第16話:『平穏は、緻密な計算の上に』
グラナード王国を事実上の属国として買い取ってから数週間。
アルティナは再び、レムリア帝国の辺境領フェンリルへと戻っていた。
だが、そこはもはや以前のような「辺境の死地」ではない。
アルティナが設計した『魔導舗装』が施された道路には、多くの馬車が行き交い、街の至る所には彼女の演算によって生み出された『自動浄化水路』が清らかな音を立てて流れている。
「……アルティナ様、本日分の収支報告書と、新設した『魔導技師学院』の入学者のリストです」
かつての副団長ボリスが、今や彼女の最も忠実な右腕として、恭しく書類を差し出す。アルティナは執務室の椅子に深く腰掛け、鉄扇をトントンと机に叩きながらそれを受け取った。
「順調ですわね、ボリス。無駄な摩擦が消え、人々の動きがロジック通りに噛み合っていく……。これこそが、あるべき世界の姿ですわ」
「はっ。ですが……王都の方では、アルティナ様のやり方を『魔女の業』と呼び、危惧する声も出始めているようです。特に、聖光教団の連中が」
その名を聞いた瞬間、アルティナの銀色の瞳がわずかに細められた。
聖光教団。この大陸で最大の信徒数を誇り、「神から与えられた魔法」以外の技術を否定する保守的な組織だ。
「神、ですわね。……あの方たちが崇めているのは、真理ではなく、ただの『利権という名の幻想』に過ぎませんわ」
アルティナが手元の魔導モニター(彼女が演算で作り出した最新デバイス)に指を触れる。
そこには、フェンリル領の周囲に張り巡らされた『アイギス・ネットワーク』の監視映像が映し出されていた。
「――お出ましのようですわ。私の盤面に、招かれざる不純物が紛れ込んでいます」
モニターが、森の奥に潜む白い法衣を纏った一団を捉える。
教団の異端審問官。彼らはアルティナの知略を「悪魔の知恵」と断定し、その「排除」を目論んでいた。
その時、執務室の窓を蹴破るような勢いで、レオンが飛び込んできた。
「おい、アルティナ!教団のクソ野郎どもが、国境の村で勝手に『魔女裁判』を始めやがった!お前を誘い出すつもりだぞ」
「……窓の修理費は、今回も貴方の私費でよろしいですわね、レオン殿下?」
アルティナは優雅に立ち上がり、壁に掛けられた白銀の鉄扇を手に取った。
「行きましょうか。神という名の不確かな数式に、現実という名の『解(答え)』を突きつけて差し上げますわ」
軍神令嬢の次なる戦いは、もはや人間同士の争いを超え、世界の「理」を巡る戦いへと加速していく。
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