18ー3 提示された真相
黒田は、座り込んだ俺たちを見下ろしながら歩いてくる。
「ご名答だ。折笠くん」黒田の身体には、揺るぎない自信がみなぎっている。
「私にも、君と同じようにマイクロチップが埋め込まれている」黒田は右手の人差し指で、自分のこめかみをとんとんと叩いた。「ここにね」
「そして、そらのくんを始め、維持装置に入っている彼らそれぞれにも、同じようにマイクロチップが埋め込まれている」
俺はそらのを見た。そらのの脳のどこかにも、チップが埋められているというのか――。
「私と彼らの脳はリンクしているのだ。私の脳が何かを感じると、その電気信号が彼らに伝わり、彼ら自身の脳がそれを感じているのだと錯覚させることが出来る。つまり、私が危険を感じた時、彼らは自らが危機に瀕した状態と錯覚するというわけだ。彼らは自己防衛のために、能力を発現しようとする。その際に発生する電気信号を私が受け取り、私は彼らの能力を使えるようになるという訳だ」
「彼らが……自ら動いていると言うの?」レイナは唖然としていた。
この部屋で眠っている全ての人間の脳が、黒田の脳と同じ状態になるようコントロールされている――彼らは自分を守るために、眠りながらにして力を発揮させる。
「理解してくれただろうか?」黒田はこちらにゆっくりと歩きながら言った。「さあ、改めて聞こう」
黒田はとうとう俺の足元に立ち、仁王立ちした。
「こちら側に来る気にはなったかね?」
俺は怯んだ。もちろん、黒田の言う通りになど絶対にしたくない。だが、黒田を倒すことは現実的ではない。明らかに、このままでは勝てない。いくら見渡しても周囲にあるのは絶望ばかりで、勝算は一つも見つからない。
――考えろ。この状況を打開する方法を。
だが、何を考えても黒田に読まれていることを思うと、無駄なような気がしてならない。
「ひとつだけ、あなたに勝つ方法があるわ、クロダ」その時、聞こえるか聞こえないほどの小さな声で、レイナがつぶやいた。
「レイナ、それは……?」俺がレイナに訊くと、何故かレイナは言うのをためらった。
黒田はレイナをしばらく凝視していたが、やがて膝を叩いて大笑いを始めた。
「ハハハ、さすがだな折笠くん。君の考えることは!」
黒田に勝つ方法とは、いったいなんだっていうんだ?
「レイナ! 言ってくれ!」俺はレイナに詰め寄った。
レイナはそれでもしばらく無言で、葛藤の表情を浮かべたあと、渋々と言った雰囲気で答えた。
「……あの装置を止めてしまえば、クロダは能力を使えなくなる」レイナの答えに、俺はハッとした。
黒田の使っている能力は他者の借り物だ。ということは、借りている元の発現者とのリンクを断ち切ってしまえば良い。非常にアナログな方法ではあるが、効果は間違いないだろう。
「でも、それはつまり、他の皆を――」
そこから先を言うのはためらわれた。だが、俺の想像していることは既に承知の上なのだろう、レイナが俺の言葉に続ける形で答えた。
「ええ……犠牲にすることに、なるでしょうね……」
レイナは冷静に言ったつもりなのだろうが、俯いている顔は青ざめていた。
――出来るだろうか。そんなことが。
例え、意識を取り戻すことが二度と無い状態になっているとしても。あの装置で、かすかな命が繋がれているのだ。そらのを、他の皆を、殺すことなんて――動くことができなくなった俺とレイナを見て、黒田の笑い声が聞こえた。
「ここに居る全員を殺して回るかね? 悪を倒すためならば、多少の犠牲はやむを得ないという訳だ」
俺は黒田を睨んだ。しかし、いくら睨んでも、この状況を変えることは出来ない。
「やっぱり、出来ない……ここに居る人たちを、犠牲にするなんて」レイナはそう呟いて、唇を噛んだ。
俺は改めて、装置の中で眠るそらのを見つめた。
そこには確かに、生身のそらのが存在している。それはもはや、“生きている”と呼べる状態では無いのかもしれない。それでも、かすかに肩を動かして息をするそらのをこの手に取り戻す。そんな一縷の望みを捨てずに、最後まで闘うか。それとも、そらのをこんな姿にした黒田を倒すために、ここに眠っている肉体のそらのを犠牲にするか――。
(俺は、どうすればいい――?)
あの巫女服姿の少女、美琴の言葉が脳裏をよぎった――彼女は選択した。次はあなたが選択する番です。
俺は目を閉じ、深くゆっくりと、息を吸い込む。
夕日に染まるケーキ屋の幻想の中で、そらのが最後にささやいた言葉を思い出す――ヒロくんなら、まだ頑張れるよ。
俺は再び息をゆっくりと吐いて、目を開く。
――俺は、選択した。




