175,幸せな気持ちとふと気がついたことと年末年始
「じゃあ、作れるときに二人で作ってくれたらいいわ。きっと人気になると思うけど、いつでも手に入らないほうが商品価値が上がるんじゃない?」
「お母さん、意外と策士だね」
「あら。商売に戦略はつきものよ」
二人の会話を聞いていた有希が、声を上げて笑った。伸は、幸せな気持ちになる。
まさか、こんな日が来るとは思ってもいなかった。
ベッドにちょこんと腰かけ、シンノスケを抱きしめている有希の姿は子供のようだ。伸は、隣に腰を下ろして話しかける。
「今日は疲れた?」
「うぅん、ちっとも。すごくうれしかった」
「クッキーのこと?」
「うん。クッキーを気に入ってもらえたこともうれしかったけど、潤子さんが、僕を受け入れてくれていることが」
伸は微笑む。
「当たり前だろう。家族なんだから」
有希が、はっとしたように伸の顔を見る。
「……家族?」
「そうだよ。俺たち、ほら、結婚したも同然なんだから、俺の母に取っても、ユウは息子っていうか」
照れくさいが、つまりはそういうことなのだと思う。
「そうなのか……」
「そうだよ。だから俺たちの部屋だって作ってくれるんだし」
もっとも、今いるこの部屋よりも、ずっと狭くなるに違いないが。
そこで伸は、ふと気がついて言った。
「俺がアンジェールで働いている間、ユウはどうする?」
長い間一人にしてはおけないが、客の来る店にいることは無理だろう。
「僕は、お店との間のドアの近くにいて、伸くんの気配を感じながら待っているよ。少しずつ、一人でいられる時間を長くしなくちゃって思っているし」
思いつめたように言う有希がいじらしく、伸は、そっと肩に腕を回す。
「一人でいるのが辛くなったら、いつでもドアをノックすればいい。そうしたら、すぐに行くから。
それとも、インターフォンを付けてもらおうか。今までは母一人だったからいらなかったけど、これからは必要になるんじゃないかな」
工事は、年明けから始まる予定だ。
年末年始は、潤子を家に呼んで、四人で過ごすことになった。潤子は、伸が初めてこの家に来たときに泊まったゲストルームを使うのだ。
麗衣と潤子は、年齢差がありながら、とても気が合うようで、まるで古くからの友人のように仲良くしている。自分たちを含め、この四人が事実上の家族になったのだと思うと、なんとも不思議な気がするが、同時に、とてもうれしい。
大晦日にかけては、潤子と伸で本格的なお節料理を作った。大掃除は、伸が早くから少しずつやっていたので、その間、麗衣と有希には、のんびり過ごしてもらおうと思ったのだが、麗衣は、自分も手伝わないわけにはいかないと言って聞かないし、有希は、その周りをうろうろして、作りかけの料理や伸たちの写真を撮り続けた。
結局は、にぎやかで、とても楽しい時間になった。
広いリビングの一角に置かれた炬燵で、楽しく会話をしながら、すき焼きや年越しそばを食べた。麗衣と潤子は、食べながら、ワイングラスを傾けている。
やがて日付が変わり、新年を迎えた。
「明けましておめでとうございます」
口々に言って頭を下げ、笑い合う。麗衣が、居ずまいを正して話し始めた。
「去年は、思いもしないことが起こって、とても辛い時期もあったけれど、伸くんと潤子さんに助けていただき、温かく接ていただいて、なんとかここまで来ることが出来ました」
伸は、正式にダイニングバーを辞め、その頃から、麗衣も伸のことを「伸くん」と呼ぶようになっている。
有希が、うつむいて目元をぬぐっている。その姿を優しい眼差しで見つめながら、麗衣は続ける。
「お二人がいなかったら、今こうして笑っていることは出来なかったかもしれないわ。伸くんが、ずっと有希に寄り添っていてくれたこともありがたかったし、それを快く受け入れてくださった潤子さんにも、とても感謝しています。




