第5話:『掃除(リストラ)の時間は、短めがよろしいですわ』
辺境領フェンリルの執務室。そこは埃の舞う不潔な空間だった。
アルティナが到着した時、領主代行を任されていた中年の太った役人――バド卿は、酒を片手に書類の山を放置して高笑いを上げていた。
「ひ、ひひっ!殿下も人使いが荒い。こんな死地に、追放された小娘一人を放り出すとは。おい、小娘。適当に茶でも淹れて、隅っこで震えていろ」
バドの背後では、数人の兵士たちが卑屈な笑みを浮かべてアルティナを値踏みしている。
だが、アルティナは顔色一つ変えず、持参した白い手袋をゆっくりはめ直した。
「……汚いですわね」
「あぁん?何だと?」
「空気も、床も、そして――貴方たちの存在も。すべてが、私の『完璧な領地運営』に不要なゴミ(バグ)ですわ」
アルティナが鉄扇をデスクに叩きつけた。
バキ、と重厚な木材が悲鳴を上げて亀裂が入る。その衝撃で酒瓶が倒れ、バドの服を汚した。
「な、何を……!衛兵!この無礼な女を捕らえろ!」
兵士たちが槍を構えて飛び出す。しかし、彼らが一歩踏み出すより早く、アルティナの周囲に青白い幾何学模様の術式が展開された。
「――空間固定」
刹那、兵士たちの動きが石像のように止まった。
魔法で物理的な「座標」を固定されたのだ。指一本動かせない異常事態に、バドは腰を抜かして椅子から転げ落ちる。
「さて。バド卿。貴方がこの三年間で着服した軍事費、および領民から搾取した税の総額は、三千二百万レムリア……。計算、合っていますわね?」
「な、なぜそれを……!帳簿は隠したはず……!」
「私の眼(演算)をごまかせると思わないことですわ。帳簿の整合性が取れないなど、素人でも数秒で見抜けます」
アルティナは、空中に魔法で「着服の証拠」となる数字の羅列を浮かび上がらせた。
それは逃れようのない、死刑宣告にも等しいデータ。
「貴方たちは今日をもって解雇です。……いえ、これだけの横領ですもの、地下牢が妥当かしら?」
「ふ、ふざけるな!誰がこの地の魔物から領民を守ると思っている!俺たちがいなくなれば、この街は一日で滅びるぞ!」
バドが必死に叫ぶ。だが、アルティナは冷ややかな笑みを深めるだけだった。
「守る?貴方たちが?……笑わせないでくださいませ。魔物の侵入経路すら把握していない無能に、守れるものなど何一つありませんわ」
アルティナが窓を開け放つ。
その先には、今まさに街へ向かってくる魔物の群れが見えた。
「見ていなさい。これが――本物の『盾』の仕事です」
彼女が鉄扇を空へ向けた。
瞬時に、フェンリル領全体を包む巨大な幾何学魔法陣が、空に描かれる。
それは、彼女が母国で維持していた結界よりも、さらに高密度で攻撃的な「新時代の防壁」だった。
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