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内務省所属平和庁直属特務機関「転生局」  作者: 塚山 凍
四章 鏖殺人と「人間」の少女
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十話

 一度、鏖殺人を「神」と認識してからは早かった。

 鏖殺人に引き取られてから、随分と時間が経ったある日……若くして一等職員となったユキは、いよいよ転生局で研修されることになった。


 研修に挑む一等職員の多くは、配属初日にその部署の人間から面接を受ける

 ユキと鏖殺人もまた、旧知の仲とは言え例外ではなかった。

 鏖殺人が行った面接の内容を、ユキは今でも昨日のことのように思い出せる。




「……失礼します」


 車椅子から身を乗り出して、ユキは器用に局長室の扉を開ける。

 相手が開けるのを待つこともできるのだが、「神」にそんな雑事をさせたくはない。

 器用になった自分の動きを見せるためにも、ユキは自ら車椅子を動かして室内に入った。


 いい加減古くなっていたせいか、ユキが車輪を回す度に車椅子はきゅらきゅらと音を立てる

 ユキとしては慣れた音なので、気にせずに回し続けた。

 鏖殺人が嫌がるのであればすぐにでも買い替えるが、今のところそう言われてはいないのだから、これくらいは良いだろう。


「いらっしゃい」

「どう、も」


 最初に返事をしたのは、重厚感のある椅子に腰を掛けた鏖殺人。

 続けて軽く挨拶をしたのは、副局長の白縫だった。

 二人とも、出勤初日ということでユキのことを待っていたらしい。


 ──この人たちに会うのも、久しぶりだな……。


 彼ら二人を見て、ユキは思わず懐かしい感覚に囚われる。

 実を言えば、この時点でのユキは二人と殆ど会えていなかった。

 特に白縫などは、足の治療が「地球の医療技術を使っても、これ以上は良くならない」という状態になってからは全く会わなかったので、久々の再会だったのである。

 

 そして鏖殺人もまた、ユキにとっては懐かしい相手だった。

 この面接の約一年前、彼とユキの同居は解消されていたからである。

 元々、多忙さからあまり家に寄り付かない人だったが────ユキが大体の日常生活を自分の手で行えるようになると、鏖殺人はユキに一人暮らしをするように告げて、家を出てしまったのだ。




「俺は、君と永遠に一緒に生きてやれるわけじゃない。酷なようだが、君もいつかは一人で社会に出なくてはならなくなる。足のハンデや、免罪符のハンデを抱えてもだ」


「君が人間であることの証明のために引き取るとは言ったが、周囲の様子からするとその証明は既に十分出来たようだ。もう大丈夫だろう」


「そしてこれまでの生活を見てきた限りでは、君にはもう一人で生きられるだけの力がある。なら、一人で生きるべきだ……通いの介護士は送ろう。だがそれ以外の場面では、俺はもう君とは会わない。その必要を感じない」




 ユキを引き取った時と同じく、その提案は唐突だった。

 鏖殺人はずっと、淡々とそんな理屈を説いていたと思う。


 しかし当然の帰結として、ユキは動揺した。

 鏖殺人との生活の中でユキが涙を流したのは、あの時が最初で最後だ。

 気が触れたかのように暴れ、わめき、何度も鏖殺人に縋りついて────それでも、鏖殺人が態度を変えることはなかった。


 ……実を言えば、それまでの生活の中で薄々分かってはいたのだ。

 鏖殺人が、あくまで仕事としてユキを引き取ったのだということは。

 彼を「神」と呼ぶほどにまで慕っているのはユキの方だけで、鏖殺人はユキに対して、人間的な興味を抱いていないようだった。


 基本的に、鏖殺人には私欲という概念が無い。

 彼が話す言葉は、全て本心であり────本心であるが故に、口に出された言葉はそれ以上の意味を持たない。

 別にユキを他者よりも優先して可愛がったとか、その人間性に惹かれて引き取ったとか、そんなことは一切ないのだ。


 だからこそ、ユキが一人でやっていけるようになったのであれば、鏖殺人の仕事は終わる。

 仕事が終わった以上は、もう関わらない。

 それだけの話だった。


 彼が出て行ったことを、ユキは悲しいとは思わない。

 苦しいとも思わない。

 自分が崇めた人物はそういう考え方をしていた、と言うだけの話だ。


 そもそもユキは、「神」に見返りなど求めない。

 こちらが勝手に崇めているだけなのだから、当然だろう。

 だから重要となったのは寧ろ、この状況でも、自分が鏖殺人を追いかけるための方法であり────そう考えたからこそ、幼い頃からの夢を叶えて、こうして一等職員になったのだった。






 ──でも、今は懐かしがっている場合じゃないかな、面接面接……。


 そこまで思い出してから、ユキは長い回想を打ち切り、面接官となる鏖殺人を改めて見据える。

 彼の様子は、ユキの知っているそれと全く変わりが無かった。

 顔を隠す青い仮面を身に着けたまま、彼は腕を組んで椅子に座っている。


 ──何を考えているのかな……。


 今は上司となった鏖殺人を見ながら、ユキの頭には愚かな疑問が浮かんでくる。

 当然、解答はすぐに思いついた。


 ──異世界転生者のことだよね、やっぱり……仕事熱心だから。


 彼は多分、そのこと以外については思考しない。

 だが、それでいい。

 相手がユキに全く興味を抱いてなくても、その傍らに行くことさえ出来れば。


「それでは……出勤初日ということで、多少は知識を確かめさせてもらおう。局長と副局長で、簡単にだが面接をさせてもらう」


 急に鏖殺人が口を開き、部屋の空気はそこで一気に引き締まった。

 もっとも、鏖殺人の声に聞き惚れていたユキは別だったが。

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