第−?話(前編)獣の世界
オーダーは新たな世界に到着していた、周りはとても高くまで続く木と腰のタカさまで生えている草など、前回の世界とは打って変わって生命に溢れた世界だった。オーダーが数分歩いていると、今回は早くに人を見つけることができたようで、しかも人が多く生きていた。
そこには町というべき光景が広がっていた。私の想像通りというわけではなかったけどとても美しい光景が広がっていた。私はそこにいる人に話しかけた、ここにいる人は獣のような姿をしていて新鮮だった。
「ここはなんという街なんですか」
オーダーが問うと答えはすぐ帰ってきた。
「何だ、お前さんここの言葉が喋れねえのか、言葉理解してから出直して来な」
オーダーはここの言葉を理解することができなかった、今喋ってくれた言葉さえも、オーダーが言葉がわからずあたふたしていると、人いや獣人もそこから去ってしまった。
そこに一人の獣人が歩み寄ってきた。
「お前言葉がわからねえのか、仕方ねえなここでの生活を教えてやる、来な」
やはりオーダーにここの言葉はわからなかった、しかし何かをしてくれるのが伝わったのかオーダーはお辞儀をした眼の前の2メートルくらいの巨体の男に向けて、しかし男はオーダーの袖を引っ張り、一緒に歩いていった。
何分歩いただろうか、オーダーたちは一つのボロ小屋の前に立っていた。それはツタに覆いかぶさっており、見た感じ生活感というものは一切感じられなかった。
男は躊躇なくその中に入っていくと、オーダーに手招きをした。オーダーはとてつもなく嫌な顔をしたが、男に引っ張られ草に顔をぶつけながら中に入っていくのだった。
その家(家と呼べるかもわかわからないが)の中身は案外きれいで、そのことにオーダーも少し呆けていると、男が一つの紙を差し出しへ来た。
「おいお前、これが読めるか」
オーダーが思案していることに気づいた男は独り言を始めた。
「思っていたよりも重症だなこりゃ、どうしたものか俺が教えるにしてもあいつの言葉を知らないんじゃなんとも言えねえな」
男も少し考えていると、思いついたことがあったのか家の外に生えている草を取り出すと、その草を指さしオーダーを睨んだ。その視線に気づいたのかオーダーはくさと男を見比べ、状況を察したのか一言「草」と喋るのだった。
「くさっていうのかこれは、ここではこういうんだよクルトウだわかったか、ク・ル・ト・ウ」
「クルトウ?」
オーダーが呟くと、男はニカッと笑って。
「ああそうだ、やればできるじゃねえかお前も。」
男はオーダーの髪をくしゃくしゃと撫でると、オーダーは男の手を抑えようと奮闘するのだった。
少し落ち着き二人が次はどうしようかと悩んでいると、次はオーダーがなにか思いついたのか自分を指さし「オーダー」と喋った。男も自分の顔を指さし
「俺はサブラ・ドゥルドゥ、サブラでいい」
「サブラドゥルドゥ?」
「サブラで良いって言っただろ馬鹿野郎」
サブラが訂正する。言葉が伝わりづらくても、その言葉はオーダーに届いたようだ。
「サブラ、よろしく」
たとえ言葉が伝わらなくとも、最後の言葉だけは文脈的に伝わったのだろう。
「ああよろしくな」
二人で住むには狭い室内で二人は笑い合うのだった。オーダーにとっての祖父とも言うべき男と決別したオーダーの心に、今だけは安寧を与えたのだった。
2ヶ月後
オーダーがこの世界に来てから2ヶ月もの月日が経った。オーダーは言葉を理解できるようになった、オーダーはこの世界で一つの発明をすることができた。昔別の世界で祖父代わりの男と一緒に飲んだ香り高き液体、そうコーヒーである。その御蔭で毎日数1000円は稼げるようになっていた。
今サブラとオーダーは露店が並ぶ道を歩いていた。
「今日は何を食べる、サブラ」
「んー今日は魚でも焼いて食うか、オーダー」
「そうだね」
二人は一つの露天の前に立っていた、店にはでかでかと魚屋と書いてある。二人はそこからサーモンと思わしきものを取ると、椅子に座っている男に喋りかけた。
「おいこの魚何円だ」
男が嫌そうな顔をして返答に答える。
「ああこの魚か、値段も読めねえのか」
