169,いたずらっぽく笑う有希と満載の荷物と麗衣の話
それでも、最近ではしょっちゅう有希に撮られるようになったのだが、なかなか有希のように自然に出来ないのは、ジェネレーションギャップというものなのかもしれない。
思った通りを言うと、有希が笑った。
「そういうところも伸くんらしくて素敵なんだよ。照れくさそうにしているところが、すごくかわいいの」
「またそんな……」
「伸くん、かわいいって言われるの苦手だもんね。でも、そういうところがまたかわいいんだってば」
正真正銘にかわいい有希にそんなふう言われると、余計に照れくさくなって、伸はいつもいたたまれない気持ちになるのだ。
それからしばらくは、ほとんど外に出ることもなく、有希は絵を描いたり写真の加工をし、伸は料理や家事をしながら、相変わらず自堕落で官能的な習慣は続けていた。
雪が断続的に降り、このままでは雪で道が塞がり、陸の孤島となってしまうのではないかと心配し始めた頃、麗衣から電話が来た。
「ようやくお店のトラブルが解決したから、次の休みにそちらへ行くわ」
「こっちはずいぶん雪が積もっていますけど、車の運転は大丈夫ですか?」
「そうね。スタッドレスタイヤに替えれば大丈夫でしょう」
横で会話を聞いていた有希が言う。
「ママは運転がすごく上手なんだ」
それは、今まで彼女の運転する車に乗って、わかっていはいるが。
「今、ユウに代わります」
伸は、スマートフォン差し出す。有希は受け取って、すぐに話し出した。
「ママ。すごい雪だよ。……うん。雪だるまを作ったし、たくさん写真も撮ったよ。……うん。ママもあったかくして来てね」
しばらく話した後、有希がこちらを見て言った。
「伸くん、ママに何か言うことある?」
「いや、特にないかな」
有希は、電話の向こうの麗衣に向かって言う。
「特にないって。……うん。待ってる。じゃあね」
電話を切った有希が言う。
「おいしいものをたくさん持って来てくれるって」
「ユウの好きなお菓子も?」
「うん」
「楽しみだね」
「うん。でも……」
有希が目を伏せる。
「うん?」
顔をのぞき込むと、有希がいたずらっぽく笑いながら言った。
「ママが来たら、もう昼間からお風呂に入ったり出来ないね」
「まぁ、そうだね。麗衣さんが来るまで、まだ何日かあるけど」
それから、伸も有希に笑いかける。
「じゃあ、とりあえず今から入る?」
「うん、入る。じゃあ僕、お湯を入れて来る」
有希は勢いよく立ち上がった。
麗衣がやって来た日、小此木山には朝から小雪が舞っていた。
「ママ!」
有希は、運転席から降り立った麗衣に駆け寄る。キャメルのロングコートをまとった麗衣が、美しく微笑んで有希を見つめる。
「元気そうね」
「うん。元気だよ」
「お疲れ様です」
伸も頭を下げてから、後部座席を指して言う。
「荷物、降ろしますね」
「ありがとう。アップルパイを買って来たから、お茶にしましょう。モンテカルロのパイよ」
「やった」
麗衣が、有希のお気に入りの洋菓子店の名前を言うと、有希はうれしそうに笑った。
荷物は、基本的な食材や日用品、アップルパイのほかにも、有希が好きなソレイユのショコラクロワッサンと、いつもフレンチトーストにするバゲット、フルーツなど、麗衣の有希に対する愛情が感じられるものが満載だ。
そのほかに、プロ向けの料理雑誌の最新号もあった。荷物を整理している途中で見つけて、伸がふと手に取ったところを見て、麗衣が言った。
「よかったら暇つぶしに見てね」
「ありがとうございます……」
「おいしい!」
やはり久しぶりに母親に会ってうれしいのか、有希は上機嫌だ。アップルパイを口に運びながら、麗衣を見て言う。
「今回はゆっくり出来るの?」
「そうね。木曜日くらいまでは」
「後で絵を見せるね。それから写真も」
麗衣が、美しい所作で紅茶を一口飲んで、ソーサーにカップを戻してから言った。
「あのね、ちょっと話があるのよ」
伸は、なぜかぎくりとして麗衣の顔を見た。有希も、どこか不安げな面持ちだ。




