74,約束させられたこととさっぱりわからないこととフォレストランドに行くこと
「別に会わせてくれとは言ってねぇよ」
生野は平然と言う。
「ただ、ちょっと離れたところから一方的に眺めてみたいなぁ、なんて」
何が『なんて』だ。勝手なことを。
「なぁ、伸くんってどこに住んでんの?」
「ちょっと、その呼び方やめろよ」
有希が抗議しても、生野は相変わらずにやついている。
「別にいいじゃん。『伸くん』は、お前のこと、なんて呼んでんの? ユウキか、ユウか、ユウくんか……」
「やめろったら!」
有希が声を荒げると、生野は、白けたような顔になって言った。
「そんなにムキにならなくてもいいじゃないか。ちょっと見るくらい、別にいいだろ? お前の自慢の彼氏の顔を、一目拝ませてくれよ」
「別に自慢なんかしてないだろ!」
結局、口が減らない生野をうまく言い負かすことが出来ず、遠くから伸を見ることを約束させられてしまった。そうこうしているうちに、授業終了のチャイムが鳴り始めた。
また授業をサボってしまった。有希は、まだジャージのままだ。
「着替えるから、先に教室に戻っててよ」
生野の前で着替えるのは、気まず過ぎる。
「わかった」
生野は、あっさり答えると、さっさと更衣室を出て行った。
自分のようなことを、温室育ちと言うのだろうか。母はいつも、大きな心で有希を受け止め、守ってくれるし、伸も、優しく穏やかに有希の話を聞いてくれる。
友達はいるが、あまり深い付き合いをして来なかったので、言い合いをしたり、意見をぶつけ合った経験もほとんどない。だから、ディベートのようなことは苦手なのだ。
その日の放課後、生野と駅まで歩く間に、伸がフォレストランド内のレストランで働いていることを聞き出され、明日の放課後、伸を見に、一緒にフォレストランドに行くことを約束させられてしまった。
後から、いくら考えても、どうしてそうなってしまったのか、有希にはさっぱりわからないのだが……。
入り口で入場料を払い、フォレストランドに入る。有希は、前を歩く生野に声をかける。
「ねぇ。本当に、離れたところから見るだけだよ」
「わかってるって」
生野は、大股でどんどん前に進みながら、きょろきょろと周りを見ている。
「懐かしいな。フォレストランドなんて、小学校の遠足以来だよ」
有希は、彼の後ろをとぼとぼと歩く。今からでも、なんとか計画を中止にする方法はないかと考えを巡らせるが、まったく何も思いつかない。
歩きながら、生野が振り返った。
「レストランって、こっちだよな」
「うん……」
「なんか、寂れたファミレスみたいなレストランだった記憶があるけど」
ずいぶん、ひどい言いようだ。確かに、あまり繁盛しているふうではないが、それはフォレストランド自体が、あまり賑わっていないからだし、メニューもそれほど本格的なものはないが、料理の味はいいし、接客だって丁寧だ。
やがて、レストランの建物が見えて来た。淡いグリーンの壁に、「パークレストラン」の看板。
実は有希も、もう少し気の利いた店名でもいいのではないかと思ったことはあるのだが、それに関しては、多分、フォレストランドを経営している偉い人が決めたのだろう。
「ちょっと待って!」
そのまま店に入って行ってしまいそうな勢いの生野を、有希はあわてて呼び止める。不用意に入り口からのぞくと、中にいる伸や、ウェイトレスの沙也加たちに気づかれてしまうかもしれない。
「なんだよ」
うるさそうな顔で振り返った生野に手招きする。
「こっち」
壁の上半分がガラス張りになっているので、入り口から離れた場所からでも、気づかれることなく、中をのぞくことは出来る。
「見つからないように気をつけてよ」
「わかってるって」
壁沿いにある植え込みの手前から、そっと店内に目をやると、テーブル席に、ママ友同士らしい子供連れのグループがいる。
見ていると、奥から、トレーに飲み物を載せた沙也加が出て来た。続いて中本が出て来て、レジに向かう。




