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内務省所属平和庁直属特務機関「転生局」  作者: 塚山 凍
三章 鏖殺人と証言集
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ある看護師の証言 その一

 ……ああ、荷物はここに置いていいんですよ。

 今日は休診日ですしね、誰も来やしませんよ。


 ええと、お茶でも出しましょうか?

 え、いらない?

 そうですか……じゃあ、ええと、何をしましょうか。


 ごめんなさいね、何しろ新聞社の取材なんて生まれて初めてで……何から話せばいいんですかね?

 鏖殺人が来た時から?

 それとも、あの人が来た時から?


 あ、まずは自己紹介ですか。

 そういえば、まだしていませんでしたね。


 えーっと、私の名前は、鍵野ヨウコです。

 年齢は三十二。


 職業は、えー、今更わざわざ口にするのも恥ずかしいんですが、看護師です。

 見ての通り、この診療所で働いています。


 え?看護師になった理由?

 何か関係あるんですか、それ?

 まあ、隠すほどの理由でもないですし、知りたければ言いますけど。


 最初はね、別にここで働こうだなんて思っていなかったんですよ。

 発展教導院にいる時にね、資格の一つくらいは取っておいた方がいいって担任に言われて、たまたま取れたのが看護師の資格だったってだけ。

 結局就職に困って、看護師の資格に頼ることになっちゃったんだから、その先生には感謝しなきゃいけないんでしょうけど。


 最初はね、もっとおっきい病院で働いていたんですよ。

 だけどね、ちょうど六年前になるんですかね、親の紹介で結婚することになったんです。

 私としては結婚してからも働く気だったんですけど、旦那の職場が当時働いていた病院から遠くてね……新居をどこに建てようかって時になって、ちょっと揉めたんですよ。


 結局、姑が辞めてくれっていうから、私の方が仕事辞めることになったんですけど。

 今思い出しても、あの時の姑は憎たらしい顔をしてましたね。

 ええ、本当に。


 そういえば、聞いてくださいよ。

 この前も姑が昼間っから訪ねてきて……。


 (中略)


 ええと、どこまで話しましたっけ?

 前の職場を辞めたあたりかな?


 えーっとですね、仕事を辞めた後、しばらくはおとなしく主婦をしていたんです。

 でも子どもは少し大きくなると託児所に行っちゃうし、何より昼間に家にいると姑がやってくるでしょう?

 何とか、あれと顔を合わさずに済む方法はないかなあって考えていたんですよ。


 そんな時に耳に入ったのが、ここの話だったんです。

 ここの院長、私の旦那の従兄弟でね。

 割と若くして独立したんだけど、診療所を建てるのに結構なお金を使っちゃったから、当時は人を雇う余裕がなかったんです。


 でも流石に、医者一人で診療所を回すの難しい。

 それで、安くても働いてくれる人を探してたんです。


 ええ、この時ほど看護師の資格に感謝したことはありませんね。

 私の資格について話したら、院長の方も是非にって言ってくれて。

 姑も親戚の悩みだから 止める訳にはいかない。


 あの時の姑の顔と言ったら!

 本当に、貴方にも見せたいくらい!


 え?興味ない?

 すいませんねえ、この手の話題は親戚の間では話せなくて、つい……。


 まあ、そんな流れでここに働くようになって、今年で二年目ってところですかね。

 そこからは、お話しするほど大事なことはないと思いますけど。


 え?ここの診療所は主に何をしているかって?

 何ってあなた。診療所なんだから、病気を治しているんですよ。

 病気の人が来て、うちの院長が診察して、向かいの薬局からお薬が出る……それだけです。


 院長の専門?

 さあ、そんなのあるんですかね?


 ほら、この町ってあんまり大きな町じゃあないでしょう?

 専門分野だけ診察するなんて言ってたら、すぐに患者がいなくなっちゃいますよ。

 だから、正直何でも屋ですよ、田舎町の医者なんてね。


 風邪の人もいれば、骨折の人もいる。

 怪我人もいれば、人生相談がしたい人もいる。

 重い病気の人は王都の病院に紹介するんで、正直軽い病気しか診ないんですけどね。


 そんなだから、あの人が来た時も、それ自体は大した驚きはなかったんですよ。


 ここからが本題になりますけど……今までの部分って、本当必要だったんですかね?

 え、ちょっとした思想チェック?

