十話(五章 完)
短いです。
「すまなかったな。迷惑をかけた」
鏖殺人の第一声は、疲れを感じさせない謝罪だった。
どう反応すべきか判断に困り、トモカズもとりあえず頭を下げる。
それから、不躾であることを承知の上で鏖殺人の姿を────特にその顔を見つめた。
意識不明で担ぎ込まれたというのに、その顔は依然として仮面に覆われている。
ここに運ぶ際、誰もそれを外さなかったためにそうなっているのだ。
正確には流石に外そうとしたのだが、意識を取り戻した彼に抵抗されたので、つけたままになってしまったのである。
──他国の転生局メンバーもそうだけど、どうしてあんなに仮面に拘るんだ?息苦しいだけだろうに……。
最初に、リュウに仮面を外すかどうか聞いて機嫌を損ねたことを、トモカズはぼんやりと思い出す。
急に倒れた際にも外さないとなると、その拘りは何やら異様なように感じられた。
だからこうして、気になって見つめてしまったのである。
「……会議の参加者は、どうなった?」
何ら言葉を発さないトモカズに焦れたように、鏖殺人から質問をしてくる。
それでようやく自分を取り戻したトモカズは、慌てて報告をした。
「会議は一時中断して、刃野局長と天司顧問にはそれぞれの滞在場所に移動していただいています。お二方とも、ティタン局長のご容態を心配しておられました」
「これからの会議の予定については?」
「お二方とも、ティタン局長の判断に従うと」
「そうか。なら、今年の会議は中止だな」
一瞬、トモカズは驚愕から目を見開く。
そして同時に、強い安堵感に包まれた。
いくら一度倒れたとはいえ、鏖殺人があれ程の雄弁を振るった会議を急に中止にするというのは、驚くべき決断だったが────それ以上に、予定よりも早くに仕事が終わった喜びの方が強かった。
鏖殺人の気分が変わらない内に、トモカズは了承の意を示す。
「分かりました。刃野局長と天司顧問にはそのように伝えておきます。司会役であるティタン局長のご気分がすぐれないのであれば、続行は不可能ですしね」
トモカズの言葉を受けて、鏖殺人は微かに頷く。
しめしめ、早く帰れる……などと思いながら、トモカズは最後に補足に質問を入れておく。
「あの、一つだけお聞きしたいことがあるんですが……」
「何だ?」
「今年の会議でやり残してしまった議題は、どうしましょうか?第六十六条については、結論が出ませんでしたが……」
「来年度に持ち越しだな。とりあえずは、前回の会議の決定を暫定処置として継続する。新しい内容についてはまた今度だ」
分かりました、と言いながら、トモカズは踵を返す。
この決定を、残り二人の転生局トップに伝えないといけないからだ。
だが、そのために────彼は、鏖殺人の最後の呟きを聞き逃してしまうのだった。
「そうだ、来年度決めるしかない……『来年』が存在すればの話だが」
五章の中で登場した拷問使やドラクル帝国、タイガ王国については、拙作の「拷問にも、才能って要るよね?」(https://ncode.syosetu.com/n5343fs/)で詳しくやっています。
興味のある方は、お読みいただければ幸いです。




