99,バスルームでさらに続けることとドット柄のパジャマと大きな満月
有希は、あわてて両手の力を緩める。
「伸くん?」
「まだ、肩が少し痛むんだ」
「あっ、ごめん」
伸は、左手で前髪をかき上げながら言う。
「いいよ」
伸の、痛みをこらえる顔もセクシーだと思う。気持ちが高ぶり、体が火照って、もう収まりがつかない。
有希は、伸の膝から下りながら言った。
「じゃあ、痛くないようにしてあげるから、横になって」
「あ……わかった」
戸惑いの表情を浮かべながらも、伸は素直にベッドに横たわった。有希は、伸のシャツの裾をたくし上げる。
「確認」は、長く続き、やがてバスルームへと場所を移して、さらに続けられた。
翌日は、遅い朝食の後、二人で街に出かけた。買い物をしたり食事をしたりして、あちこちぶらつき、カフェの閉店時間に合わせて、そのまま伸の実家に向かう予定だ。
出会って間もない頃、二人で行彦の墓参りに行ったのが初めてのデートだが、有希にはそのときの記憶がないので、実質、これが初めてのデートだと言える。
今夜、伸の母に会いに行くのだと思うと、どうしてもドキドキしてしまうのだが、せっかくのデートを楽しみたい。
駅に向かって歩きながら、有希は伸に話しかける。
「もう一着、お揃いの部屋着がほしいな。続けて泊まるときには洗い替えがないとね」
伸が、有希の顔を見ながら言う。
「もしかして、今夜も泊まるつもり?」
「もちろんだよ。昨夜はイレギュラーだったけど、今日は日曜日だもん。そういう約束でしょ?」
伸が微笑んだ。
「そうだね」
以前セットアップを買ったセレクトショップに行くと、いつもの女性店員がいた。いつものように、にこやかな笑顔で迎えてくれる。
二人を見てどう思うのだろうと、少し気になる。有希は、別にどう見られてもかまわないのだが、伸は、やはり恋人同士だと思われることには抵抗があるだろう。
店員が近づいて来る。
「今日は、何かお探しですか?」
伸をちらりと横目で見ると、彼は店員に言った。
「部屋着を」
それから、有希の顔を見る。
「それともパジャマにする?」
伸の屈託ない様子を、少し意外に感じながら答える。
「パジャマもいいね」
「パジャマでしたら、こちらです」
案内する店員について行きながら、横顔をちらりと見ると、伸が笑顔で言った。
「いいのがあるかな。また色違いにする?」
「うん。そうだね……」
結局、最初に言ったように、ドット柄で色違いのパジャマを買った。伸は平気な顔をしているが、伸と有希のやり取りを見ていれば、店員には、二人の関係に察しがついたことだろう。
伸は、それでかまわないのだろうか……。そんなことを考えていると、店を出たところで伸が言った。
「ユウ。どうかした?」
「えっ?」
「さっきから、なんだか様子が変だけど、もしかして体調悪い?」
有希は、あわてて首を横に振る。
「そんなことないよ。お揃いのパジャマが買えて、すごくうれしい」
伸が微笑む。
「そう。それならよかった」
その後、ランチを食べて、まだ時間があったので、名画専門の映画館に入った。やっていたのは、外国の古い恋愛映画で、それ自体は、有希にとっては少し退屈なものだったが、アクション映画やコメディ映画を見るよりもロマンチックだし、デートには合っていると思う。
何よりも、伸と二人で映画を見るというシチュエーションにわくわくした。そっと手を伸ばして伸の手に触れると、有希の手を握ってくれ、ずっと手をつないだまま終わりまで見た。
伸の実家に着く頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。住宅街の屋根が重なる向こうの空に、大きな満月が輝いている。
カフェはすでに灯りが消えていたので、住まいの玄関に回る。伸がチャイムを押すと、インターフォンから声が聞こえた。
「はい」
「俺だよ。西原くんも一緒」
有希が一緒に来ることは伝えてあるのだが、あえてそう言った伸に、有希は決意のようなものを感じる。
「どうぞ。入って」
伸が、有希の肩に触れながら微笑んだ。
「行こうか」