「ああ俺は学がないから字が読めねえ、けど金ならあるぜ」
ザブラが金がパンパンに入った袋を男の目の前に差し出す、すると男はその袋をまじまじと見つめる。
「銅貨じゃねえだろうな」
ザブラが袋の中を見せる、するとそこには銀貨銅貨金貨が混じっていた、男が軽く舌打ちをするとすぐにへりくだってきた。
「すみませんお客さん、この魚は銀貨が3つに銅貨が2つでっせ」
「ぼったくってねえだろうな」
男はごまをすっている。
「いえいえ、そんなことはないですよお客様」
「それじゃあ受け取っときな。ほら銀貨4枚だ、釣りはいらねえよ」
ザブラが男の手のひらに銀貨を4枚置く。そしてザブラはサーモンを背負いその場をあとにするのだった。
「その魚どうするの」
「焼くに決まってんだろうか、オーダー」
「昔、私のおじいちゃんって言えばいいのかな、まあその人が魚を生で食ったことがあるって言ってたから」
ザブラは少し上を向き
「そういえば、どっか遥か遠い国で魚を生で食ういかれた奴らがいるって聞いたことがあるな」
ザブラは片目でオーダーを見つめ
「今度少し金が溜まったら、そこに行くのも悪くねえかもな」
「ありがとう、ザブラ」
オーダーが片目で見つめ返す、そうして家へ帰っていくのだった。
家に到着し、オーダーが火を準備していた。オーダーはマッチを使ってあの世界では日を用意していたので、木をこすり合わせて火をおこすというやり方は、最初の頃はうまくいかなかったものだが2ヶ月も経つともう様になっているようだ。
オーダーが火を用意すると、川で洗った魚をザブラが持ってきた。
「おいコーヒーも用意できるか」
「できてるよ、ほら鍋も用意できてる。」
オーダーは鍋を持ちながらドヤ顔をしているのを見てザブラが呆れ顔をした。
すぐに真顔に戻り火の上に魚を置くと、オーダーも魚の上に鍋をおいた。
「いやそれじゃあ火が取らねえだろ」
「そう?なら後でやるね」
そんな雑談をし、二人は魚が焼けるのを待つのだった。パチパチと火が弾ける音を聞き、どこか遠くを見上げる平和な一時を味わうのだった。
魚が焼けいい匂いがした頃オーダーは魚を引き上げようとした、しかしそれは失敗してしまった。魚は火の中に落ち、炭にまみれてしまった。オーダーは持久力はあったが、力はあまりなかったようだ。
落とした魚を、ザブラが軽々と引き上げ魚を振り回し、いらないものを振り落とす。半分に引き裂き片方をオーダーに渡す。
「ほらあんま肩を落とすなオーダー」
オーダーは魚にかぶりつく、そしてザブラに問う。
「ザブラ強くなるにはどうしたらいい、私は誰かを守れるくらい強くならなきゃいけないんだ」
オーダーの覚悟を聞いたザブラは答えを出す。
「幼い娘が戦うっていうのは気に入らねえが、お前の決意は聞いた。教えてやるよ戦い方。少し辛くなるぞオーダー」
「わかってるよザブラ、そのつもりで言ったんだから」
二人はすごいスピードで魚を食べて、狭い室内で睡眠を取るのだった。
翌朝オーダーは早めに起きていた。オーダーは一人コーヒーを作っている、昨日のこと思い出しているのだろうか。
―私はここまで来たよ、ルウ爺。今日戦う力を教えてもらうんだ、きっと強くなってみせるから。ここは自然に溢れているよ、ルウ爺が教えてくれたのと同じ。もうここに来てから2ヶ月経ったよ、言葉も覚えて文字は覚えられてないけど毎日楽しいよ。けどねやっぱりルウ爺もいてほしいな。ここでねザブラっていう獣人と出会ったんだ、優しくてお兄さんって言えばいいのかなそんな人。きっと強くなってみせるから。
オーダーはカップにコーヒーを注ぎ、それを火の中にこぼそうとしたとき、ザブラが起きてきたオーダーは慌ててカップをもとに戻す。
「おいそれ、手向けの花みたいなもんなんだろ、俺は飲まねえよ」
「うん私のおじいさんに向けての、好きだったの」
オーダーは火に向かってコーヒーをかける、火はすぐに消え去った。しかし煙はいまだ残り晴れ渡った空に向かって伸びていった。
オーダーとザブラは煙を見送り、少しの時間黙りオーダーが感謝を伝えた。
「ありがとう、ザブラ」
「どうとでもねえよオーダー、コーヒーを頼めるか」
「うん」
