178,顔が熱くなることとやっぱり積極的な有希とマンションを引き払う日
「何度も言っているでしょう? 伸くんはおじさんじゃないし、僕が伸くんのことが大好きで一緒にいたいんだから、それでいいんだよ。
伸くんだって、僕と一緒にいたいんでしょう?」
伸はこくりとうなずく。
「潤子さんもママも、それでいいって言っているし、僕たちがお互いを必要としていることもわかってくれている。潤子さんとママも、昔からの親友みたいに仲良くしている。
ねぇ、何か問題ある?」
「……いや。ない」
有希は、体の向きを変えて、伸の正面に立った。
「だったらいいじゃない」
「……あぁ」
「ねぇ」
有希がかわいい顔で見上げる。
「うん?」
「もしかして伸くんは、僕たちが二人のときに、いちゃいちゃしたり、セックスしていることを想像されるのが恥ずかしいの?」
それも、大いにある。
有希が笑う。
「だけど、実際に僕たちは、いちゃいちゃもセックスもしているし、たとえしていないとしても、誰もそうは思わないよ」
「なっ……!」
またも顔が熱くなる。
「伸くんって面白いね。年明け早々、『積極的になる』って言って、僕をベッドに押し倒していろんなことをしておいて、それが恥ずかしいなんて」
「はぁ……」
伸はうなだれる。
「それはそうなんだけど、自分の気持ちをどう処理すればいいのかわからない」
有希が、伸の両手を取る。
「そのうち慣れるよ。だってこういう毎日が、これからずっと続くんだから。
ねぇ。提案なんだけど」
「うん?」
有希が伸び上がって、伸の耳元でささやいた。
「一日も早く慣れるために、今からしない? とりあえず今は、伸くんの気持ちより、僕の処理をしてほしいんだけど」
「え?」
「……さっきから、体の奥が、疼いてる」
吐息混じりにささやいてから、有希はくすりと笑う。
「あれ? やっぱり僕のほうが積極的みたい」
松の内が明けた頃から、実家の工事が始まった。潤子は、伸のマンションからアンジェールに通い、工事終了後には、マンションを引き払うことになっている。
店舗の工事終了後から、伸はアンジェールで働き始め、有希と二人でそれぞれの実家を行ったり来たりする生活になる予定だ。本来ならば、すぐに働き始めてもいいようなものだが、工事中では、有希が落ち着いていられる場所がない。
仕事も頑張りたいが、有希のことを一番に考えたいという気持ちは変わらない。
春の気配を感じ始めた頃、住居部分の工事が完了した。引き続き、店舗の工事が始まり、アンジェールは休業期間に入った。
潤子とともに新しい家具を揃えたり、引っ越し作業をしたりでなかなか忙しい。家具や電気製品の搬入などで業者が出入りする日は、有希は麗衣とともに実家にいたが、マンションを引き払う日、伸と潤子とともにマンションの部屋に行った。
「なんにもなくなっちゃったね」
有希が、寂しげな表情で、がらんどうになった部屋を見回す。伸は言う。
「狭い部屋だと思っていたけど、何もないと、やけに広く感じるな」
潤子は、駐車場の車の中で待っていると言って、先に部屋を出た。二人で名残惜しむ時間を作ってくれたのかもしれない。
有希が、伸の腕に自分の腕を絡める。
「ここで、いろんなことがあったね」
「あぁ」
「僕たち、初めて会った日に、ここでしたんだよね。覚えていないのは残念だけど」
「そうだな」
二人とも、そのときの記憶を失ってしまったのだ。有希が、空いているほうの手を胸に当てて言う。
「でも、伸くんがそのときのことを話してくれたから、ここにちゃんとあるよ」
伸は、有希の髪に頬を寄せる。
「もう一度付き合うことになったときも、ここでしたんだよな」
「うん。そのときのことは、僕はちゃんと覚えている。伸くん、とっても素敵だったよ」
「そう……」
伸の記憶はないが、有希が話してくれた。
「『四の五の言わず、ずっと、俺のそばにいろ』って言ったんだっけ」
「うん」
「俺、そんな偉そうなことを言ったのか……」




