表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
内務省所属平和庁直属特務機関「転生局」  作者: 塚山 凍
五章 鏖殺人と仮面舞踏会
68/200

三話

 かつてこの世界には、タイガ王国という国家が存在した。

 佐藤トシオの手によって滅んだ国の一つであり、現在では存在したこと以外の記録がないのだが、それなりに繁栄した国家であったことは分かっている。

 少なくとも、アカーシャ国の建国者たちが自国の旗頭として、そこの王族の末裔を担ぎ上げる程度には、名が知られていたのだろう。


 現代になっても、アカーシャ国には王族が存在するが、彼らは当時担ぎ上げられたタイガ王族末裔の、さらに末裔である。

 基本的に、「君臨すれど統治せず」を地で行く人々であるため、国内において実権などは持っていないのだが、魔法大戦から生き延びた一族、という点がある種の神秘性をもたらすのか、国民からの人気は高い。

 国の象徴たる彼らの生活費はすべて国が面倒を見ている──もちろん税金で──のだが、不満に思う国民も少ないらしい。


 ただ、建国から百三十年以上も経つと、王族にもある問題が発生する。

 血が繋がった人物が多すぎる、という問題である。


 子沢山の王が多かったためか、建国百年を過ぎたあたりから、王族の数が、税金で生活の面倒を見ていられる数を上回り始めたのである。

 当然 そして仕方なく、国は血の繋がりが薄いものから切り捨てていくことになる。

 切り捨てられ、王族でなくなった彼らは、「天司」という名字を与えられ、一般市民として生きていくことになったらしい────。




 ──コネがあるから、公務員になる人が多いとは聞いていたけど、まさかこんなところで会うなんて……。


 エリカが差し出した徽章を見た瞬間から、トモカズは興奮を隠しきれなかった。

 王家に属していた人物のみが持つことを許される、白百合の徽章。

 エリカの態度を見るに、王家を離れた現在でも、思い出代わりに持っている人物は多いらしい。


「……まあ、事情は察してもらえると助かるんだけど、色々あって転生局の顧問になったの。それで、早馬はここにおいていい?」

「は、はい」


 トモカズの返した声は、自分でも嫌になるほど震えていた。

「元」が付くとはいえ、基本的に遠目に見ることしかない王族と接する、というのがトモカズにとっては初体験であり、どう返答すればいいのか分からなかったのだ。


 理屈上、トモカズはどのような政治的立場にも立たないマーズ大書院の職員なのだから、エリカに対してそこまでへりくだる必要もないのだが、そんなことは既にトモカズの頭から消え去っている。

 この辺り、やはりトモカズはアカーシャ国民だった、ということになるのだろう。


 混乱しているトモカズをよそに、エリカの動きは速かった。

 あっさりとトモカズの横を通り過ぎ、馬を厩舎につないでから、その馬を愛おしそうに一度、撫でる。

 それから、何もなかったように、すたすたと歩いて厩舎から離れていった。


 やっていることは使用人のそれと変わらないのだが、生まれのせいかその行動の一つ一つが、何故か流麗に見える。

 尤も、これにはトモカズの欲目も入っている。


 彼女が立ち去ってからも、トモカズはしばし呆然としていた。

 辺りに匂う、厩舎には不釣り合いな香水の香りに浸ったままで。







 それから、慌ててトモカズが会議場に戻ってから、すぐに。

 会議は始まった。







「それでは既定の参加人数に達したので、例年通り、『転生憲章契約改定に関する国際会議』を開催したいと思います」


 広い会議場でもよく通る声で、鏖殺人が開会を告げる。

 司会役は毎回変わると聞いていたが、今年はグリス王国にその順番が回ってきたらしい。

 ふと隣を見れば、相変わらず木のお面を身に着けたリュウも、また仮面舞踏会ファッションのままのエリカも、鏖殺人の言葉にしっかり頷いていた。


 ──これで、開会に対して不満はない、という意思表示とみなすのか?


 そんなことを考えていたからだろうか。

 トモカズは少しの間、司会である鏖殺人が自分を見つめていることに気が付かなかった。


 それでも、強い視線を感じ、ん?と見返してみれば、そこには鏖殺人の青い仮面がある。

 いや、彼だけではない。

 いつの間にか、リュウも、エリカも、その視線をトモカズに向けていた。


 ──何だ、これ?