 ……まあいいや、続けますよ。


 最初にその人が診察に来たのはね、確か、今から三ヶ月くらい前だったかなあ。

 平日の昼間に、ふらっとやってきたんです。

 線の細そうな、若い男の人でね。


 正直、特徴は大して無かったですね。

 何なら、特徴が無いのが特徴というか。

 医者を訪ねてきたっていうのに、痛そうな様子でもなく、辛そうな姿も見せず。


 そうそう、確かその時、私が丁度受付をやっててね。

 来てすぐに、「何か御用ですか」と聞いたんです。

 そうしたら、こう答えてきました。


 小さく笑ってから……「人生相談をしに来ました」ってね。


 これでも看護師ですからね。

 私もその時点でピン、と来ましたよ。

 あ、これは心が病気になった人だなって。


 最近多いでしょう?

 何でもないことでも凄く不安になってしまったり、色んなことを悪いようにしか捉えられなくなっちゃう人。

 病院に来る人で「人生相談に来た」っていう人は、私の経験から言えば九割これですね。


 心の病とか、精神疾患って言うんでしたっけ。

 看護師の私でも分かったんですから、院長の方も分かったとは思いますよ。

 アレルの医学は魔法大戦で一気に遅れちゃったけど、最近の医者の間では常識らしいですし。


 ただし、うちは心の医療は専門じゃないんですけど……。

 だけどまあ、とりあえず見てみようって話になったんだと思います。

 その人が診察室に入っていくの、はっきり覚えてますから。


 それで……次の話に移る前に、説明をしておきたいんですけど。

 記者さん、あちらを見てくれます?


 あそこに置いてあるテーブルがね、その時の私が座っていた受付。

 それで、壁があるから見えないんですけど、あの受付の奥が診察室になってるんです。

 受付の隣にある扉から、中に入る形になっていて。


 それでですね、あんまり良いことじゃないんでしょうけど……診察室と受付を仕切る壁って、結構薄いんですよ。

 後で確認してもらったら分かると思うんですけど。

 本当に、声なんて素通りになっちゃうくらい薄い。


 それで困らないのかって?

 まあ、本当は困るんでしょうけど……そんな、自分の病気について大声で言う人って少ないですからね。

 苦情が来たこともありませんし。まあいいんじゃないかって放置されてますね、はい。


 ……ええそうです。

 つまりですね、私が言いたいのは……その患者さんと院長の会話を、受付に座っていた私は聞くことができたってことなんです。

 壁が薄いから、自然と聞こえてしまったというか。


 はい、そこそこは覚えてますよ。

 具体的にどんな話だったかって聞かれると難しいんですけど……えーと、大部分は夢の話だったかな。


 その患者さんは、ここ最近何度も同じ夢を見ていて困ってる。

 余りにも特定の夢ばかり繰り返されるものだから、何かの病気なんじゃないかと自分で自分を疑って、ここに来た。

 大筋はこんな話でしたね。


 夢の内容?

 えーと、荒唐無稽な話だと聞きながら思ったくらいなんで、そこまで覚えていないんですけど……。

 確か、自分が見たこともない場所で働いている風景を何度も夢に見る……みたいな話でした。


 自分とは顔も年齢も違う、だけど確かに自分だと分かる人物が、ここよりももっと大きい場所で働いている。

 使い方も想像できない「のおとぱそこん」の「きいぼうど」を叩いている。

 金属の塊みたいな建物の中にいて、見たこともない服を着込んでいる……。


 おかしな話ですよね。

 夢って普通、自分が知っているものしか出てこないでしょう?

 何で見たことがないものが夢の中に出てくるんだろうって、本人も不思議がっていましたよ。


 それから、んー、何がありましたっけね?

 確か「馬の居ない馬車」とか、「大きな金属の鳥」とか、とにかく変な話が多かったですよ。

 聞いてる私も、途中から訳が分からなくなっちゃったくらいですから。


 でもその人が言うには、これらの夢はあんまりにも生々しいとのことで。

 本当に、感触を思い出せるくらい存在感のある映像を夢の中で見るとの話でした。


 記者さんも不思議に思うでしょ?

 そんな変な夢が、どうして生々しいんだって。

 だけど、その人は何度も言ってたんです。


 どうしても自分には、この夢が実際に体験したことのようにしか思えない。

 夢の中に出てくる物品が確かにどこかの世界には存在していると、肌で感じられる。

 ともすると────こうして生きているアレルでの現実こそが夢で、あの夢の世界こそが、自分が生きるべき本当の世界のように感じられるって。


 こうやって話していても、変な話ですけど……。

 ええ、本人は真剣でしたよ。

 それこそ、鬼気迫るっていうんですかね。


 ……だからかもしれないなって、私、思うんです。

 後からね、鏖殺人が「あの患者は異世界転生者だった」って言ってきた時……院長も私も、大して驚かなかった。

 何というか、物凄い説得力があったんですよ。

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