173,少女漫画の美少年とずいぶん前から贈ると決めていたものとうれし過ぎて涙が止まらない有希
一切れは麗衣に残し、一切れは有希の強い要望で、翌日、潤子に届けることになっている。伸は、そこまでするほどのものではないと思ったのだが、せっかくだから、二人で持って行こうと言うのだ。
タクシーで行くことにして、潤子にも、すでにそう伝えてある。
有希は、まだ長い時間を一人で過ごすことが出来ないし、夜眠るときも、相変わらず灯りを点けたままだ。それでも、自分から出かけようと言い出したのは、大きな進歩だと言える。
「おいしい! 苺も甘いね」
苺は、麗衣が買って来てくれた高級品だ。おいしそうにケーキを頬張る有希に、伸は居ずまいを正して言った。
「えぇと、ユウにクリスマスプレゼントがあるんだけど」
有希が顔を上げる。
「あっ、僕もあるよ。今交換する?」
「うん」
「じゃあ、持って来るから、ちょっと待っていて」
有希は立ち上がると、小走りに二階に上がって行った。
空いた料理の皿とケーキを脇によけて、テーブルの上にスペースを作る。
「せーの」
二人同時に、空いたスペースにプレゼントを置いた。伸が置いたのは、クリスマスカラーのリボンがかかった小さな立方体の箱、有希が置いたのは、ハガキほどの大きさの包みで、月と星の模様の包装紙でラッピングされている。
有希が言った。
「たいしたものじゃないから、僕のから先に開けて。だいたい想像がつくと思うけど」
「わかった」
ラッピングを外すと、出て来たのは写真立てで、中に絵が入っている。そこまでは想像通りだったが。
「これって……」
「お絵かきソフトで描いた伸くんだよ。アニメのヒーロー風に描いてみたんだけど」
デジタルで描かれたというイラストは、髪が複雑な形になびき、目がキラキラと輝いている。細い首や切なげな表情は、ヒーローというより、少女漫画の中の美少年といった風情だ。
「これが、俺?」
有希は得意げに答える。
「そうだよ」
「いや……」
これが自分だと言われると、さすがに恥ずかしい。
「いいじゃない。僕はこういうふうに描きたかったんだもん」
「はぁ……。うん。ありがとう」
伸は、気を取り直して言う。
「じゃあ、俺のプレゼントも開けてみて」
「うん」
リボンをほどき、白い箱の蓋を取って、有希は、はっとしたように伸を見る。
「出してみて」
「……うん」
有希がかすかに震える手で取り出したのは、指輪のケースだ。再び有希がこちらを見る。
伸は、微笑みながら言った。
「中を見て」
それは、麗衣が休みの日に、彼女に有希をまかせて、用事を足しに行くと言って買いに行ったプラチナの指輪だ。シンプルなデザインだが、指に当たる内側に小さなダイヤモンドが入っている。
ずいぶん前から、クリスマスイブに指輪を贈ると決めていた。有希に喜んでもらいたかったし、何より、彼に対する自分の気持ちと覚悟を知ってもらいたかった。
「どうかな」
指輪を見た有希の目が涙でいっぱいになる。そして、ケースごとこちらに差し出して言った。
「伸くんが着けて」
「わかった」
ケースから指輪を取り出し、テーブルの上の有希の左手を取って、細い薬指にはめる。指輪は、指に吸いつくようにぴたりと収まった。
「気に入ってくれた?」
有希の顔がくしゃくしゃになる。
「とっても。あぁ、どうしよう……。うれし過ぎて涙が止まらないよ。僕のプレゼント、あんなつまらないものなのに」
「つまらなくないよ。世界でたった一枚の絵だし、ユウが俺のために描いてくれたんだから、うれしいし、大切にする」
「あぁ。すごくうれしい。僕の一生の宝物だよ。だけど……」
有希は涙をぬぐってから、今はめたばかりの指輪をそっと外す。
「ユウ……?」
「失くしたり傷つけたりしたら大変だから、大切にしまっておいて、ときどき取り出して眺めてにやにやするよ」
「そう」
伸としては、ずっとはめていてもらうつもりでプレゼントしたのだが、考えてみれば、麗衣や潤子に、有希が指輪をはめているのを見られるのは照れくさい気もする。




