第22話:『演算不能の、その場所へ』
北の果て、永久凍土に閉ざされた「静寂の谷」。
そこはレムリア帝国の版図から外れた、人類未踏の聖域だった。
「……ここですわ。私の感知に、断続的にノイズを叩き込んでくる座標は」
アルティナは、厚手の毛皮がついた軍装に身を包み、魔導ランプを掲げて雪中を進んでいた。
背後には、凍てつく風を物ともせず、レオンが巨大な大剣を背負って追随している。
「おい、アルティナ。ここから先は魔力そのものが変質しているぞ。俺の皮膚がピリピリしてやがる」
「ええ。この空間は、既存の魔導法則が書き換えられていますわ。……まるで、この世界そのものの『外部』から持ち込まれた技術のように」
二人の前に現れたのは、雪に埋もれた巨大な鋼鉄の扉だった。
装飾など一切ない、無機質な機能美。それはこのファンタジー世界において、明らかに異質で、むしろアルティナの前世の記憶にある「高層ビル」や「シェルター」の質感に近いものだった。
「――古代遺産、ですか。いいえ、これは……」
アルティナが扉に手を触れた瞬間、何もない空間に青白い光の文字が投影された。
『個体識別……認証失敗。……再試行しますか?』
「こいつ、喋りやがった!?」
レオンが剣を抜きかけるが、アルティナは冷静にその文字を指でなぞる。
「……バイナリ言語。ふふ、まさか異世界で、これほど馴染み深い形式に出会うなんて。……演算開始。『管理者権限(管理者特権)』で強制介入しますわ」
アルティナの指先から、膨大な魔力と数式が扉へと流れ込む。
既存の魔法とは一線を画す、圧倒的な処理速度。
数秒後、重厚な鋼鉄の音が鳴り響き、数千年の間、閉ざされていた扉がゆっくりと口を開けた。
「……さあ、レオン殿下。この世界が隠し続けてきた、最大のリスクの正体を暴きに行きましょうか」
扉の先から溢れ出すのは、凍てつく空気ではなく、どこか懐かしく、そして不気味なほど一定の温度を保った「冷房」の風だった。
アルティナの銀色の瞳には、すでに内部の複雑な構造図が投影され、彼女の口角がわずかに上がっていた。
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