるだけですよ。泣きじゃくっている子供に困る母親を助けられるぐらいですかね」
少しだけ悲しそうに話す彼女。
そりゃ、戦闘方面じゃ駄目だろうけど。
「凄いなこれ」
「!」
「自分ならこんな事出来ないし、魔法でもきっと難しい。初めてだよこんなのは」
「もうっ……これ以上私を口説くのは――」
「――口説きじゃねえよ! 本当に良いモノだと思う。きっとコレを持つことで、沢山の人を助ける事になるはずだ」
はぐらかす彼女には、せめてこれだけは伝えたかった。俺の異能なんか比べ物にならない程に人の為になるはずだ。
初めて人の異能を羨ましいと思った。
それを使えば、昔の悲しんでいた家族を笑顔に出来たのだから。そりゃ一時的にだけどさ。
「……」
「あ。ごめんなさい熱くなった」
「……いいえ」
「怒った?」
「まさか。逆ですよ」
「逆?」
「……それでは」
そのまま、彼女は出て行ってしまう。
俺の顔は凝視した癖に、帰る時は全く顔を見せなかった。
ま、怒ってないなら良いか!
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