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内務省所属平和庁直属特務機関「転生局」  作者: 塚山 凍
三章 鏖殺人と証言集
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ある村民の述懐 その二

 異世界転生者を運び込んだ後のことはね、まあ何とか覚えていますよ。

 村長の驚いた顔だとか、雑貨屋の泣き顔とかね。


 最初にしたことですか?

 確か、駆け付けた奴らが口々に「そのままじゃ危ないんじゃないか」って言いだしたんで、異世界転生者を縛ったんですよ。

 俺は、異世界転生者を縛りもせずにリヤカーに積んでたんでね。


 今思えば、本当に危険でしたね。

 もし運んでいる最中に異世界転生者が起きだして、後ろから襲われたら俺は死んでましたよ。

 そうじゃなくても、逃げられる可能性もあったし……。


 ええ、ええ。

 その時も、異世界転生者はぐっすりと眠ったままでしたよ。

 リヤカーに積まれている間も、だいぶ揺れたはずなんですけどね。


 やっぱりあれですね。

 さっきも言いましたけど、<門>を潜るのは大ごとなんでしょうね。

 近くにいただけの俺でもあんなに気分が悪くなったんだし、真っただ中にいた異世界転生者はそりゃあ、一日や二日寝込むよなあ。


 ほら、よく言うでしょ?

 移動型の異世界転生者は捕まえやすいって。

 鏖殺人がすぐに捕まえてくれるからって。


 あれを聞いた時にね、ちょっと不思議に思ってたんですよ。

 だって異世界転生者が発見されて、伝書カラスを飛ばして、それを鏖殺人が読んで、早馬を飛ばして……こんなことをやってると、凄く時間がかかるでしょう。

 それだけ時間があったら、異世界転生者だって<門>が開いた場所から移動してるはずで……本来なら、捕まえるのは難しいはずじゃないですか。


 それなのに、どうして鏖殺人が移動型異世界転生者をあっさりと捕まえられるのか。

 そこが不思議だったんです。


 でも、今なら分かりますよ。

 移動型異世界転生者は、こっちの世界に来てしばらくは、あの気持ち悪さに耐えきれずにずっと気絶してるんでしょうね。

 ちょっとやそっとじゃ起きないような、深い眠りにつく。


 だから<門>が目撃された場所に鏖殺人が行くと、大抵は気絶した異世界転生者が転がってる。

 鏖殺人としては、そいつらを捕まえてしまえばいい。

 そりゃあ、楽な仕事でしょう。


 まあ個人差もあるでしょうから、確かなことは言えないんですけど。

 それでもちょっと、鏖殺人に対する印象は変わったかもしれませんね。


 何となく、「魔法を使う悪魔たちと激闘を繰り広げる戦士」なんて印象を勝手に抱いてたんですけど、実際は違うんでしょうね。

 寧ろ<門>が現れた場所に出向いては、気絶したまま転がっている異世界転生者をそのまま殺してしまう。

 そんな仕事の方が多いのかもしれない。


 そう考えると、案外簡単な仕事かもしれませんね、あれも。

 やりたくはありませんけど。




 すいません、脱線しましたね。

 どこまで話したっけな……。

 雑貨屋のばあさんのところからですか?


 え?

 もっと前?

