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閑話:とあるナースの診療記録②

視点変わりまして、ナースさんです。今後も少し出てきます。



思えば不思議な患者だった。

魔法によって傷だらけになった身体で、一人の少女をこの病院まで運んで……力尽きる様に倒れた。



《――「お兄ちゃん……」――》


《――「ったく。アタシ以外のヤツにやられんじゃねぇよ……」――》


《――「優生、本当に君はトラブルメーカーだな……というかアレから一度も連絡を」――》

《――「松下先生、無事が分かったんならすぐに帰りますよ~」――》



そして彼の様子を見に来た人は、明らかに魔力量が多く――何よりオーラがあった。特に妹様とやんちゃっぽい女の子。

最後には魔法警察の刑事まで。


「異能持ちなのに、魔法学園の生徒……」


私は異能持ちで、魔力量も魔法適正も低かった。だから入学出来なかった。


正直、ちょっと嫉妬していた。

星丘は近年、魔法学園の名を持ちながらも異能持ちの生徒を取り入れている。

彼もきっとその恩恵に預かって入学出来たのだろう。


当然訪れる人達を見たら分かった、彼自身に実力があることは。それでも――黒い感情は私に降ってくる。

それに、あの奏ちゃんっていう可愛い女の子も居るのに! 彼は一体何人女性を呼び寄せるんですか!


……そういう訳で、私が碧優生に抱いた感想は良いものではなかったのだ。




はず、だったのに。

どうして今――私は、寝ている彼の両頬を両手で包み込んでいるのか?



「……ごめん、母さん……ごめん……」

「……俺、もう、生きてく意味が……」

「だから……死なせ――」


「わ……『笑って』!」



……正直、異能を使うとドッと疲れるから嫌いだった。具体的に言うと三時間ぐらい一気に働いた感じですかね。


でも見回り中、彼の苦しそうな寝言を聞いてしまって我慢出来なかったんです。

起きている時の脳天気な彼とは違った、その苦しそうな顔に。

その――胸が締め付けられる様な表情に。


「……」

「あ、もう……」


そして彼のこのあどけない笑顔。その、母性を刺激されるというか。

ただそれだけじゃこんなに彼の事を気に掛けません。



《――「口説きじゃねえよ!」――》

《――「きっとコレを持つことで、沢山の人を助ける事になる」――》



あんな事言われたら、ね。

本当に嬉しかった。

そして彼をこうして助けられる事に、今喜びを感じていて。

というか彼と話すのが楽しみになっていて。

休日にまでココに来ている始末。


……もしかしたら。

もう、すでに私は彼に――


「……」

「あっ奏ちゃん!」


扉からこっそりと覗く彼女に気付き、慌てて手を離す。時間は八時前。彼らは学校の準備をする時間ですね。


「……あ、碧くん元気ですか?」

「ええ。この通り」


静かに笑う彼女。可愛いですね。

その風貌とは反対に、魔力量はこれまでの来客の中でも恐らく一番ですが。


「……あの、奏ちゃん」

「?」

「この方、凄まじい『女たらし』かもしれませんのでご注意を」

「……!」


動揺しているのが分かります。


でも、これ。

一体誰に向けての注意なんだか。


「じゃ、お着替えすると思うので外で待っててくださいね」

「……はい」


出ていく彼女。

さて、そろそろ起こしてあげないと――


「――っ!! って夢かよ……」


なんて思ったら目覚める彼。もう時間も無いっていうのに。




「どうぞ、気を付けて帰ってくるんですよ」

「はーい」


やがて、彼は行ってしまう。

寂しい。

というかいつか退院はしてしまうんですよね。


……はぁ。

私も、学生に戻りたくなってしまいます。

なんて。もうすぐアラサーなのに何を思っているんだか。



「……行ってらっしゃい」



遠くなる背中に声を掛ける。

嫌いだったこの異能が。自分の事が――少しだけ好きになれた。


それは紛れもなく、どこぞの不思議な患者のおかげ。



「さて、今日も頑張りましょうか!」


次でエピローグです。

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