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【本編完結済】Memory's Dogma - 記憶をデータ化できる2030年の日本で巻き起こる脳科学×異能サスペンス  作者: 高橋ワタル
CODE: 01 下

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16ー1 発現者

 背中に伝わる不規則な振動の感覚で、俺の意識は呼び戻された。


「あ、れ……」目を開くと、グロテスクな色の照明と、それに照らされている無機質な天井があった。それは自動的に下から上へとスライドしていく。


 その様子をぼんやりと眺めているうちに、少しずつ意識がはっきりしてきた。始めは微弱だった後頭部の違和感が、徐々に強くなっていく。


 ああ、そうか、俺はさっき殴られて――そして、どうなった?


 鈍く緑色に光る天井からは、今が何時なのかも予想することができない。そもそも、ここはどこだ?


 先程から、車輪がカラカラと移動するような音と、カツカツという足音が聞こえている。


 その音の正体を確かめるために周囲を見ようとしたところで、俺は初めて、首から下が動かせなくなっていることに気付いた。


「なんだ……これ……」


 視線を巡らせると、白衣を着た男が数人、俺の両脇にぴったりとついて歩いているのが見えた。その男たちは皆、手を伸ばしており、俺の近くの何かを持っているような姿勢で、無言で進行方向の先を見ている。


 俺は、まるで病院のように、ストレッチャーのようなものに乗せられて、男たちに運ばれているのだ。先程から背中に感じている微弱な振動の正体がわかった。天井が移動しているのでは無い。俺が移動させられているのだ。


 さらに男たちの向こうを見ると、いくつも扉が並んだ廊下が続いている。


 天井の高さや扉の並び方には既視感がある――ここは、コネクトセンターだ。


 初めてここに訪れた日、そらのと会話をしに来たあの日の光景が浮かんだ。廊下一面を照らしていた、明るい星のようにも蛍の瞬きにも思えたあの光が、今はひっそりと消えてしまっていて、不気味な緑色の照明と、先の見えない暗黒が充満している。身体がひとりでに震え始めた。


「くっ……」改めて腕を動かそうとしてみたが、やはり何かで固定されている。


 首だけを持ち上げると、腕や手首、足首や胴体にも黒いベルトが巻きついているのが見える。自分の身体は今、完全に拘束された状態にある。


「おい、どこに行こうとしてるんだ……」


 男たちは俺の方を見ることもせず、無言のままストレッチャーを動かし続ける。声が喉に張りついて、掠れてしまっている。それでも、俺はあらん限りの声を絞り出した。


「答えろよ!」俺の叫びに答える者は居ない。声だけが廊下に反響し、再び足音と車輪の音だけになる。


「くそ……」


 気を失ってしまう前に見た光景を思い出す。震える手で銃を構えた葵さんの姿――あれは幻だったのだろうか。いや、そんなはずはない。だが、あの光景が現実だなんて……。


「はっ……」俺はある思考に辿り着き、息を呑んだ。レイナは今、どこに居る?


 俺が捕えられている隙に逃げることが出来たのだろうか。それとも――。


「レイナは、どこだ!」相変わらず、どいつもこいつも無反応だった。


 やがて俺を乗せたストレッチャーは動きを止めた。見ると、進行方向に大きな扉が見えた。先頭に居たふたりの男がその扉を開く。


 重く、低い、唸り声のような音を立てて、扉が開かれていく。それは異世界へと続く、怪物の大きな口のようにも見えた。


 そして、再びストレッチャーは動き出す。


 大きな口の、その先へ――。

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