 あ、そうか、その異世界転生者を縛り上げたところからですね。


 実はこの縛り上げるところで、一騒動あったんですよ。

 まずはそれについて話しますね。


 ええと、その時の俺はですね、リヤカーを村長の家の前にまで運んできていたんです。

 だから異世界転生者を縛り上げようとしても、俺はロープを持ってないんで、村長からロープを借りることにした。

 騒ぎを聞きつけて結構な数の村の人間が集まってきてたんで、そいつらに頼んでもよかったんですけど、まあ、目の前で調達したかったんで。


 問題は、その時に村長がくれたロープが結構短かったことなんですよ。

 異世界転生者をぐるぐる巻きにしたら、三周したところでロープを使い切ってしまった。


 その時は彼が起きたところで、まだ魔法は使えないっていうことは知らなかったんでね。

 これくらいのロープじゃあ、どうにも心許ないっていう話になった。

 村長の方も、他にロープはないって言うし。


 それでですね、雑貨屋に頼ろうって話になったんです。

 雑貨屋と言っても、一日の半分は農家をやってて、もう半分の時間で開店しているような場所なんですけどね。

 農作業に必要な物も売ってるので、ロープくらいはあるだろうと。


 上手い具合に、雑貨屋は村長の家からあまり離れていなくて、雑貨屋の主人も騒ぎを聞きつけて駆け付けてくれていたんですよ。。

 それでまあ、持ってきてくれと頼んで。

 雑貨屋の主人が家に戻って、ロープを取ってくる流れになりました。


 最初はね、皆すぐに戻ってくると思ってたんですよ。

 本当に近いんでね。


 ところが十分待っても、十五分待っても、雑貨屋が戻ってこない。

 何やってんだって、皆してイライラしましたね、はい。


 異世界転生者が起きていたらまだやることもあったんでしょうけど、彼はずっと気絶したまま。

 まさか起こしたくもないから、集まった連中は皆、物音を立てないように静まりかえっていて。

 村長は村長で、転生局への伝書カラスを飛ばした後はやることもないし……変に静かな時間が続きました。


 ようやっと雑貨屋が来た時には、どうだったかなあ。

 三十分くらいは確実に経っていたと思いますね。


 いい加減皆も心配になってきて、雑貨屋のところに使いをやろうか、或いは別のところからロープだけでも取ってこようか、なんて言ってましたね。

 心配なら三十分も待たずにそうすればいいのに、それをしなかったところを見ると、俺以外の人たちも混乱していたんでしょうか。


 そんなだから、雑貨屋が来た時には安心の気持ちが強かったですよ。

 ただ……更に近くまで来たら、混乱の気持ちが強くなりましたけど。

 何故かと言うと……雑貨屋がどういう訳か、自分のところのばあさんを連れてきたんですよ。


 雑貨屋のばあさん……確か血縁関係としては、今の雑貨屋の主人の祖母だったはずです。

 もう九十歳を優に超えた、杖なしには歩くこともできないおばあさんなんですけどね。

 その人が、何故か現場に来た。


 勿論、すぐに雑貨の主人にどうしたんだと聞きましたよ。

 すると雑貨屋が言うには、「ロープを取ろうとしたら、おばあさんがどうしても一緒に行きたいと言い出した」と。

 何度も説得したんだけど意見を変えないから、仕方なく連れてきたんだと。


 そんなことを困った顔で説明してましたね。

 だから遅れてしまったんだ、とも言ってました。


 この理由を聞いた時には……こう、呆れの気持ちが強かったかなあ。

 ここだけの話にしてほしいんですけど、正直言って、かなりボケの来ているおばあさんでね。

 ボケたばあさんの頼み事なんて、そんな真面目に聞いてやることないんじゃないかなあ、なんて思ったのをよく覚えてます。


 それでも一応、雑貨屋の主人はロープもちゃんと持ってきてくれたんでね。

 とりあえずはロープで異世界転生者をギチギチに縛ろ直して、見張りでも立ててから、他の人は寝ようってことになりました。

 明日になれば、多分鏖殺人が来るでしょうから……拘束さえすれば、俺たちがやることはもうない。


 しかし────そんなことを話していたからでしょうかね。

 俺たちはうっかり、例のおばあさんの動きを見逃してしまったんです。

 そのおばあさんが、リヤカーに向かって杖を突きながら向かっていることに、気が付かなかった。


 気が付いたのは、そのおばあさんが気絶したままの異世界転生者の目の前にまで辿り着いた瞬間。

 おばあさんが、杖を振り上げた時でした。


 最初はね、何か変な音が聞こえたな、と思ったんですよ。

 こう、結構大きな掠れ声がしたというか。


 その場にいる全員が、異世界転生者を万一にも起こさないように小声で話してましたからね。

 無理に絞り出したような声が大きく響いたのは、異質に聞こえたんです。

 それで反射的に振り向いてみたら────いつの間にかおばあさんがリヤカーのすぐ近くにいて、叫びながら杖を振り上げている。


 次の瞬間には、もう……。


 雑貨屋が声を出したのと、おばあさんが杖を振り下ろすのがほぼ同時でしたね。

 ちょっと離れた位置でしたけど、はっきり見えましたよ、ええ。


 振り上げた杖の先端は、確かに異世界転生者の頭を叩きました。

 この老人のどこにこんな大きな力があるんだ、と驚くほどの大きな力で。


 ゴッ、と、ガキッ、て感じの。

 絶対に人間の体が鳴らしちゃいけないような音が、異世界転生者の頭から響いたのが、はっきりと聞こえた。

 やがて、異世界転生者の体がゆっくりと倒れていったのを、変に鮮明に覚えてます。

 その倒れていく先────丁度頭が乗りそうな位置に、尖った石があることもね。


 ……今度は、メシャッ、って感じの音でした。




 後でね、雑貨屋が言ってました。

 あのおばあさんの、それまたおばあさんだか、ひいおばあさんだかは、異世界転生者に殺されたんだと。

 それ以来雑貨屋の一家は、ちょっと病気に思えるくらいに異世界転生者が嫌いなんだと。


 今の雑貨屋の主人は、流石に時代が進んだこともあって、そこまで異世界転生者を憎んでるわけではないそうなんですけど……。

 あのおばあさんは、ボケてしまってからもずっと、異世界転生者への恨み言を口にしていたそうですよ。


 しかし異世界転生者への私刑が法律で禁じられているのは、あのおばあさんの時代から共通でしょうに……。

 まさか孫に連れて行ってもらってまで、異世界転生者を杖で殴り殺すとは……。

 全員唖然としましたよ。本当に。

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