鍋に残っているコーヒーをカップに注ぎザブラに手渡す、ザブラは一口でコーヒーを飲み干しオーダーを見つめる。
「強くならないとな」
「うん」
オーダーは再び決意した今此時。
二人は少し開けているところに来ていた。ザブラは剣を携えている、オーダーも両手で剣を持ち、二人は向かい合って立っている。
「剣というものは人を傷つけるものじゃない、守るもんだって言うけどな戦場ではそんな事は言えねえ、けどお前がやりたいのは守ることなんだろ。なら俺から教えるのは守る剣だ、オーダー」
「うん、私は守るために剣を振る」
二人は体力が底を尽きるまで修行をした。
「おいそんなんじゃ守れねえぞ」
ザブラがオーダーの振るった剣を弾く、持っている剣は弾かれた勢いで遠くに飛びオーダーはザブラの足を蹴ろうとする、しかしザブラに軽く躱され背中にトンッと攻撃を浴びる。
「いたっ」
「おいおいこんなんじゃ終わらねえよな」
ザブラが挑発する。
「まだまだ、逆について来れるのザ・ブ・ラ」
挑発を軽々と受け流し、言葉ではオーダーが大勝した。
稽古を再開し、二人が対面する。数秒静かな時が流れ、ザブラが最初に動いた。ザブラはオーダーの後ろにいる誰かに向けて剣を振るう、それを見てすかさずオーダーも後ろを見る。そしてザブラは隙をつきオーダーの腸に向けて、一筋ぎりぎり当たらないようにして剣を振るった。そんな攻撃を見てオーダーは虚を突かれた顔をする。
「まだまだだな、お前は守る剣を振るうんだろ。自分が守る相手なんざ後ろからくる信頼でわかってろ、お前は敵の攻撃だけに集中すればいいんだよ。後ろが死にそうになったなら、それも感知してこそ三流だバカ」
オーダーがふてくされた顔をしてザブラに一突き剣を浴びせる。
「いてっ、お前やりやがったな」
「さっ続き続き」
オーダーはなんともなかったと言いたそうな虚勢を張り、もとに戻るのだった。
―わかってるよ、もっと強くならなきゃいけないんだから、全部物にしてみせる。
オーダーが決意をしたところで、誰からか腹のなる音が聞こえた。それは大きくまるで二人同時に腹を鳴らしたらそうなるかなってくらいの大きさで、そんな音を聞いた瞬間二人は同時に笑いだすのだった。
「っはお前そんな腹鳴らしてこんなところでギブアップか、情けねえな」
「ふふっなんでザブラそんな腹鳴らしてるの笑っちゃうじゃん」
二人の声が重なる、事態把握のため数秒間黙り、そして把握ができた頃オーダーは赤面し、ザブラは上を見上げて口笛を吹いていた。ザブラが言葉を紡ぐ。
「まあ飯にするかオーダー」
「うんそうだねそうしようそれがいい」
「最高の三段活用だな」
二人は食料を探しに商店街へ出る。
「うーん今日は何食べるザブラ」
「ああそうだな運動したし肉でいいんじゃねえか」
「そう、それよりも肉とか食べてもいいの」
オーダーは倫理観を気にする。
「ああ差別か差別、別にいいんだよ獣人が肉食べたって、うめえんだから」
ザブラが軽く一蹴する、それは味わうものとしての言葉だった。
「別にな自分に似てる動物食ったって誰も気にしねえよ、あんなん我々みたいに進化できなかった下等種族だってな」
「そういうもんなの」
「そういうもんだバカ」
二人は会話しながら前回魚を買った露店を過ぎ去る、やはりと言えばなんだかお得意さんを手にしたと思っていた店主は二人が通る間ずっとごまをすっていたが、二人が買わないとわかるとすぐに椅子に座軽く舌打ちをして、今日の儲けとにらめっこするのだった。
二人が目的の露店に近づいたときそこには人だかりができていた、どうやら日報を作っている者が宣伝をしているようだった。
「はいはい、今ここに勇者様が来るっていう噂だよ」
群衆の中のひとりが声を上げる。
「おい、いつ来るってんだ勇者様はよ」
日報屋が男を睨む。
「まあ色々依頼も受けているみたいだからあと10ヶ月ってところかな」
「結構長いなこりゃ」
そんな言葉を受け流しながら、日報屋は群衆に向き直る。
「聞いてらっしゃいみてらっしゃい、勇者様はかのジャパングからの転移者らしいぞ、名付けるなら1000年に一度の来客ってね」
ザブラは群衆の中をかいくぐり、店を目指して切り抜けていく。
