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お客様御一行


「どこだよここ……」


視界のほぼ全てが真っ白だ。

白の天井、後ろにある謎のボタン、白のベッド……。


「病室か」


これだけヒントがあればすぐに分かった。

というか、そういえば俺が駆け込んだ場所がそうなんだよな。

よく考えなくても分かるってもの。


「あ、音無は」

『ピリリリリリ!!』


思い立って、ベッドから降りようとすると突如鳴るアラーム。


「……やべ」


何となく分かる。これ鳴らしちゃいけないやつ。

知らないフリして寝とけばバレないか……。



「……ぐぅ……」

「……バレないとでも思いました?」

「あ、やっぱ駄目っすか……」


その後すぐ1分経たずに、訪れたナースっぽい人。

寝たフリ作戦は一瞬で崩壊した。


「全く、別に怒ったりはしませんよ? ただ安静にして頂ければ」

「あ、はい」


顔が怖いよナースさん。


「碧さん、あなた何時間寝てたか分かりますか?」

「……えっと、ニ時間ぐらい?」


「惜しいですね。その三十倍ですよ」


一体何処が惜しいのか分からない。

でも俺そんな寝てたのか……

確かに身体中針で刺されたし、能力の使いすぎで体力もほぼゼロだったしな。

音無の所に辿りついた時点でヘロヘロですよ。


「ま、まあでもそれだけ寝たらもう大丈」

「……」

「はいすいません安静にしておきます」


無言の圧力。

でも正直、そこまで身体が怠いとか痛いとかはない。


「……一応、碧さんの身体はもう完治に近い状態です。あんな重症でこんなに回復が早いケースは珍しいですね」

「お、じゃあ」


「ですが念の為、しばらくはここに居てもらいます。いいですね?」

「ああ、はい」


「……お客さんも沢山来てましたし、退屈はしないでしょう。それではまた」


そう言って、ナースは出て行く。

お客さん?

果物くれ。



「――君が、碧優生くんだね?」



間髪入れず、ドアが開かれる。

ガッチリとしたその服の男、そして胸にある『紋章』。

何処かで見たぞ、それ。


あ。思い出した。

これは確か、父さんの。


「『魔法警察』の者です。少し話、伺えるかな」

「は、はあ」


ごめんなさい果物要らないです。思ってたお客さんと違ってた。

ま、俺達が戦った奴について知れるなこれで……。





「なるほど……『紙』ですか。紙魔法の使い手か、珍しいな……そして恐らく女、年齢は同じ位と」

「はい、多分ですけどね」


取りあえず知っている事を全部教えてくれ、とだけ言われたからその通りにした。正直音無を助けるのに必死だったせいであまり見れなかったけど。


「――『スナッチ』。私達は、彼らをそう呼んでいる」

「そいつらは何かを盗んでいるんですか?」


「ああ。そのままの意味で『魔法』だ。彼らは被害者から魔法の才……『魔法適性』を奪い、被害者はこれまで使えていた魔法が使えなくなる」


神妙な顔でそう告げる刑事さん。


「エグい事しますね」

「そうだ。しかし不甲斐無いことに、そのスナッチの一人も捕まえられていない、奪う方法すらも不明だ」


「……そうですか」

「今の所、奪われた者は一人。だがその子は将来有望な魔法学校の学生だった。彼女の未来は何としても取り返すつもりだが……このザマだ。実に不甲斐ない」


「……」


もし俺がその被害者の立場だったなら、きっと絶望しているだろう。

……スナッチか。


「ありがとう。君のお陰でかなり情報を得られた……早急に、奴らを捕まえないとな」


立ち上がり頭を下げる刑事さん。

……何か出来ないか?

そうだ。見ただろうアイツの顔を。

口で言うだけじゃ足りない、姿形をそのまま伝えるんだ。



「刑事さん、紙と筆記具持ってます? 出来れば色が一杯あるやつ」


「……? あるにはあるが、四色ボールペンと手帳ぐらいだ」



若干不思議そうに胸ポケットから取り出す刑事さん。

まああるよな。よくドラマとかで聞き込み調査とかしてるし。

それだけあるなら充分。


あんぱんと牛乳も持ってたら120点でした……うん、今はふざけてる時じゃない。

被害者の為に、異能には役立ってもらう。



「ありがとうございます」



受け取る。

入院中だろうが、知ったこっちゃない。

これで少しでも彼女のような被害が出ないなら。



「……ふう」



思い出せ。あの光景の全てを。



『どうしてここが分かったっすか』

『千刃鶴!』

『へへ、油断したっすね!』



あの時言っていた仮面の台詞。

着ていた服はどんなだった? あの仮面はどんなだった? 癖は、口調は?

