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【本編完結済】Memory's Dogma - 記憶をデータ化できる2030年の日本で巻き起こる脳科学×異能サスペンス  作者: 高橋ワタル
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16ー6 発現者

 黒田の話を聞きながら、俺は美琴から聞いた話を思い出していた。


 他人とは違う能力を持つ人間が迫害されがちだ、というところまでは黒田と美琴の意見は同じだ。美琴は、そんな人たちがこの世界で共存できるよう力を尽くしてきた、と言っていた。全ての心の闇を取り払うことが出来たのかはわからないが、そのおかげで、そらのは救われる部分だってあったはずだ。それと同じように、他にも救われた人たちがたくさん居るはずだ。


 だが、この男が言っていることは、美琴の信念とは正反対だ。共存するのではなく、支配する。しかも、人間の善意を利用して。


「そんな方法で格差をなくしたとしても、より大きな混乱を生むだけだ!」


「確かに、物事の始まりにおいて、多少の混乱は起こるものだ。だがね、日本人という人種は、心のどこかで、誰かにコントロールして欲しいと思っているのだよ」


「そんな理屈、あんたが自分を正当化しようとしているだけだ」


「自分で考えるのは面倒くさい、自分で行動して失敗するのが怖い、自分が責任を持つことを回避したい。だから、誰かが考えたことに倣い、誰かが行動することに便乗し、誰かが責任を背負ってくれることを期待している。そのくせ、自らの自由が危うくなりそうな気配を感じ取るやいなや、声高に権利を主張し出す」


 黒田は目を閉じ、やれやれと首を左右に振った。「自由と責任がトレードオフであることさえ知らないのだ。全く持って、身勝手だとは思わないか?」


 それから黒田は突然またあのギラギラした笑みを見せた。


「だが、私はそれを受け入れようじゃないか」


 黒田は両手を左右に大きく広げる。それは世界全体を自身の腕で包み込もうとしているかのようだ。


「多いに結構だ。我々が考え、我々が行動し、我々が責任を取ろう。自由を侵害される危機感さえ感じさせずに、導いてやろう。そうなれば――」


 黒田は右手を強く握り、目の前で振った。「日本という国はやがて、他の国に対抗しうる力を持つことだって出来るだろう」


「あんたは、戦争を起こそうというのか……」


「君はずっと勘違いしているようだが、私は争い事がしたい訳じゃないんだ。むしろ、無益な争いを無くすために、統治したいと思っているだけなんだよ」


「そんな統治の仕方で、皆が幸せになるとでも思っているのか」


「ふむ、君はそう思わないというのかな。それはどうしてかね?」


 黒田は心底不思議そうに尋ねてきた。


「そんなやり方で皆が力を手にしたとしても、その力の差がやがて格差を生む。その格差が、新たな差別に繋がって、不幸な人間が出てくる」


 俺はできる限り大きく黒田に叫んだ。「それは、力を手にする前と何ら変わりないじゃないか!」


 黒田は俺の言葉を聞いて、「ふむ」とあごに手を添え、少し考えてから言った。


「つまり君は、力の優劣が人間の優劣に比例すると思っている訳だ」


「……っ!」黒田の言葉に思わずはっとしてしまう。「違う! そういうことが言いたい訳じゃ……」


「そうかね?」黒田は肩をすくめる。「もっとも、それは自然界では当たり前のことだ。弱肉強食という、非常に単純な法則だからね」


 黒田は俺の方へ右手を差し出した。「そう考えれば、自然なことなのではないかね? 純粋な能力の優劣が差を生むことの何が悪い?」


「それに」と黒田は両手を背中の後ろで組んだ。「今は日本だけだが、ゆくゆくは世界全体を発現者の世界にしようと思っているんだ」


 黒田は俺の方に身体を向けて、両手を大きく広げた。


「そうなれば、もはや生まれた国や時代や家なんてものは関係なくなる。完全に公平な実力主義の世界になるんだぞ。それに――」


 黒田は一旦言葉を区切り、片頬をにやりと歪めた。


「君の持つその力ならば、他人を支配する側に立てるだろう」


「そんなものに、興味なんかない!」俺は即座に反論した。


「誰かを力で支配して奪った幸せなんて、そんなもの、誰かに奪われるまでの、かりそめの幸せじゃないか。それを手にした瞬間から、誰かに取られることを恐れて、心の底から安心することなんて永遠に出来ない」


 俺は黒田の目の、その奥にある深淵に向かって言った。「あんたの掲げる思想、未来には、本当の意味での公平な世界なんて存在しない!」


「ふう……」黒田は大きなため息を吐いた。「ここまで話をしても駄目か」


 黒田は、残念そうにつぶやくと、こちらに背中を向けた。暫くの沈黙が訪れた後、黒田は再度こちらを振り返る。そこには、強い失望を表したような、酷く冷めた表情があった。


「残念だよ、楠原くん。出来ればこんなことをしたくは無かったのだが、やむを得ない――」


 黒田は再度俺に背中を向け、「諸君、始めてくれ」と言って、右手を軽く挙げた。その直後、部屋のドアが開く音が聞こえた。その音の方向を見て、俺は息をのんだ。


――そこには、研究員らしき男たちに両脇を抱えられた状態で立っているレイナの姿があった。


 その両手は、金属製の機械のようなもので拘束されている。研究員たちに押される形で、レイナは部屋に入ってきた。


「……ヒロキ?」レイナが期待と不安の入り混じった声で俺の名を呼んだ。


「レイナ!」俺もレイナの声に答える。自分がまだ無事だと伝えるために。


 レイナは俺の姿に気づくと、俺の方へ近づこうともがいた。


「動かないで」それは葵さんの声だった。


 後ろから部屋へと入ってきた葵さんが、レイナの背中に銃を向ける。


「葵、さん……」

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