「どいたどいた」
時々舌打ちをするものもいれば靴を踏むものもいる、しかしそんなの関係ないとザブラは足取りを早める。
そして目的の店に到着すると店主は元気に挨拶をしてきた。
「よう兄弟」
「ああよろしくな」
ザブラはそっけなく返事をする。
「はあこんなんじゃ商売上がったりだよ、店の前でやらないでほしいんだが」
店主は不満を口からこぼすとザブラが反応する。
「ああそうだな、お前は勇者についてなんか知ってるのか」
「ああ一度だけあったことがある、助けてもらったんだ神聖ワクテカ王国で」
店主は衝撃的な一言を口にする。
「へえどんなやつだった」
「まあ親切だけど変わった奴らだったよ」
「パーティーなのか勇者様は」
「両手に花ってやつだ羨ましいったらありゃしない、まあこんなん家内に言ったらぶっ飛ばされるけどな」
店主の話によると勇者パーテイーは男一人の女3人のパーティー構成らしい
オーダーから見るとザブラは勇者のことについて何も知らないと言った具合だった、まあオーダーも知っていることと言ったらさっき、日報屋が喋ってた情報だけなのだが。
「片手には聖女様もう片方には王国きっての魔法使い、後ろには聖騎士様ときたところだ、尊敬するね」
「すごいんだな勇者っていうのは」
「ああとんでもなくな」
雑談を終えザブラは肉を頼む。
「いい肉を2人分山盛りでだ」
「そこの嬢ちゃんは食えるのかい」
ザブラがオーダーの言いたいことを代弁する。
「ああこいつはすんげえ食うぜ、馬みたいにな」
「ザブラ!!」
オーダーが声を張り上げる、そんな仲睦まじい光景を見て店主は軽快に笑った。
「ははっ仲いいねえあんた達、それじゃあちょっとサービスしてやるよ」
店主ザブラが喋った肉の量の倍くらいを袋に詰める。
「こんなにいいのか」
「全然いいよ、ほら金貨2枚だ」
店主が手を差し出す、そしてザブラとオーダーは店主を睨む。
「冗談だよ冗談、銀貨2枚だ」
オーダーが袋の中から銀貨を2枚見つけ店主の手のひらに乗っける、そして見るからに重そうな袋をザブラに渡すとそのまんま流れるようにオーダーの肩に乗っけるのだった。
「おもっ」
思わず声が漏れる。
「これも修行の一環だ、強くなりたいんだろ」
「わかってるよ」
ザブラが逃げ場のない言葉を口にしたあと、オーダーはすぐに了解し店を離れた。
オーダーたちが肉を買っている間に人ははけたようだった、ザブラは落ちていた新聞を手に取ると毛の間にしまい込み、オーダーと帰路に着くのだった。
1ヶ月後
修行を始めてから1ヶ月もの月日が経過した。
二人は今修行をしている、剣が当たる音が周りに響くしかし迷惑というわけではない、そこは広い空き地で迷惑だと思うのは空を歩いている虫や動物なのだろう。
「ほらそこは守れるか」
「守ってみせる」
後ろにいるなにかに向けられた剣戟をオーダーが跳ね返す、そして逆にザブラに対して反撃を加える、それは常人ならば当たったかもしれないがザブラにはそのような凡庸な攻撃は当たらななかった。ザブラの頬のギリギリをかすめて虚空に当たる、そして空いた足に蹴りを入れられる。
「相手は勝てば何でもいいんだ、守るものなんざ一つもねえからな。まっ騎士道くらいはあるかもしれねえが、いや無いからお前の敵になるのかもな」
「もう一回!!」
オーダーは強く答え、二人はもう一度向き直り、訓練を再開する。
私かザブラが剣を振るう前の時間、いつも静かな時が流れる。最初はルウ爺と暮らしていたときの静かさに似てて少し反応が遅れていたけど、今は違うこの時間は相手との対話に使うどっちが先に剣を振るうか予測を立てる時間。そして相手の予測を超えたとき初めて最高の剣が振るえる、私はそう思っている。だから私は今最高の剣を振るえると確信した。
最初に動いたのはオーダーだった、ザブラの脳天を狙った攻撃、ザブラも殺意に似た何かに気づき、動きの終着点である自分の頭の上に剣を掲げる。普通受け身を取った相手に攻撃を与えてもだいたいその攻撃は失敗に終わる。だがオーダーの攻撃は違った、確信があった相手を倒せるという確信が、そんな確信が相手に攻撃を浴びせた。剣のど真ん中に放たれた剣戟は中心から順にひび割れていき、そして柄まで届く。割れるかと思った刃は最後のあがきとしてその形を保ったままでいた。