思い出す限りをこの一ページに。

いやそれだけじゃ足りない。


「もっと」


手帳を一枚、さらに一枚と千切っていく。

あの時の光景を思い出しながら。



「『模写トレース』」



手に持ったペンを握り、その力のトリガーを引く。

ペンは『描く』力を。

手帳は『描かれる』力を。

二つ一気に、思いっ切り引き出す。

一ページ一ページ、俺があの時見た光景を覚えている限り、そのままに写していく。


台詞も書き加え、まるでそれは実写の漫画の様に。

色も出来るだけ近く。

気付けば百ページを超えていた。


「次はアイツの顔だ」


仮面は付けていたものの、横顔や後ろ、髪型髪色様々な情報が俺の頭には残っている。

絞り出すんだ、あの女の全てを。



「…………こんなもんか」



ある程度ではあるが、仮面の情報を紙に描いた。

頭がキリキリと痛む。身体も怠い……。

流石に急に力と頭を使い過ぎたか。


「犯人はこんな感じですかね」

「……」

「あの」


呆然としている刑事さんに声をかける。


「! す、すまない。少々驚いた。これだけの情報が有れば……この仮面の女が捕まるのはもう直ぐだ」

「あー、そりゃ良かった」


俺の力が少しでも役立った様で、何よりだ。

身体をベッドに持たれ掛ける。しんどくなったら直ぐ寝れるの良いね。

ダメになっちゃいそう。



「君は、一体」

「刑事さんのペンと手帳のおかげ。それじゃ早く捕まえて下さいよ」


「あ、ああ。任せてくれ! っと、忘れてはいけない……これは私の連絡先だ」



俺の書いたモノを集めて仕舞い、電話番号が書かれたメモを置く刑事さん。



「何かあれば遠慮なく声を掛けてくれ」

「は、はあ……」


「それじゃ。ありがとう!」

「……はーい」



慌ただしく、礼だけ言って出て行く。

きっとこの後も捜査があるのだろう。大変そうだ。

俺は少しの間ここで寝ていよう。



「……」

「……あの、その目で見るのやめてもらっても……」



刑事さんが出て行くやいなや。

さっきのナースさんがドアを小さく開けて、ジトっとした目で見てくる。



「『安静に』。そう言いましたよね?」

「えっ……いや別になにも」


「嘘はいけませんよ? 貴方と私は『同じ』なので分かります……全く。次のお客さんが見えてますから、それでは」


念を押す様にそう言った後、ドアを閉めて離れる彼女。

流石に見抜かれたか、まあ今回ばかりはしょうがないし……。

というか、また客かよ! って同じって何?



「……」

「ほら、碧君ならあちらに」


「や、やっぱり」

「駄目ですよ! 彼待ってますから!」


「う……」



なにやら話し声が聞こえる。

ナースさんと……小さい声で分からないが、女の子の声だ。

しばらくやりとりが続いたのち、ドアが開く。



「あ、碧君……」



声と共に、ヘッドホンを外した彼女が顔を見せる。

……どうやら次のお客さんは、音無らしい。





「……その……」

「うん」


「……」



あれからどれ程経っただろうか。

時計の針を見るのは失礼だから見ないとして。

音無が何か言いたいってのは分かるんだがさっきからずっとこんな感じだ。


しかしここで俺が遮ってしまったら、それは駄目な気がする。



「……あの……」

「はい」


「……」



また止まってしまった。

必死そうな音無の顔。

……流石に助け舟出すか。



「今日は安静にしろって言われてさ……だから」



我ながら下手なフォローだが、無いよりマシだろう。



「今日はいつまでも待ってやるから」

「!」



実際ベッドで寝転がり続けるよりは退屈しないしな。

なんか変な緊張感あるし。

フォローが効いたのか、音無の表情が少し和らいだ気がする。



「……あの、ね……」

「ああ」



小さな声が少しずつ大きくなっていく。

彼女の顔が少しずつ上を向いていく。



「ありがとう」



目があった瞬間、音無はそう告げる。

初めて見る、長い前髪から覗いた綺麗な目。ほんの少し鼓動が早くなる。



「あ、ああ。どういたしまして」



意味もなく音無から視線を外し、上を向いて俺は言う。何やってんだ俺は。こんな初心(ウブ)な少年だったか?



「……」

「……」



再び流れる沈黙。

しかしそれは、さっきのものとは少し違った。



「碧、君」

「何だ?」


「碧君……」

「うん」


「僕と、その友達に……」

「ああ」


「なって、下さい」

「良いよ」

「!」



とある病院の一室で。

俺は星丘初の、『友達』が出来たのだった。

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