98,そういう時期に来ていることと今夜も泊まることと愛を確認すること
伸が、有希の顔に視線を移す。
「俺たちのこと、母に話すよ。もう、そういう時期に来ているんだ」
「時期?」
「俺たち、ずいぶん長い付き合いになるし、俺は、これからもずっとユウと一緒にいたい。今話をしなくても、いずれまた、こういうことは起こるだろうし、母だって、俺たちがただの友達じゃないことは察したはずだ」
有希は、真剣な表情の伸を見つめ返す。
「いいの?」
伸が微笑む。
「いいに決まってるだろ」
「伸くん……」
不意にまた、涙がこみ上げ、有希は、そんな自分に呆れる。伸の気持ちが、とてもうれしい。
「なら、僕も一緒に話をする」
そう言うと、今度は、伸がつぶやいた。
「いいの?」
有希は、思わず笑った。
「いいに決まってるよ。伸くんのお母さん、今はびっくりしていると思うけど、僕がどんなに伸くんのことを愛しているか話せば、きっとわかってくれるよ」
「なんだか恥ずかしいけど、うれしいよ。ありがとう」
さらに有希は言った。
「そうと決まったら、なるべく早いほうがいいな。伸くんのお母さんの都合がつくなら、明日にでも」
有希はいつも、思い立ったら、すぐに実行に移さなくては気がすまない質なのだ。そうやって困難を乗り越えた結果、伸とも恋人同士になることが出来たのだし。
だが、伸が言う。
「でも、今日と明日は、二人で過ごす約束だったのに……」
「いいよ。これから先もずっと一緒にいるんだから、時間はたくさんあるもん。そのかわり……」
「何?」
「今夜は泊まってもいい?」
母との取り決めの通り、今日は家に帰って、明日また来るつもりだったのだが、とてもそんな気になれない。だが、伸は考え込む。
「うーん……。それはやっぱりまずいんじゃないかな」
「ママには、伸くんと大事な相談事があるって電話するよ」
伸の母に、二人の関係を話すことになったと言えば、それについて有希が悩んでいることを知っている母ならば、わかってくれるのではないか。そんなふうに思うのは、都合がよ過ぎるだろうか。
伸が言う。
「もしもお母さんが帰るように言ったら、そうするんだよ」
「わかった」
どちらの母親も大切にしなくてはいけないし、信用してもらわなくてはいけない。この先も、ずっと伸と一緒に生きて行くためには。
有希は、食べかけたままの寿司を指して言った。
「まずは食べちゃおう。せっかくママが持たせてくれたんだから」
伸が食事の後片付けをしている間に、有希は、奥の部屋行って母に電話した。
二人で寿司を食べているところに伸の母がやって来て、もう隠しようがないので、明日にでも話をすることになった。ついては、そのことについて、これから相談するために、今夜は泊まりたいのだ。
そう言うと、母は渋々ながら許してくれた。
「仕方ないわねぇ。粗相のないようにして、安藤さんのお母さんには誠意を持ってお話しするのよ」
「うん。そうするよ」
やっぱり母は、有希の気持ちをわかってくれる。自分に取っては、世界一の母親だと思う。
夜になってから、伸が母に電話をかけた結果、翌日、カフェの閉店後に、二人で訪ねて行くことに決まった。
「なんだか緊張して来た」
ベッドに腰かけて電話する伸の横で、それを聞いていた有希は、電話を切った伸にもたれかかる。伸は、スマートフォンをベッドサイドに置き、有希の肩を抱き寄せながら言った。
「俺のことをどんなに愛しているか、話してくれるんだろ?」
顔を見ると、伸はにやにやしている。伸が、緊張をほぐしてくれようとしているのだとわかり、有希も笑顔で返す。
「そうだけど、ちゃんとお母さんに話せるように、愛を確認してもいい?」
伸が、不思議そうな顔をする。
「確認?」
「そう。確認するんだよ。こうやって……」
有希は、向かい合うように伸の膝にまたがり、キスをする。そのままベッドに押し倒そうとすると、伸が眉根を寄せて、喉の奥でうめいた。