ザブラが弱かったというわけでは無い、ザブラは強かった。それも攻撃を予測し、刃の真ん中に当てたのは神業とも言うべき技量だった。しかし予測が遅れてしまった、オーダーの攻撃はとても鮮やかにそれでいて自然だった。それは誰も真夏に生えている木の葉っぱが落ちることを見抜けないのと同じ、それくらいの超越した技量だった。
技量の差でザブラはオーダーという■■に負けてしまったのだ。
オーダーが剣を自らの方へ戻す。オーダーはザブラを見つめ
「やっと勝てた」
「ああ俺の負けだな」
ザブラは壊れかかった愛剣を見つめる。
「おい聞こえてるか武蔵、俺もやっと心残りがなくなった。これからはオーダーたちの時代だ、お前と同郷の勇者もいるしもう心配事はねえよな」
その言葉が届けたかった者に対して届いたのかは観測できないが、きっと届いたとおもうのがきっと最善の選択というのだろう。
修行は終わったと言いたいところだが、いまだオーダーは弱すぎる。オーダーもそれをわかっていたのか修行を続ける気なようだ。
「まだまだ人は救えない、だから私に戦う力を教えて」
「ああそうだな、まだ1勝だお前が俺に何回負けたか」
「そのうち私のほうが勝ってるかもよ」
オーダーは自信たっぷりといった感じで答える。
「そうなりゃ俺も少しは休めるな」
ザブラもまだまだ自信が残っているようだった。
今日はオーダーがザブラに勝った記念としてご馳走を食うようだった、そこはこの国でもきっての繁華街だった。周りには3回ぐらいの建物が左右に並び、露店の通りとは全く別物の人の交通量があった。
「こんな人多いところ初めて」
オーダーが目をキラキラ輝かしてあたりを見ている。ザブラはというと人混みには慣れているのか顔色を1つも変えず目的のレストランがある辺りを見ようとしていた。
「人にぶつかるなよオーダー」
「だ、大丈夫だよ」
オーダーが不安げに答える。それを見たザブラはやれやれといった感じだった。
オーダーたちが人に当たらないよう慎重に道を歩く、無事に到着したそこは冒険者たちが入りそうな雰囲気を醸し出している酒場だった。ザブラが大きく扉を開く、中にいるよりどりみどりの冒険者たちは、驚いている者が半分一瞥しすぐに仲間たちとの会話に戻るのが約半数、そしてザブラたちが入ったとき嫌な顔をした者が少数といった具合だった。
オーダーたちは席を確保し、注文する。
「この店で一番高い料理を2つ、こいつにはデザートも頼む。それとビールとお前はどうする?」
「私は…」
オーダーは必死に過去を思い出していた、自分が飲んでみたい飲み物を探すために、その答えは案外早くに見つかった。ルーカスと一度飲んだ甘い液体、オーダーはジュースの本当の味を知りたいと思った。
「私ジュースが飲みたい」
「そりゃあ何だ、じゅーすっていう飲み物がどっかにあるのか?まああれだそいつの味を教えてくれ」
必死に記憶の入っている箱をこじ開ける。そこに眠っていた味は「甘い」だった。
「うん、そう甘かったとても、私甘い飲み物が飲みたい」
「甘い飲み物か、そういう飲み物はあるか」
ホールスタッフが質問に答える。
「ありますお客様、シセーナ高原で取れたオレンジの果汁を100%使っている飲み物が、とても甘くてお子様から年輩の方まで種族も超えて愛せれている味です。」
「それじゃあそいつを頼む、あとそれは2人分だ」
「かしこまりましたお客様」
ホールスタッフは注文を伝えにシェフの下へ向かう。そんな二人に近づく影があった。
「おい獣人、ここはてめえらが来るべき場所じゃねえよ」
後ろに隠れていたいかにも小物っぽい取り巻きがそーだそーだと肯定する。
「おい俺のことは言いにしても、オーダーは獣人じゃねえぞ」
「っは、こいつも獣人といすぎて獣の香りがプンプンするんだよ」
「てめえら」
ザブラは手を挙げそうになるが、オーダーが見ている手前拳を振り上げずにいた。それに調子に乗ったチンピラがコップを持ち上げたとき、そのコップが真っ二つに壊れた。コップをそうしたのはザブラではなくオーダーだった。
