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第6話:『絶対の防御の、その先へ』

空を覆う巨大な幾何学模様。

フェンリル領の住人たちは、突如現れた白銀の光に目を奪われていた。


「な、なんだあの光は……!?魔物の群れが来るっていうのに!」


街の境界線まで、飢えた魔狼(ワーウルフ)の群れが迫っている。その数、およそ三百。バド卿たちが酒を飲んでいる間に、防衛線はとっくに崩壊していたのだ。


だが、アルティナは執務室の窓辺で、優雅に鉄扇を扇いだ。


「演算完了。――指向性反射(ディレクション・リフレクト)、起動」


刹那。

街の周囲に展開されていた光の壁が、鏡のように波打った。

魔狼たちが牙を剥き、結界に衝突した瞬間――彼らが放った突進の衝撃が、そのまま数倍の威力となって本人たちへと跳ね返った。


ドォォォォォン!


爆音と共に、最前線の魔狼たちが一瞬で肉塊と化す。

後続の魔物たちが放つ火球も、爪の斬撃も、すべてがアルティナの結界に触れた瞬間に「反射」され、自らを焼き、切り刻んでいく。


「な、なんだ……!?魔物が勝手に自滅していくぞ!」


呆然と窓の外を眺めるバド卿。

アルティナは、そんな彼を冷ややかな一瞥で射抜いた。


物理法則(バグ)の書き換えですわ。私の結界は、ただ防ぐものではありません。攻撃側のエネルギーを、そのまま死因へと転換する……効率的でしょう?」


わずか数分。

街を飲み込もうとしていた三百の魔物は、アルティナが指一本動かすまでもなく、自らの攻撃によって全滅した。

静まり返った街に、アルティナの凛とした声が魔法で増幅されて響き渡る。


『フェンリルの皆さま。安心なさい。無能な管理人の時代は、たった今、終わりましたわ』


街の人々が顔を上げる。

窓辺に立つアルティナの姿は、逆光を浴びて、まるで降臨した戦女神のように神々しく映った。


『今日からこの地は、私の盤面(にわ)です。……汚れを落とし、秩序(ロジック)を再構築しましょう。ついてくる者には、最高の安全と明日を約束いたします』


地響きのような歓声が上がった。

絶望に慣れきっていた領民たちが、初めて「希望」という名の強烈な光を見た瞬間だった。


一方、その光景を遠くの丘から眺めていた影があった。

漆黒の鎧を纏ったレオンだ。


「……一ヶ月と言ったが、一晩で掌握しちまったな。おい、アルティナ。お前を『盾』にしておくのは、世界にとって最大の脅威かもしれんぞ」


レオンは獰猛な笑みを浮かべ、馬を走らせた。

軍神令嬢による「辺境改革」は、まだ始まったばかりである。

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