第三話「剣を知る」
それからさらに三年。
俺は五歳になった。
この三年間、何もしていなかったわけじゃない。
家にある本を読み漁り、この世界についての知識を少しずつ身につけていった。
しかし、若い体というのはすごい。
覚える速度が、前世とは比べものにならないほど早い。
前世では仕事ばかりで、読書なんてほとんどしていなかった。その反動なのか、知識を得ることが楽しくて仕方なかった。
体もある程度大きくなった。今では村の中を走り回れるくらいには丈夫になっている。
だから、これからは剣術に力を入れていきたい。
「なんでこの三年間、剣術を習わなかったんだ?」と思うかもしれない。
理由は簡単だ。母さんことフィオナが、とんでもなく過保護だったのである。
この三年間、外へ出たのは数えるほどしかない。村の市場への買い物について行くくらいで、基本的には家の中で過ごしていた。
だが、五歳になった今、ようやく一人で遊びに行くことを許された。
息子を大切に思ってくれているのは十分わかる。だが、さすがに少し過保護すぎる気もする。
しかし、そんな生活も今日で終わりだ。
父さんに剣術を教えてもらい、一日でも早くものにしてみせる。
それが今の俺の目標であり、一番の楽しみでもあった。
そんなことを考えていると、リビングから声が聞こえてきた。
「ロイー。朝ごはんよー。」
「はーい! 今行くよー。」
朝食は豪華とまではいかない。だが、量は十分で味もしっかりしている。家族三人で食べる朝食は、今日も変わらず温かかった。
「そうだ、ロイ。そろそろ俺に剣術を習ってみる気はないか?」
「いいの!? 父さん!」
意外だった。
まさか父さんの方から言い出すとは思ってもいなかった。
これは最高のチャンスだ。
「ああ、もちろんだ。お母さんからもちゃんと許可はもらってある。な?」
「まあ、怪我をしない程度ならいいわよ。」
……こっちの方がもっと意外だった。
三年間、あれだけ過保護だった母さんが、こんなにもあっさり許可を出すなんて。
もしかして、前から父さんと話し合っていたのだろうか。
「この国は魔法を学ぶ国だ。だが、剣術を身につけておいて損はない。」
「朝飯を食べ終わったら、少しだけ始めるぞ。」
「わかった!」
よし!
こんなに早く剣術を学べるなんて思ってもいなかった。
胸が高鳴る。
早く剣を握ってみたい。
——それから時間が経ち
父エイドと、俺は木刀をもち向き合っていた。
「よし、ロイ。とりあえず俺と戦って剣術というものを知ろう。手加減はしないからな。」
「はい!」
……ん?
手加減はしない?どういうことだ?
まさか、5歳児の息子に向かって本気で来るなんてことはありえないよな?
「いくぞ!」
その瞬間、エイドの目つきが変わった。
この目は、本気だ。
「いやっ、ちょまっ……!」
気づけば、エイドは目の前まで踏み込んできていた。
必死に木刀を構える。
だが、そんな防御など意味を成さなかった。
ドゴッ!
木刀が腹にめり込み、一瞬で息が止まる。
「がはっ……!」
激しく咳き込み、その場に膝をついた。
視界がぐらりと揺れる。
「……え?」
そこで俺の意識はぷつりと途絶えた。
——
次に目を覚ました時には、すでに昼を過ぎていた。
「うぅん……。あれ? 何が起きたんだ?」
「ロイ! 目が覚めたか!」
……あぁ、そうだ。
朝、父さんと戦って、一撃でボコられたんだっけか。
……って!
どんな鬼畜親父だよ!
五歳児に向かって本気で木刀を振るやつがどこにいるんだ!
……あぁ、ここにいたわ。
「いや、ごめんな? まさか気絶するとは思ってなくてな。少し力加減を間違えた。大丈夫か?」
……少し?
少しで人を気絶させるなよ!
「だ、大丈夫……。まだ生きてる……。」
エイドは安心したように笑うと、すぐに真剣な表情へと戻った。
「ロイ。これからは基礎を教える。」
「体の使い方、足運び、腕の振り方、剣の握り方……。」
「すべて体に染みつくまで、徹底的に叩き込む。」
このとき、俺はものすごく嫌な予感がした。
——
それからというもの毎日、基礎という基礎を叩き込まれた。
剣の素振り、体の使い方、足運びなどを朝から晩まで、容赦なくしごかれた。
そして、一日の締めくくりにはエイドとの模擬戦。
最初の数日は毎日のように気絶していたが、最近になって慣れてきたのか気絶は少なくなってきた。
……いや、めっちゃきついんですけどぉ!!
この世界の教育方法はどこの国でもこんななんですかー?
それともエイドが鬼畜親父なだけですかねー?
……うん。絶対後者だ。
ですよねー。鬼畜だわー……
だが、その成果は確かに出始めていた。
前よりも体は軽く動き、木刀も以前ほど重く感じない。
少しずつではあるが、俺は確実に強くなっていた。
そして、その日の模擬戦
「よし。いつでもこい!」
エイドが構えを取り、俺の動きをじっと見ている。
「ふっ!!」
地面を蹴り、エイドとの距離を詰める。
エイドに及ばずとも、確実に早くなっている。
カンッ!
木刀と木刀がぶつかる。
今までなら一撃で吹き飛ばされていた。
だが、今日は違う。
カンッ!
初めて一撃を受け止めた。
「ほぅ。」
エイドの口元がわずかに緩む。
だが次の瞬間。
ドゴッ!
「ぐふっ!」
今までで一番重い一撃を受け、俺はそのまま気を失った。
——
「はっ……! はぁ、はぁ……。」
起きた時はベッドの上にいた。
あの一撃が当たったところがまだ全然痛い。
いやぁ、まだまだエイドには勝てそうもない。
……いや、あと何年かかるんだ、これ。
それでも、この修行は嫌いじゃなかった。
なぜなら、確実に強くなっていると実感できているからだ。
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