「あなた達も剣を持ってる、ってことは戦う気があるってことだよね。ならそこの空いてるところで決闘しようよ、ルールはなくてもいいからさ」
オーダーが剣で戦う場所を示す、それにビビるチンピラでもなかったようでチンピラは「おうよ」と返事をする。
そして二人は戦いの場に立つ、それはオーダーにとって初めての実戦だった。二人は剣を構え、相手を睨む。審判というとチンピラの取り巻きの一人がするようだった。
戦いの前の静かな時が流れる、先に動いたのはチンピラだった。オーダーとザブラが戦った最初の試合、最初に仕掛けたのはオーダーだった。チンピラがオーダーの腹に向けてためらいもなく剣を振るう、それは簡単に防がれチンピラは動揺する。
それから防がれたものがすることは、決まっている、相手の足を蹴ることだ。チンピラが足を振りかざす少しの間に勝敗は決まった。
オーダーが持っている剣はチンピラの頭の上1ミリにあった。その瞬間そこにいた誰もが気づいただろう、その異常なほどの殺気に、当の本人もすぐに気づいたのか体を固め地蔵みたいな格好をしている、それを見た者たちはチンピラの負けを確信しただろう。それは取り巻きたちにとっても覆りがつかないくらいの敗北だった。
「おいお前ら、こんな敗北じゃなかったら難癖つけてあいつの敗北にするつもりだったんだろ、けどこんな負け方したら覆りようはねえってもんだよな、どうするか次はお前らが戦うか俺が相手してやるよ」
取り巻きたちは何も言葉にできなかった。オーダーもチンピラから剣を離し決闘の範囲外へ出るのだった。
数分チンピラは動けずにいたが、チンピラたちが必死にそこから引き剥がし店をあとにするのだった。
「ああいう奴らでも仲間意識は強えんだな」
ザブラが席に座っているオーダーを見ると、オーダーはまるでハリネズミのように縮こまっていた。その姿はとても強うそうには見えない、そんな光景にザブラが絶句しているとオーダーが赤面した顔でザブラを見上げ
「えっと、すごく恥ずかしいんだけど。やりすぎちゃったかな」
そんな一言を聞き、ザブラと周囲の笑いが耐えきれなくなった。
「ぶはは、お前全然悪かねえよ。アイツラもそのつもりで挑んできたとこはあるんだ、武人として少しは見習ってもいいぞ、まっ悪いところは真似するなよ」
店のシェフがオーダーに近寄る。
「方法は褒められたものではありませんが、差別に抗うということはとても良いことです。あまり自分のことを卑下しないでください。まあそれはそれとしてこちらをどうぞお料理をお運びに参りました」
シェフが料理を運ぶ、これらはメインとしては君たちの世界で言うビーフステーキ、そばに添えられたのはロブスター、ガーリックソースがかかっており米を主食とする方々にはとてもライスが欲しくなる一品だろう。まあこちらでは見るからに焼きたてなパンが添えられているのだが。
更にジュースが横に運ばれてくる、オーダーが過去ルーカスと一緒に飲んだものの本物がそこにあった。オーダーは静かにジュースを口に運ぶ、それはルーカスと飲んだものよりも自然で飲みやすかった。
―これがルウ爺が飲んだ味かー、とっても美味しいね。やっと約束果たせたね、まだ1つ目だけどさ、けど一緒には飲めなかったね、本当に本当に美味しい。
オーダーの目から涙がこぼれ落ちる。
「そんな美味かったかよジュースは」
「いや昔ねルウ爺と約束したんだ、一緒に飲もうねって」
「お前の爺さん代わりのやつのことか」
「おかしいよね、ただのジュースなのに涙が止まんないや、拭き取ろうとしても次から次からごめんルウ爺最後の最後で助けられなくて…」
ザブラがオーダーの涙を見る、そして料理の脇に置かれたジュースを取り、一気に口に運ぶ。
「そうか、こんな味だったな。あいつが泣くわけだ、うめえよほんとに。あんがとなルーカスあいつをここまで送ってくれて、あいつをまともに育ててくれて」
ザブラは自分の知らない男に向けて感謝を口にするのだった。
そこから二人はメインディッシュを食べ終わり、オーダーのデザートが来るのを待っていた。するととんでもない高さのケーキをシェフが運んでくる。