 見つめられている理由が分からず、一瞬トモカズはパニックを起こしかける。

 だが、さすがに可哀想になったのか、鏖殺人からフォローが飛んできた。


「開会にあたって、不満でもあるのかな?マーズ大書院の責任者君?」


 明らかにからかいの響きを含んだその言葉に、トモカズはようやく自分を取り戻す。


 ──そうだ、確か最初に、俺が会場の使用許可を明言しないといけないんだった……!


 そもそも、トモカズがここにいること自体、その使用許可を明言する役割を押し付けられたからである。

 普段会わないような人間にばかり会っていたせいで、本来の役割を忘れてしまっていた。

 慌ててトモカズは立ち上がり、必死で声を張り上げる。


「れ、例年通り、お集まりいただき、ありがとうございます。マーズ大書院館長代理として、以降六時間、この場所の使用を許可しま、す?」


 自分の言葉に自信がなかったためか、語尾が疑問形になってしまった。

 その言葉を聞いたエリカは、優雅に口元を手で覆う。

 笑いを隠したのだろう。


 鏖殺人とリュウは何も反応を返さなかったが、呆れているのは雰囲気でわかった。


 ──すいません、いや、本当にすいません……。


 心の中で盛大に詫びながら、トモカズは何とか着席する。

 顔から火が出そうだ。


「はい、結構。不満はなさそうです。……では、各議題について話しましょうか」


 仕切り直しだ、と言いたげな鏖殺人の口調は、うつむいたままのトモカズに止めを刺した。

 気分が一気に暗くなる。


 ──まあ、これで俺がするべき仕事はもうないんだから、良いか……。


 会議参加者たちがペラペラと資料をめくる音を聞きながら、トモカズはそんなことばかり考える。

 なんだか、一生分の恥をかいてしまった気分だ。




「では、第七条について。『この世界を訪れた異世界転生者に対し、三国は情報の共有を目的とし、これを努力する』……。これについて、私としては変更の必要は感じません。お二方は?」

「異議なし」

「異議なし」


 リュウは青年らしい明るい声で、エリカは歌手を思わせる深い声で。

 各々が鏖殺人の考えに同意を示す。

 それを見た鏖殺人は一つ頷き、手に持った紙を一つめくる。


「それでは、続いていきましょう。第七条の施行細則について……」


 ──転生憲章の会議って、こうやって進むんだな……。


 会場の使用許可を出して以降、取り立ててやることもないトモカズは、新鮮な心境でその光景を見つめた。

 やっていることと言えば、司会者が旧来の転生憲章の条文を読み上げ、変更すべきか否か尋ねるのみ。

 会議の雰囲気は平和そのものだ。


 正直に言えば、斬り合いに発展しそうなほどにまで活発な議論が行われる、と聞いていたトモカズは、拍子抜けした。

 尤も、今鏖殺人が確認しているのは、あくまで条文の最初の方────三国における基本方針の確認のようなことであり、さして反対するほどの内容は存在しないのかもしれないが。


 ──ただ、それを踏まえても、緊張感は案外無いな……。


 暇に任せて、トモカズは会議場の様子を観察する。

 マーズ大書院の敷地内で、最も大きいホールなのだが、観覧席に立ち入る記者の数は意外に少ない。そして、その少ない記者たちも、会議に大きな動きがないせいか、トモカズと同様に暇そうにしている。

 このことも会議の緊張感をそぐ原因だろうが────。


 ──一番は参加者の服装だろうな……。


 トモカズは視線を下げ、各国転生局局長の姿を改めて観察する。

 やはり目を引くのは、エリカのドレスだろう。さして強くもない照明の中、キラキラと輝いていることを見ると、生地に宝石でも散らしているのかもしれない。

 また、彼女が依然として身に着けている蝶型の仮面も、強い印象を残す。


 それに引きずられてか、トモカズの目には、リュウや鏖殺人の格好も、仮面舞踏会の仮装のように見えてきた。

 実際、剣だの刀だのと言った物騒なものを排除すれば、彼らの格好は仮装以外の無いものでもない。


 そういった視点から眺めていると、話し合っている内容こそ無骨そのものだが、自分が仮面舞踏会の会場に紛れ込んだかのような感覚までしてくる。

 トモカズは、忘れていたはずのめまいに自分が再び囚われていくのを、はっきりと感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