第4話:『辺境の死地は、私の庭』
演習場に静寂が満ちる中、アルティナは扇を閉じ、優雅に一礼した。
先ほどまで彼女を侮っていた騎士たちは、もはや蛇に睨まれた蛙のように硬直している。
「……見事だな。お前を連れてきた俺の判断に、これでも文句ある奴はいるか?」
レオンの問いに、誰も答えない。
ボリス副団長ですら、アルティナの冷徹な魔力演算の前に沈黙を守るしかなかった。
レオンは満足げに頷くと、アルティナの隣に歩み寄り、低い声で囁いた。
「実力は見せた。だが、アルティナ。お前にこの帝国での『地位』を公式に与えるには、もう一つだけ、実績を積んでもらう必要がある」
「あら、試練かしら?構いませんわ。私への報酬に見合うだけのお仕事なら、喜んでお引き受けいたします」
アルティナが不敵に微笑むと、レオンは広げた地図の一点を指差した。
そこはレムリア帝国の北端、魔の森に隣接する”「辺境領・フェンリル」”。
「ここはかつて国境の要衝だったが、今や魔物の氾濫と汚職まみれの役人どもで崩壊寸前だ。誰もが『死地』と呼び、管理を投げ出している。お前にここを任せたい」
「管理を投げ出している、ではなく……『詰んでいる』から私に片付けろ、ということでよろしくて?」
「はっ、話が早くて助かるぜ。三ヶ月だ。三ヶ月でそこを立て直せ。そうすれば、お前に『帝国の客分軍師』としての全権を正式に授与しよう」
周囲の騎士たちがざわめく。フェンリル領は、歴戦の将でっすら逃げ出すほどの難所だ。それをたった三ヶ月で、しかも追放されたばかりの令嬢一人に任せるなど、無謀を通り越して正気を疑う提案だった。
だが、アルティナの銀色の瞳は、むしろ愉悦に輝いていた。
(魔物の氾濫経路、地形による防衛効率、そして腐敗した経済構造……。ふふ、再編のしがいがありますわね)
「三ヶ月も必要ありませんわ、レオン殿下。……一ヶ月で十分です」
「一ヶ月だと?」
「ええ。その代わり、フェンリル領での全ての軍事・民政の決定権を私に委任してくださいませ。私の盤面に、余計な駒の介入は不要ですので」
アルティナは、自らの魔力で空中に幾何学的な数式を展開してみせた。
それは、フェンリル領を鉄壁の要塞へと作り変えるための、完璧な設計図の一部だった。
「面白い。一ヶ月で変えてみせろ。失敗すれば、お前はただの亡命者として地下牢行きだ。……だが、成功すれば」
レオンがアルティナの顎をクイと持ち上げ、その唇の間近で笑った。
「お前が望む、すべての『復讐』の軍備を俺が用意してやる」
「……復讐、ではなく『資産整理』と呼んでいただけます?無能な者に持たせておくには、あの国は少しばかり惜しい土地ですから」
軍神令嬢と狂犬王太子の、世界を買い叩くための契約がここに成立した。
最後までお読みいただきありがとうございます!
もし「面白い」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、作品ページ下部にある**【☆☆☆☆☆】**からの評価や、ブックマーク登録で応援をいただけますと非常に嬉しいです!
皆様の応援が、執筆の最大のモチベーションになります。
評価・感想・ブックマーク、ぜひよろしくお願いいたします!