「こりゃあなんかの催し物か」
ザブラが言葉を口からこぼす、それをシェフはすかさず答えを返した。
「いえこれは私があなた達のファンになっちゃいましたから。これは私からあなた達に対しての記念トロフィーですよ」
オーダーは自分の背丈を軽く越しているケーキの城を見つけ
「これもう食べていいの」
「いえ切り分けますから少々お待ちください」
シェフは豪快にケーキを切り分け、全てのお客に渡した。オーダーの皿に乗っているものは他のよりも一際デカく存在感を放っていた。それくらいシェフはオーダーたちのファンになったのだろう。
「こんな美味しいもの初めて食べたよザブラ、こっちだとダベルズっていうみたいだけど、あっちだったらケーキというのかなこれ」
「そうか、けーきねえ」
ザブラはケーキを見つめる。他の客はサービスされたケーキを持って談笑したり、輪になってケーキにかぶりついたりと、三者三様の楽しみ方をしていた。
二人が食べ終わり店を出ようとしたときシェフが二人を引き止める、シェフの目線には主にオーダーが佇んでおり、オーダーに対しての言葉をつぐもうとしているのは自明の理であった。
「お客様、いえオーダー様少しお時間よろしいでしょうか」
「大丈夫だよ」
「少し助言を、貴方様が戦うものとしておられるのはわかっておりますが、少し淑女としての嗜みを練習するのはどうでしょうか。このトレーニングにはお金は必要ありません、ただあなたが護る者としてありたいなら少し礼儀もわかっておいたほうがよろしいと思います、礼儀作法はこちらのスーシェフが空いている時間に教えますので」
オーダーに少しの礼儀作法はあるが、しかし上に立つものとしてならそれには不足があるのもわかっていた、だからそんな申し出はオーダーにとってもありがたかった。まあついでにいうとオーダーもザブラもここの味に惚れてしまったので、そんな料理がただで食えたらいいなとも思ったのだろうが。
「お願いします、シェフ」
オーダーは次の日からもしかしたら鍛錬よりも辛い目に合うのかもしれない。
翌日オーダーは店の前に来ていた、道の様子は昨日よりかは人通りが少なく少しは風通しが良くなったかなというレベルである。目的の店に関してはまだ開いておらず扉は固く閉まっているように見える。
オーダーが扉に手をかけ開こうとする、やはりといった感じだが扉は少しがったとしたくらいであった。オーダーは数分悩み一度扉を叩いてみることにしたようだ、3回扉をたたき誰かがいるかを確認する。
反応は案外すぐだったようだ、扉が開かれそこに昨日シェフのとなり立っていたスーシェフが姿を表す、その姿は30度くらいのお辞儀をしていた。
「オーダー様、先程のノックは3回ではなく4回のほうがよろしいかと思われます。まあ3回で良い国もあるのですが、大体の国では4回なので」
「うん、わかった」
扉を開いてからすぐの指摘にオーダーの顔が引きつる。
そこからスーシェフは店の中に入りオーダーに向けて手招きをする。
「こちらへどうぞオーダー様」
店の中に入り、2階へ登る。これもオーダーにとっては下りの階段は下ったことがあるが、上りの階段は登ったことがないのでオーダーは下をチラチラと見て2階が大丈夫かと思案する、そんな姿を見たスーシェフは
「もしかしてオーダー様は2階に行くのが初めてでしょうか」
「う、うん2階には一度も行ったことがないから、大丈夫なんだよね」
「ええ大丈夫ですよ、昨日下であんなに騒いだのにヒビ一つつかなかったでしょう。」
「なら少しは安心かな」
オーダーはホット息を吐く、まあそんなこんなで二人は一つの部屋の中に入っていた。
部屋は十分広いが、机が一つ設置されているだけでありとても簡素な作りだった。
スーシェフはオーダーを椅子に座らせ本を机においた。
「オーダー様は文字が読めないかとお見受けしますが、あっているでしょうか」
「うん、この国に来たのも数ヶ月前だから言葉もけっこう最近覚えてて」
「それは、きっと苦しい旅だったのでしょう」
「いや大丈夫だったよ、私は色んな人に助けられてきたから」
