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【本編完結済】Memory's Dogma - 記憶をデータ化できる2030年の日本で巻き起こる脳科学×異能サスペンス  作者: 高橋ワタル
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19ー2 再逢

 俺の返答を聞いて、レイナは一瞬考える仕草をしていたが、「ああ、もう!」と両手で頭の髪をぐしゃぐしゃとかき回した。


「こんなの、ほんと、どうかしてると思うけど」レイナは両手を腰に当て、下を向いた。


「私は、ヒロキの一番大切だと思うものを、信じるって決めた」レイナは下げていた顔を上げ、俺の目を見た。そして、静かに頷いた。「だから、その話も、信じる」


 俺もレイナに無言で頷き、俺たちは暗い廊下を急いで駆け出した。


 先ほどの角を右に曲がると、やはりそこに白猫は居た。俺たちを待っていたかのように、こちらを見ていた白猫は、再び曲がり角に消える。


 それを俺たちは追い掛ける――白猫が進んでいく方向へ。


 白猫の足取りを追っていくと、不思議と行き止まりにぶつからず進むことが出来た。そして、最後に白猫は壁に空いた小さな穴に入っていった。マップ上には存在しない通路――恐らく振動の衝撃で空いたのだろう。人間がひとり、ギリギリ通れそうな大きさだ。


「秘匿措置シーケンスが実行されました。本研究施設は二分後に爆破されます。各スタッフは避難してください」


――あと二分。


「レイナ……行こう」


「ここまで来たら、もう、進むしかない」


 俺たちは意を決して、その穴を通っていく。すると、その穴の先は、階段へと通じていた。上へ続く階段――出口に続く道だ。周囲を見渡すと、白猫の姿はどこにも居なかった。


「ヒロキ、急いで!」レイナは先に階段を登り始めていた。


「ああ!」俺はレイナを追い掛けるようにして、階段を駆け上がった。


 どこまでも続くようなリノリウムの段を、必死に飛び越えていく。両足に大きな負荷がかかり、徐々に痛み出す。そして、B2という表示を通り過ぎた直後、一際大きな音が階下から響いた。そして、これまでとは比べ物にならない程の揺れ。


「キャッ!」前を行くレイナが躓きそうになるのを、俺はとっさに支える。


「はぁ……はぁ……」レイナは肩で息をしながら、両手を膝につけた――相当疲弊している。無理も無い。俺の両足もずっと走り続けて、かなり疲れている。レイナの足は、とうに限界を超えているだろう。


「秘匿措置シーケンスが実行されました。本研究施設は六十秒後に爆破されます。各スタッフは避難してください」


「もう、爆発が……」


「まだ時間はある! 諦めるな!」


 俺はレイナの手を引き、進もうとすると、レイナが手を引き返してきた。


「ヒロキ、あなただけなら、まだ……」


「馬鹿言うな!」


「でも……」


 考えている暇は無かった。


「ええい!」俺はそのまま手を強く引き、レイナを抱き抱えた。


「キャッ!?」慌てふためくレイナを無視して階段を進み始める。「ちょっと、何してるの! 放して!」


「断る! 俺は、絶対諦めないからな……!」


「秘匿措置シーケンスが実行されました。本研究施設は三十秒後に爆破されます。各スタッフは避難してください」


 アナウンスと同時に、B1という表示が見えた。もう少しだ。


「……馬鹿」レイナが恥ずかしそうに呟いた。


 俺は聞こえなかった振りをして、さらに階段を登り続けた。一歩一歩、倒れないように。やがて、最後の段に差し掛かった。その先に、一枚の扉が見える。あれが出口だ――。


「秘匿措置シーケンス開始。秘匿措置シーケンス開始」


 階下から、大きな爆発音が聞こえた。同時に、大きな揺れが起こり、俺は体制を崩した。とっさに、レイナが上になるように身体をねじる。そして、レイナを抱えたまま俺は倒れた。


「って……!」背中に強い衝撃があり、直後、上からレイナが倒れこむ衝撃があった。


「ヒロキ!」


「レイナ、早く……出ろ……」


「馬鹿!」


 レイナは俺の上から素早く離れ――


「んんん~!」俺の肩に腕を入れ、引っ張り上げようとした。


「レイナ……」


「良いから、早く!」


 俺も何とか、立ち上がろうと必死に身体に力を入れた。レイナは俺を半分引きずりながら、扉の方へと手を伸ばす。「届いて……!」


 レイナの手に重ねるように、俺も手を伸ばした。レイナを後押しするように、体重を前にかける。


「届けええぇぇ!」一際強い衝撃に耐えながら、俺は叫んだ。


 そして――周囲は光に満たされた。


(間違いなく、太陽の光だ。俺たちは、本当に、出られたのか――)


 すぐ横を見ると、コネクトセンターの正面入口が見えた。俺たちはその隣の、ドームの一角から出てきたようだった。


「ヒロくん」


「え?」


――声が、聞こえた。大切な人の声が。


 コネクトセンターの正面入口をもう一度見ると、そこにはこちらを見つめる白猫の姿があった。白猫は白くまばゆき、輪郭を変化させた。その姿は、まぎれもない、彼女の姿になった。


「また、会えたね」穏やかな表情で、彼女は言った。「ありがとう、ヒロくん」


 彼女の姿は少しずつ透明になっていく。その背後の入口ドアの奥から、灰色の煙がこちらへ向かってくるのが見えた。それは驚異的な速度でドアへと辿り着き、ガラスを突き破って更に俺とレイナの居る場所へと噴き出してきた。強烈なガラスの破壊音と爆風。


「――さようなら」


 視界が灰色で満たされた時、耳元でささやき声が聞こえた気がした。


 やがてセミの声が聞こえてきた。


 それは徐々に音量を増していき、全ての音を上から塗り潰したあと、突如として静寂へと変化した。

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