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第12話:『無能の選択は、常に最悪ですわ』

グラナード王国、王宮。

かつてアルティナを糾弾した華やかな広間は、いまや重苦しい沈黙と焦燥に支配されていた。


「報告をしろ!なぜパンの値段が昨日の倍になっている!なぜ隣国からの魔石が届かないのだ!」


第一王子・カイルが、苛立ちに任せて机を叩く。その傍らで「真実の愛」の相手であるエレン男爵令嬢は、青ざめた顔で震えていた。


「そ、それが……。交易路の関税が引き上げられただけでなく、我々の買い付け先がすべて『レムリア帝国の謎の商会』に買収されておりまして……」


財務官の報告に、カイルは顔を真っ赤にして叫んだ。


「レムリアだと!?あんな野蛮な国に、そんな知恵があるはずがない!……まさか、あの女か。アルティナが裏で引いているのか!」


その時、広間に一人の兵士が駆け込んできた。


「殿下!伝令です!国境付近の村々が、魔物の襲撃に耐えかね、次々とレムリア帝国への『帰順』を表明しております!帝国側は、アルティナ様の結界を提供することを条件に、領民を受け入れている模様です!」


「何だと……!私の民を盗むというのか!」


カイルは逆上し、剣を抜いた。


「許さん……。アルティナ、貴様どこまで私を愚弄すれば気が済むのだ!兵を出せ!強制的に連れ戻す!あいつの結界さえあれば、この問題はすべて解決するのだ!」


それは、最悪の「悪手」だった。

国家の体力が削られている中での無謀な越境軍事行動。アルティナの計算通りの反応である。


一方、レムリア帝国の前線基地。

アルティナは、手元の魔導モニターに映し出されるグラナード軍の動きを見て、静かに紅茶を啜った。


「読み通りですわね。追い詰められた獣は、最も短絡的な道を選ぶ。……レオン殿下、獲物が罠にかかりましたわ」


隣で大剣を磨いていたレオンが、野獣のような笑みを浮かべて立ち上がる。


「ああ、待ちくたびれたぜ。あいつら、自分から『侵略の正当な理由』をプレゼントしに来てくれたわけだ。……で、どう料理する?全滅か?」


「いいえ。彼らには『無敵』という絶望を味わっていただきます」


アルティナが鉄扇を開くと、戦場全体を覆うほどの巨大な術式が起動準備に入った。


「武器を捨てて降伏するか、未来永劫、透明な壁の前で無力に剣を振り続けるか。……選ばせて差し上げましょう」


軍神令嬢の盤面は、いまや母国の命運を完全に飲み込もうとしていた。

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