オーダーは最初世界転移に助けられ、次にオーダーに助けられ、最後ザブラに助けられた。心優しい人に囲まれて育ったオーダーは今ここまで到達したのだ。それはオーダーが今の人格を獲得するのに絶大な効果を発揮した。
「そうですか」
スーシェフはいまだ見えないオーダーの旅のことを考える。
「そういえば、私の名前を教えるのを忘れていましたね。私の名前はルーカス、よろしくお願いします」
それはオーダーにとってとても懐かしい響きだった。世界というのは時に共通点を生み出す、それはこの世界とあの世界にとっての一つの魂の共通点だった。
「ルーカスっていうの、あなたの名前は」
「ええそうです、少しめずらしいでしょう。私の先祖にジャパングからの転移者がいて、代々私の家系ではそちらの世界の言語を使って名付けをしているのですよ」
「そう」
多分その人は日本人ではないのだろう、ルウ爺と同じ言葉ってことは英語だよね。
「あのその名前って英語という言葉で決めてるんですか」
「すみませんオーダー様、この言語の名前はわかりかねます。私達は異ジャパング語と名付けております」
「ありがとう、ルーカスさん」
どうやら英語まではこちらに渡っていないようだ、そしてここにはジャパング人だけじゃなく、英語を主な言語とする人種もここに転移していることがわかった。
二人は勉強を開始する。覚え方としてはオーダーが文字を言葉にし、それに対応する文字を本の中から選び取ると言った感じだ、まあオーダーは頭が良いのですぐに覚えることができた。そして二人が時計を見るとあと2時間程度でレストランが開店するような時間帯だった。
二人は勉強道具を片付け、解散することになった。
「ルーカスさん、今日は本当にありがとうございました」
「いえ大丈夫ですよ、次は1週間後くらいでよろしいでしょうか。詳細がわかったら家に伝えに行きます」
別の世界では仲良くなったオーダーとルーカス、しかし今オーダーの前にいるのは、ルーカスと全く違う環境で生き、もはやオーダーが知っているルーカスと同じところは名前と魂だけになっていた。全く同じ人間だけど、知っている人との共通点というのは0%、そんなのは不快感が脳を襲ってしまうのにも無理はなかった。
そして1ヶ月後、ここ1ヶ月オーダーは強くなるための修行よりかは、所謂お勉強のほうが多くなっていた。文字に関しては、前回の世界でルーカスに教えてもらったのと同じようにすぐに覚えられたが、悲惨だったのが礼儀だった。失敗して精神がぼろぼろになったオーダーを見てザブラがレストランに突撃したりなど、まあ聞いてわかったかと思うが本当に悲惨な練習劇であった。
そして今オーダーは華麗な舞踏をシェフとルーカスの前で踊っていた。曲が終わり華麗な着地を最後にし、シェフたちはオーダーにスタンディングオベーションをしていた。
「よくここまでうまくなったね」
シェフが感嘆の言葉を口にする。
「ええ本当に、私もよくここまで教えられました」
その言葉の裏には、今までの苛烈な練習の光景が浮かび上がっていた。
そしてオーダーは顔を上げ、そこには清々しい顔が浮かび上がっていた。
「やったねルウ兄、ここまで来たならもう」
「そうですね、これで終わりでいいでしょうこのようなお勉強も」
二人はハイタッチをして、喜びを確かめあっている。そんなこんなでオーダーは礼節を手に入れた。
夜、レストランにはオーダーとザブラ、シェフ、ルーカスほか複数人の従業員が食事をしていた。
「おおオーダー良かったな」
「うんうん」
「ちなみに今その礼節モードに入ることはできんのか」
するとオーダーはすぐにザブラに対して敬礼をした。
「ええできますよザブラ様」
「ちょっとむず痒いなこれ、戻ってくれ」
神経の至る所に敷かれた学びによりありえないスピードで反応することができていた。
「いやあ、偉くなりましたなザブラ様、彼女も」
「ああ前はすまなかったな、シェフ」
「いえいえ、大丈夫ですよ。私達も厳しく教えすぎてたのかもしれませんし」
最初の頃にあった、ザブラの店突撃のことについて話し、オーダーの成長について語り合ったのだった。そして夜は更けていって、いつの間にか全員寝てしまうのだった。




