176,有希が泣き笑いの表情で言ったことと今年初めてすることと手作りのアルバム
有希のことだけでなく、お二人と接することで、私自身も、とても元気づけられました。潤子さんとお話しすることは、とても楽しいし、勉強になることもたくさんあるし」
「そんな。私こそ、こんな素敵な方に仲良くしていただいて……」
潤子が、顔の前で手のひらを振りながら、照れくさそうに笑う。お互い、ゲイの息子を持つシングルマザーとして、規模の違いはあるが、飲食店の経営者として、大いに通じ合うものがあるのかもしれない。
麗衣が、頭を下げて言った。
「これからも、有希ともども、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
潤子と伸も、あわてて頭を下げる。
そんな中、有希一人が、さっきからうつむいたまま泣いている。
「ユウ」
心配になって、伸は彼の肩に手を置いた。有希は、目元をぬぐいながら口を開く。
「僕は……」
なかなか次の言葉が出ない。潤子が言った。
「ゆっくりでいいのよ」
「……僕は、まだ、この先どうすればいいのかわからない。だけど……伸くんも潤子さんも、ママも、大好き」
再び潤子が言う。
「ゆっくりでいいのよ。世の中に、こうでなくちゃいけないなんていうことは一つもないと思うの。
だから有希くんも、有希くんが出来ることをゆっくりやればいいんじゃないかしら。絵を描くことや、それ以外のことも、思い悩むことも、きっと全部意味のあることだと思うわ」
有希が、ようやく涙に濡れた顔を上げ、泣き笑いの表情で言った。
「……ありがとう。潤子さんの優しいところ、やっぱり伸くんとおんなじだ」
みんなで後片付けをした後、それぞれの部屋に引き上げた。伸の後について部屋に入った有希が、ドアを閉める。
後ろを振り返って、今日は、伸のほうから近づき、有希をしっかりと抱きしめた。
「ユウ……」
有希も、伸の体に腕を回し、肩口に顔をうずめる。伸は言う。
「今年もよろしく」
「……こちらこそ」
「今年も、ずっと一緒にいような」
「うん」
伸は、有希の髪を撫でながら言う。
「今年の俺の目標は、うんと積極的になることだよ」
有希が顔を上げて、問いかけるように伸を見つめる。
「今年は、俺のほうから誘う」
「え?」
伸は、有希の目を見つめながら言った。
「さっそくだけど、今年初めて、しないか?」
有希の頬が赤らむ。
「こんな時間に?」
「あぁ。こんな時間でも」
伸は、有希の手を握って、ベッドへといざなう。有希も、素直に従う。明日は、いや、すでに新年を迎えた今日の朝は、少々寝坊してもかまわない。
潤子は、それから二日ほどを西原家で過ごした。初詣に行くでもなく、事件以来、有希が嫌がるのでテレビを点けることもなかったが、お節料理やお雑煮を食べながら話をしたり、カードゲームをしたりして、のんびりと、それなりに楽しく過ごした。
潤子が家に戻る日の昼食の時間に、有希は、手作りのアルバムを母二人に手渡した。
「これ、よかったら受け取って。伸くんに手伝ってもらって、年末から撮った写真をプリントして作ったんだよ」
「まぁ。ありがとう」
潤子と麗衣は、さっそくページを開いている。料理の写真、三人が料理を作ったり、何かの作業をしている姿、有希に声をかけられた瞬間の、カメラ目線のものもある。
そして、最後のページを見た麗衣がつぶやいた。
「これ……」
「まぁ」
潤子も声を上げる。
有希が恥ずかしそうに微笑む。
「伸くんに撮ってもらったんだよ」
それは、有希が笑顔で写っている写真だ。シンノスケを顔のそばに抱いて、頬の傷を隠しているが、しっかりとカメラを見つめている。
潤子が言った。
「とってもよく撮れているわ。いい写真ね」
麗衣は、感慨深げに写真を見つめたまま、声も出ない様子だ。
有希が言う。
「写真なんて一生撮らないって思っていたけど、伸くんが、僕の気持ちをほぐしてくれた。最初は、山荘で雪だるまを作った日だったかな。
せっかくだから、記念にって言って、横向きの写真を撮ってくれたんだ」




