177,そっと目じりをぬぐう麗衣と猛烈に恥ずかしい伸とそっと腕を絡める有希
有希がこちらを見て言ったので、伸はうなずく。本当は、その少し前に、有希にせがまれてベッドでセクシーな写真を撮ったのだが、もちろん内緒だし、あれは有希もまだ見ていない。
有希は、頬の傷に手を当てる。
「今も、この三人にだけなら見られてもかまわないけど、それ以外の人には絶対に嫌だし、自分でも見たくない。
でも、あの日がきっかけで、そこまでかたくなにならなくても、傷を隠して撮るなら別にいいかって思えるようになったんだ。伸くんのおかげだよ」
麗衣は、さっきから口元に手を当てて黙ったままだ。
潤子が口を開く。
「そうね。有希くん、とってもかわいくて素敵だから、これからもたくさん撮ったらいいわ。
ふふっ。この写真、アイドルみたいね」
「そうかな」
有希は、笑いながら言って、ちらりと伸を見る。雪だるまとツーショットの写真を撮ったとき、伸も有希に同じことを言ったのだった。
一瞬、やはり母子は発想が似通うものなのかと思ったが、いやいやと頭の中で打ち消す。有希は実際、アイドル並みに、いや、もしかするとそれ以上にかわいいのだ。
「ママ?」
有希が、写真に目を落としたまま、一言も言葉を発しない麗衣を心配そうに見た。ようやく麗衣は顔を上げる。
「とてもいい写真で、感激してしまって。有希の写真もそうだし、有希が写真を撮ったり絵を描いたり出来るようになったことも、伸くんが、ずっとサポートしてくれていることも、本当にありがたいと思って……」
微笑みながら、麗衣は、そっと目じりをぬぐう。有希が言った。
「僕もそう思っているよ。伸くんがそばにいてくれるから、僕は生きていられる」
「いや、そんな……」
二人に、しかも潤子の前でそんなことを言われ、伸は恥ずかしくなってうつむく。顔がひどく熱い。
今さら照れても遅いことはわかっているが、三十代半ばまで孤独に生きて来た自分が、今こういう状況の中にいることが信じられないのだ。すると、潤子が言った。
「伸も、やっと大切な人に出会えたんだものね。私もそのことがうれしいし、私までこんなふうに楽しく過ごせる日が来るなんて思っていなかったから、とても幸せよ」
自分がやって来たことは間違いではなかったのだと、伸は思う。だが、それでも猛烈に恥ずかしいことに変わりはない。
「やっぱり伸くんってかわいい」
有希が笑う。昼食の後、潤子を送り出し、後片付けを終えて、部屋に戻って来たところだ。伸は、有希を横目でにらむ。
「もう勘弁してくれよ」
あの後、有希に顔が赤いと指摘され、しどろもどろになって、何も言えなくなってしまったのだ。有希は、まだおかしそうに言う。
「伸くんってば、照れ屋さんなんだから」
伸は反論する。
「そういうユウは、よく照れずに二人の前であんなことが言えるね」
「あんなことって?」
「だから、俺がそばにいるから生きていられる、とか」
有希は平気な顔で言う。
「だって本当のことだもん」
「かわいいとかアイドルみたいだとか言われても、当たり前みたいな顔をしているし」
もちろん、それらは事実ではあるのだが。
「当たり前とは思っていないけど、いつも伸くんが言ってくれるから慣れちゃったのかも」
それを言われると否定は出来ないが、それでもさらに、伸は反論する。
「俺は慣れていない。自分の人生に、親の前で恋人と過ごすことがあるなんて思わなかったし、二人のことを麗衣さんや母にいろいろ言われるのは、それが好意的なことであっても、恥ずかしくて居たたまれない気持ちになってしまう。
しかも、俺みたいなおじさんが……」
有希は行彦の生まれ変わりなのだから、年の差があるのは仕方がないことなのだが、どうしても、若く美しい有希と自分では不釣り合いだという感覚がぬぐえない。
「もう……」
有希は微笑みを浮かべながら、立ち尽くしたままの伸のそばに来て、そっと腕を絡めた。




