93,初めてのやりかたで愛を交わすことと左側に寝ることと顔を歪める伸
怪我に障らないように洗うのに神経を使ったが、伸の体のあちこちに触れることになり、まだ一度も触れたことのない部分が意外に多かったことに驚いた。そしてその行為は、やはり二人を妖しい気分にさせた。
伸の怪我のせいで、いつも通りというわけにはいかなかったので、初めてのやりかたで愛を交わした。それは、とても静かでありながら、たまらなく官能的な時間だった。
いつもならば、バスルームを出た後は、伸があれこれ世話を焼いてくれるのだが、今日は、有希がバスタオルで伸の体を拭き、下着をはかせる。いつものセットアップを着せようとしたのだが、頭から被るタイプは、腕を通すことが難しかったので、普通のパジャマにした。
ようやくすべて着せ終わると、伸が言った。
「何から何まで、悪いね」
有希は、首を横に振る。
「うぅん。悪くなんかないよ。今、髪を乾かしてあげる。後で湿布も貼ってあげるからね」
伸の世話が出来ることがうれしいし、有希に身をゆだね、まるで子供のように、されるままになっている伸のことが、たまらなく愛おしい。
にやける有希に、伸が言った。
「風邪を引くといけないから、ユウも早く服を着て」
有希はまだ、全裸のまま、水滴を滴らせている。
「うん……」
洗面台の横のラックからバスタオルを取って顔に当てると、いつものいい香りがする。
タオルに顔をうずめたまま、有希は思う。伸くんが怪我をしたっていうのに、なんだか、とても幸せだ……。
その後も、ミネラルウォーターのペットボトルのキャップを取って伸に渡したり、肩に新しい湿布を貼ったりしてから、二人そろってベッドに入った。いつもは伸の右側に寝ているのだが、今日は、怪我に触れないように左側に寝ることにした。
それでも、少し心配だ。
「ねぇ。僕が一緒で大丈夫? もし、邪魔なら……」
だが、伸は微笑んだ。
「邪魔じゃないよ。隣にいてほしい」
「伸くん……」
うれしくて、いつもならば抱きつくところだが、今日ばかりは我慢する。
「ユウがそばにいてくれると安心するし、今日はいろいろしてくれて、とても助かったよ」
「そんなの、当たり前だよ」
そう言いながら、有希は、伸の左肩に、そっと頬を寄せる。いつもと逆向きなので、やっぱり、少し変な感じだ。
伸が、有希の頭に頬を擦りつけるようにしながら言った。
「怪我が治ったら、埋め合わせするよ。そう言えば、いつかした、どこかに出かける約束も、まだ果たせていないね」
「そんなのいいよ。僕は、こうして伸くんのそばにいられるだけで、すごく幸せ。
伸くんのお世話をするのも、なんだか新婚の奥さんになったみたいで、ちょっと楽しかった」
伸が、ふふっと笑った。
「奥さんか……」
有希は思う。伸の怪我が治ったら、出かけるよりも、まずは思い切り愛し合いたいと思ってしまう自分は、やっぱり淫乱だ……。
「ユウ。……ユウ、起きて」
耳元でささやく声とともに、アラームの音が聞こえる。はっとして目を覚ますと、見つめる伸の向こうのベッドサイドで目覚まし時計が鳴っている。
「ごめん。ちょっと手伝ってくれないかな」
「あっ、ごめん!」
有希はあわてて起き上がり、伸の左肩に手をかけて抱き起すようにする。起き上がりながら、伸が顔を歪める。
「痛い?」
伸は体をひねって左手を伸ばし、ようやくアラームを止めた。
「ごめん……」
うっかりしていた。有希は朝が弱くて、いつも伸が苦労して起こしてくれるのだが、今日は自力で起きなくてはいけなかったのに。
「いや。いったん家に帰ってから学校に行かなくちゃならないだろう? 早く支度をしたほうがいい」
そう言いながらも、伸は辛そうな顔をしている。
「ねぇ、痛むの?」
「あぁ。なんだか、昨日より痛む範囲が広がったみたいだ」
怪我をした当日よりも、翌日のほうが痛みがひどくなると聞いたことがある。
「僕、やっぱり今日は……」




