第21話:『事後処理は、迅速に』
神罰の光が消え、広場には静寂と、それから爆発的な歓声が沸き起こった。
跪く民衆を背に、アルティナは光の檻に閉じ込められた司教たちへ、一枚の羊皮紙を突きつけた。
「これは、教団がこれまでグラナード王国から吸い上げてきた寄付金、および土地の権利書の一覧ですわ。……すべて、レムリア帝国の管理下に置かせていただきます」
「き、貴様……!これほどの暴挙、教皇聖下が黙っておらぬぞ!」
「どうぞ、お好きなだけ報告なさって。ですが、神の奇跡を悪用し、あわや自国の民を焼き殺そうとした『不祥事』。……その責任を取らされるのが誰か、教皇様なら正しく演算(判断)されるのでしょうね」
アルティナの言葉は、刃よりも鋭く司教たちの喉元を突いた。
彼女はすでに、教団本部の弱みを握る「経済的な裏工作」も済ませていたのだ。
一方、壇上の隅で震えていたエレンは、もはや誰の視界にも入っていなかった。
聖女の光を失い、泥に汚れたドレスを着た彼女は、ただの「機能不全を起こした駒」に過ぎない。
「……アルティナ、もういいだろう。あとは俺の部下に任せろ」
レオンが歩み寄り、彼女の肩に自身の外套をかけた。
張り詰めていた空気が、彼の体温と共に少しだけ和らぐ。
「……そうですわね。ゴミ掃除にこれ以上時間を割くのは、リソースの無駄というものですわ」
その夜、帝国の前線基地となった旧王宮のバルコニー。
アルティナは、眼下に広がる静かな街を見つめていた。
「レオン殿下、お疲れ様でした。……これで当面のノイズは消せましたわね」
「ああ。だが、お前、少しは休みを計算に入れたらどうだ?顔色が白いぞ、元からだがな」
レオンが差し出したのは、温かい湯気が立ち上るココアだった。
アルティナは意外そうに目を丸くし、それを受け取る。
「……私の演算によれば、現在の疲労度は許容範囲内ですが……。せっかくの毒見役の勧告ですもの、一口だけいただきましょう」
ふー、と息を吹きかけ、一口。
甘さが脳に染み渡り、アルティナの唇がわずかに綻んだ。
「……糖分は、思考の潤滑剤になりますわね。悪くありませんわ」
「はっ、素直に『美味い』って言えばいいんだよ。……なあ、アルティナ。お前が望むなら、俺はこの大陸すべてをお前の『盤面』にしてやってもいいんだぜ」
レオンの黄金色の瞳は、冗談を言っているようには見えなかった。
アルティナは夜風に髪をなびかせ、空に輝く星々を見上げた。
「……世界すべて、ですか。ふふ、それだけの巨大なシステムを管理するには、今の私の演算能力でも一生かかりそうですわね」
二人の間に流れる、穏やかな時間。
だが、アルティナの魔導センサーは、遠く北の地に、これまでとは比較にならないほど巨大な「魔力のバグ」を感知していた。
最後までお読みいただきありがとうございます!
もし「面白い」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、作品ページ下部にある**【☆☆☆☆☆】**からの評価や、ブックマーク登録で応援をいただけますと非常に嬉しいです!
皆様の応援が、執筆の最大のモチベーションになります。
評価・感想・ブックマーク、ぜひよろしくお願いいたします!




