閑話:とあるナースの診療記録②
視点変わりまして、ナースさんです。今後も少し出てきます。
思えば不思議な患者だった。
魔法によって傷だらけになった身体で、一人の少女をこの病院まで運んで……力尽きる様に倒れた。
《――「お兄ちゃん……」――》
《――「ったく。アタシ以外のヤツにやられんじゃねぇよ……」――》
《――「優生、本当に君はトラブルメーカーだな……というかアレから一度も連絡を」――》
《――「松下先生、無事が分かったんならすぐに帰りますよ~」――》
そして彼の様子を見に来た人は、明らかに魔力量が多く――何よりオーラがあった。特に妹様とやんちゃっぽい女の子。
最後には魔法警察の刑事まで。
「異能持ちなのに、魔法学園の生徒……」
私は異能持ちで、魔力量も魔法適正も低かった。だから入学出来なかった。
正直、ちょっと嫉妬していた。
星丘は近年、魔法学園の名を持ちながらも異能持ちの生徒を取り入れている。
彼もきっとその恩恵に預かって入学出来たのだろう。
当然訪れる人達を見たら分かった、彼自身に実力があることは。それでも――黒い感情は私に降ってくる。
それに、あの奏ちゃんっていう可愛い女の子も居るのに! 彼は一体何人女性を呼び寄せるんですか!
……そういう訳で、私が碧優生に抱いた感想は良いものではなかったのだ。
☆
はず、だったのに。
どうして今――私は、寝ている彼の両頬を両手で包み込んでいるのか?
「……ごめん、母さん……ごめん……」
「……俺、もう、生きてく意味が……」
「だから……死なせ――」
「わ……『笑って』!」
……正直、異能を使うとドッと疲れるから嫌いだった。具体的に言うと三時間ぐらい一気に働いた感じですかね。
でも見回り中、彼の苦しそうな寝言を聞いてしまって我慢出来なかったんです。
起きている時の脳天気な彼とは違った、その苦しそうな顔に。
その――胸が締め付けられる様な表情に。
「……」
「あ、もう……」
そして彼のこのあどけない笑顔。その、母性を刺激されるというか。
ただそれだけじゃこんなに彼の事を気に掛けません。
《――「口説きじゃねえよ!」――》
《――「きっとコレを持つことで、沢山の人を助ける事になる」――》
あんな事言われたら、ね。
本当に嬉しかった。
そして彼をこうして助けられる事に、今喜びを感じていて。
というか彼と話すのが楽しみになっていて。
休日にまでココに来ている始末。
……もしかしたら。
もう、すでに私は彼に――
「……」
「あっ奏ちゃん!」
扉からこっそりと覗く彼女に気付き、慌てて手を離す。時間は八時前。彼らは学校の準備をする時間ですね。
「……あ、碧くん元気ですか?」
「ええ。この通り」
静かに笑う彼女。可愛いですね。
その風貌とは反対に、魔力量はこれまでの来客の中でも恐らく一番ですが。
「……あの、奏ちゃん」
「?」
「この方、凄まじい『女たらし』かもしれませんのでご注意を」
「……!」
動揺しているのが分かります。
でも、これ。
一体誰に向けての注意なんだか。
「じゃ、お着替えすると思うので外で待っててくださいね」
「……はい」
出ていく彼女。
さて、そろそろ起こしてあげないと――
「――っ!! って夢かよ……」
なんて思ったら目覚める彼。もう時間も無いっていうのに。
☆
「どうぞ、気を付けて帰ってくるんですよ」
「はーい」
やがて、彼は行ってしまう。
寂しい。
というかいつか退院はしてしまうんですよね。
……はぁ。
私も、学生に戻りたくなってしまいます。
なんて。もうすぐアラサーなのに何を思っているんだか。
「……行ってらっしゃい」
遠くなる背中に声を掛ける。
嫌いだったこの異能が。自分の事が――少しだけ好きになれた。
それは紛れもなく、どこぞの不思議な患者のおかげ。
「さて、今日も頑張りましょうか!」
次でエピローグです。
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