70,傷ついたような顔をした生野とおそろいのセットアップと伸からのプレゼント
教室に入って行くと、さっそく生野が近づいて来た。
「おはよう」
「……おはよう」
有希が自分の席に向かうと、生野も後からついて来る。
「昨日は大丈夫だったか?」
「うん」
「彼氏と仲直り出来たのか?」
有希は席に着きながら、憮然として言う。
「だから、喧嘩なんてしてないし」
「へぇ、そうか。じゃあ、昨日は彼氏と……」
さらに何か言おうとする生野を、有希は遮った。
「だから! そういうの、やめてくれって言っただろ」
「あ……ごめん」
思いがけず、生野は傷ついたような顔をしたかと思うと、そのまま有希のそばを離れて行ってしまった。
生野の後ろ姿を見送りながら、有希は考える。自分の言い方は、少しきつ過ぎただろうか。
いや、無神経な生野がいけないのだ。最近になって、急になれなれしく近づいて来て、人のデリケートな部分をえぐるような言葉を次々に投げかけて来て……。
別に友達なんていなくてもいいし、まして、あんなやつと親しくする気にはなれない。僕は、伸くんさえいれば、それでいいのだ。
その日からは、また今まで通り、伸にメッセージを送ったり、夜は長電話をしたりして過ごした。
伸の部屋に行く前日の土曜日には、買い物に出かけた。あちこちぶらついた後、いつものように、行きつけのセレクトショップをのぞきに行く。
「いらっしゃいませ」
店に入って行くと、顔なじみの女性店員が笑顔を向ける。衣類のコーナーを見ていると、Tシャツとハーフパンツのセットアップが目についた。
店員が近づいて来て言う。
「入荷したばかりなの。かわいいでしょう?」
「うん。こことここの色の切り替えとか」
シンプルだが、色やステッチの使い方が、どことなく洒落ている。
「部屋着にしてもパジャマにしてもいいし。色違いでどう?」
そう言われて、ふとひらめいた。伸と、おそろいで着るのはどうだろう。部屋で着るぶんにはペアルックでもかまわないだろう。
「あっ、じゃあ、グレーとネイビーをもらおうかな」
「ありがとうございます。サイズは、Mでいい?」
「えぇと、こっちはLで」
店員が微笑む。
「グレーがM、ネイビーがLですね。かしこまりました」
店員が包装してくれるのを待ちながら、有希は、伸と二人でセットアップを着ているところを想像する。着るのは、やはりシャワーを浴びた後だろうか……。
いつもならば有希は、ドアが開くなり、伸に抱きついてキスをして、伸も、それに答えてくれるのだが、今日はそういう展開にはならなかった。伸が、目を見開いて言った。
「すごい荷物だねぇ」
有希は、いつものようにデイパックを背負い、片手に制服が入ったバッグ、片手に二着のセットアップが入った袋を下げている。
伸は、有希の手から荷物を受け取りながら言った。
「入って」
有希は、靴を脱ぎながら言う。
「その袋、開けてみて」
「これ?」
伸は、制服のバッグを棚の上に、袋をテーブルの上に置く。結局、有希が自分で袋の中身を取り出して並べた。
「これ、昨日買ったんだよ。かわいいでしょ?」
伸が、それぞれ手に取って見ている。有希は説明する。
「あのね、こっちが僕ので、こっちが伸くんのだよ。この部屋で、一緒に着たいと思って……」
伸は、こういうのは嫌いだろうか。にわかに心配になって、様子をうかがっていると、伸がにっこり笑った。
「うれしいよ。ありがとう」
そして、さらに思いがけないことを言う。
「俺も、ユウにプレゼントがあるんだ」
「……え?」
伸は、奥の部屋に行き、細長い小箱を持って戻って来た。
「この前、本部の会議で富士見町に行った帰りに、たまたまお店が目についてね」
そう言いながら、小箱を差し出す。
「何? 開けていいの?」
「もちろん」
ドキドキしながら開けると、中には、細いチェーンが入っている。有希は、思わず、伸の顔を見た。




