第3話:『隣国の洗礼と、絶対の演算』
レムリア帝国の国境守備隊の本陣。
アルティナを連れて帰還したレオンに対し、居並ぶ騎士たちの視線は冷ややかだった。
「……殿下、正気ですか。かつての宿敵、グラナードの軍女をこの要塞に入れるなど。もし内通者であれば、我々の首は飛びますぞ」
口を開いたのは、副団長のボリスだ。
彼はレオンに忠誠を誓いつつも、女であるアルティナが「軍神」などと呼ばれていることが気に食わない様子だった。
レオンは面白そうに鼻で笑い、アルティナを振り返った。
「言われてるぞ、アルティナ。お前がただの『着飾った置物』じゃないことを、こいつらに分からせてやる必要があるな」
「あら。ご挨拶ですわね。……いいでしょう。ちょうど、旅の退屈しのぎに体を動かしたいと思っていましたの」
アルティナは優雅に歩み出て、腰に差した鉄扇を抜いた。
「ボリス副団長、とおっしゃいましたかしら?あなたの配下で最も腕の立つ魔導騎士を三名、お貸しいただけます?三分で『再教育』して差し上げますわ」
「なっ……!三人を三分だと!?舐めるのも大概にしろ!」
ボリスの合図で、精鋭の魔導騎士三人がアルティナを取り囲んだ。
彼らは一斉に詠唱を開始し、殺傷能力の高い火球魔法を展開する。だが、アルティナは動かない。
ただ、鉄扇を閉じたまま、銀色の瞳で虚空を見つめていた。
(対象数三。魔力供給率、平均〇・八。術式構成、第五階梯まで三秒。……演算終了。脆弱だらけですわね)
「食らえ!」
三方向から放たれた炎の奔流。
逃げ場はない。誰もがそう確信した瞬間、アルティナが鉄扇を軽く一閃した。
「――反転」
轟音。
だが、悲鳴を上げたのは騎士たちの方だった。
放たれた火球は、アルティナの目の前で「停止」し、あろうことか放った本人たちへと正確に跳ね返ったのだ。
「ぐああああっ!?」
自身の魔法の衝撃で吹き飛ぶ騎士たち。
爆煙の中、アルティナはドレスの裾一つ乱さず、冷然と言い放った。
「魔法とは数式であり、理です。それを理解せず、ただ魔力をぶつけるだけの貴方たちは、兵士ではなく『歩く松明』に過ぎません」
静まり返る演習場。
レオンが愉快そうに拍手を送る中、アルティナはボリスの目の前まで歩み寄り、閉じられた鉄扇を彼の喉元に添えた。
「次からは、私を『女』ではなく『上官』として見ることをお勧めしますわ。……いいですね?」
「は、ははっ……!」
屈強な副団長が、少女の気迫に押されて膝をつく。
アルティナ・フォン・グラナード。
隣国レムリアにおける彼女の快進撃は、ここから幕を開ける。
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