第14話:『その王冠、いくらで買い取れますの?』
透明な壁を挟んで、三千の軍勢が立ち往生している。
背後にはレオンが率いる帝国の一万。まさに袋の鼠だ。
「……あ、アルティナ。冗談はもう終わりだ。ほら、君の好きなお菓子を王宮で用意させてある。一緒に帰ろう?君さえ戻れば、僕は今回の『反乱』を不問にしてあげてもいい」
カイルの声は震え、もはや王子としての威厳は欠片もなかった。
アルティナは、手にしたティーカップをゆっくりとソーサーに戻すと、憐みすら感じさせない無機質な瞳を彼に向けた。
「殿下。貴方のその『無知』という病は、もはや手遅れのようですわね。……私がここに来たのは、貴方と茶飲み話をするためではありませんわ」
「なっ……なんだと……!?」
「商談です。……カイル・フォン・グラナード。貴方と、そこにいる三千の兵士の命。それから、飢えに苦しむ貴方の国の『生存権』。……これらを一括して、私が買い取ってあげようと言っているのです」
アルティナが指を弾くと、透明な壁の一部が溶けるように開き、一枚の「契約書」が魔法の力でカイルの目の前に浮遊した。
「そ、れは……」
「グラナード王国の、事実上の『属国化』ならびに『全資産の譲渡』を記した書類です。……サインをなさい。さもなくば、私はこの壁を解除し、レオン殿下に『駆除』の合図を出しますわ」
レオンが背後で大剣を抜き、地面を削るような音を立てる。その獰猛な殺気に、騎士たちの数人が腰を抜かして落馬した。
「そんな……!そんなことをすれば、僕は父上に、国民に合わせる顔がない!」
「あら、国民?貴方がエレン様と遊興に耽っている間に、彼らはすでに私の用意したパンを食べてますわよ。彼らが求めているのは、無能な王子のプライドではなく、明日の食卓の保証ですわ」
アルティナは一歩、カイルに歩み寄った。
壁が消えた境界線を越え、彼女の纏う「覇気」がダイレクトにカイルを襲う。
「さあ、選びなさい。このまま無様にここで土に還るか、私の『所有物』として惨めに生きながらえるか。……三、二、一」
「ま、待て!書く……書くから!助けてくれ、アルティナぁ!」
カイルは震える手で、自らの血をインク代わりにし、契約書にサインした。
グラナード王国の終焉。
そして、軍人令嬢による「国家買収」が成立した瞬間だった。
「――賢明な判断ですわ。無能なりに、一つだけ正解を選べましたわね」
アルティナは契約書を回収し、背後のレオンに向かって優雅に微笑んだ。
「レオン殿下。お待せいたしました。……これより、グラナード領の『再編』を開始します」
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