174,自分のイラストに見つめられながらすることと内気な女の子のような有希と猫のクッキー
有希は、早くも指輪を大切そうにケースに戻しながら言う。
「でも、よくぴったりのサイズがわかったね。僕も知らないのに」
「あぁ。いつも見ている感じで、だいたいこのくらいかなぁと思って。
お店の人が、もしサイズが合わなければ直してくれるって言っていたけど、ぴったりでよかったよ」
「伸くん、すごいね」
細いサイズだから、店員も、まさか相手が男性だとは思わなかったことだろう。
有希がくれたイラストは、ベッドサイドの目覚まし時計の隣に飾った。慎重に場所を調節してから、手を離して振り返ると、有希が抱きついて来た。
「伸くん。しよう」
伸は、有希のほうに向き直り、そっと顎を持ち上げて唇を重ねる。自分のイラストに見つめられながらするなんてと思ったが、考えてみれば、二人はいつも、シンノスケの目の前で、この上なく淫らな行為の数々を繰り広げているのだった。
翌日、クリスマスケーキの一切れと、さすがにそれだけではみすぼらしいので、二人で猫の形の抜型で作ったクッキーの包みを携え、タクシーで伸の実家に向かった。
有希はタクシーに乗っている間中、ダッフルコートのフードを深く被り、運転手の目を避けるようにうつむいていた。頬にかかる長い髪と相まって、傷はすっかり隠れていたが、運転手は、有希のことを内気な女の子だと思ったかもしれない。
「いらっしゃい。さぁ上がって」
潤子は、二人を笑顔で迎えてくれた。
「おじゃまします」
フードを脱いだ有希は、ぺこりと頭を下げる。居間に入りながら、伸は言った。
「あれからまた、ずいぶん片付いたね」
住まいと店舗を改築する計画は、思ったよりもずっと早く進んでいた。麗衣が協力を申し出て、業者の選定や依頼など、あらゆるサポートをしてくれているのだ。
まずは住まいのほうから着手することになり、工事中、潤子は伸のマンションから通いながら、店を続けることになった。先日、伸と有希も手伝い、荷物をマンションに運んだのだった。
「思い切って断捨離しているのよ。家具やなんかも、この際だから出来るものは新調しようと思って」
「そう」
伸の部屋にあった勉強机や古いタンスも、すでに処分した。改築後は、有希と二人で使う部屋が出来ることになっている。
麗衣も潤子も、これからもずっと一緒に生きて行きたいという、二人の気持ちを認めてくれている。有希は学校のことなども含め、先のことはわからないし、ずっとここで暮らすというより、二人で有希の実家と行ったり来たりすればいいという話になっている。
「あらかわいい」
猫のクッキーを見た潤子が言った。
「アイシングで顔を描いたのはユウのアイディアだよ」
「やっぱり絵心があるわね」
有希がうれしそうに微笑む。
「伸くんが作ったケーキも素敵なんです」
「それじゃあ、お茶にしましょうね」
「うん。味もいいわね。アンジェールでもケーキを出しましょうか」
伸が作ったケーキを一口食べて、さっそくメニューの話をする潤子を見て、本当にカフェの仕事が好きなのだなぁと伸は思う。
「ケーキを焼いたのは、練習を含めてまだ二度目だから、改良の余地はあると思うけどね」
なんだか、伸もわくわくして来た。潤子が、有希を見て言う。
「この猫ちゃんクッキーも商品にしたらどうかしら。今もコーヒーや紅茶に手作りのクッキーを添えて出しているけど、これならラッピングして、お持ち帰り用にしてもいいわね」
「え……。本当ですか?」
有希の言葉に、潤子が答える。
「もちろん、有希くんがよければの話よ。無理にとは言わないわ」
「いえ。すごくうれしい……」
有希の頬に赤みが差している。潤子が微笑んだ。
「気が向いたときに作ってくれればいいのよ」
「でもこれは、伸くんと二人で作ったんだけど」
伸は言う。
「作ったのは二人だけど、顔を描いたのはユウだよ。俺は絵心がないから、とても無理だ」




