168,自堕落で官能的な過ごし方と早い初雪と雪だるまにキス
朝食の後、支度をして森に出かけ、昼過ぎに帰って来て、バスルームで淫らな時間を過ごし、夜までベッドで休む。その日から、その自堕落で官能的な過ごし方は、有希が風景画を描き上げるまでの習慣になった。
風景画が完成た翌朝、小此木山は、早い初雪に覆われた。
その朝、伸は、暖かいベッドの中でぐずぐずしていた。ここでは、急いで朝食の支度をする必要もない。
ここに来てから、滅多にうなされることのなくなった有希が、立って行ってカーテンを開けると同時に、伸を呼んだ。
「伸くん、見て」
起き上がると、パジャマの隙間から冷たい空気が入って来た。窓辺に立つ有希のそばまで行って、後ろから彼を抱きしめながら外を見る。
「あ……」
夜の間に降ったのか、地面も木々も、こんもりと分厚い雪に覆われている。有希が、体に回した伸の腕に触れながらつぶやいた。
「きれい……」
「全然気がつかなかった。いつもより寒いとは思っていたけど」
「こんなに早く雪が降るなんて。やっぱり街とは違うね」
「そうだね」
有希は、窓の外を見つめたまま言う。
「ねぇ。後で雪だるま作ろうよ」
「じゃあ、まずは朝食にしようか」
朝食の後、二人は、少し前に麗衣から送られて来た厚手のコートを着込んだ。Mサイズのネイビーのダッフルコートと、Lサイズの同じくネイビーのピーコート。
違う形で、色がお揃いの上質なウールの二着のコート。麗衣のセンスの良さはさすがだと思う。
いつか有希が言ったように、やはり麗衣は、あえて二人きりにさせてくれているのかもしれない。母親として、それが出来る麗衣は、なんと器が大きいのだろうと伸は思う。
コートの上に、いつもの防寒具三点セットを着けて、二人は外に出た。
膝下ほどの高さに積もっている雪に、有希が新しい足跡を付けて行く。伸は、その後ろ姿をカメラで撮った。
「伸くんも早く! あっ……!」
振り向きながら叫んだ有希が、バランスを崩して倒れた。
「大丈夫!?」
雪に足を取られつつ、あわててそばまで行くと、雪の上にあおむけに倒れたままの有希は、楽しそうに笑っていた。
「ふかふかだから全然痛くないよ」
その後、二人で転がし始めた雪玉は、すぐに大きな雪だるまになった。有希が、枯れ枝で腕を、松ぼっくりで目を付ける。
「それ貸して」
有希に言われ、伸は、首にかけていたカメラを外して渡す。有希は、何枚か雪だるまを撮ってから、伸に言った。
「隣に並んで」
「あぁ」
雪だるまの横に行って、言われるまま何度かポーズを変えてカメラに収まった。
「ユウ」
カメラの画面で、今撮った写真を確認している有希に声をかける。そして、こちらを見た彼に言った。
「ユウも撮ってあげるよ」
「え……」
たちまち不安げな表情になった有希に、伸は微笑みかける。
「雪だるまの方を向いた横顔ならいいだろう? せっかくだから、記念に」
「……うん。わかった」
有希は、カメラを伸に渡して、雪だるまの右側に立つ。伸がカメラをかまえると、心持ち体を雪だるまのほうに向け、雪だるまに手を添えた。
一枚撮ると、今度はかがみ込んで、雪だるまにキスするようなポーズを取る。
「すごくかわいいよ。ユウ、アイドルみたいだね」
そう言いながらシャッターボタンを押すと、有希はふふっと笑いながらこちらを見た。顔が斜めを向いたあたりで素早く撮る。
すぐに確かめたが、傷はギリギリ写っていないし、自然な笑顔がかわいい。
「見てごらん。いい写真が撮れたよ」
そばに来た有希にカメラを渡すと、伸が撮ったものをすべて見てから、再び満足そうに笑った。
「僕が撮った伸くんも見て。すごくよく撮れたから」
「うん」
だが、見てみると、伸の場合は、ポーズも表情も、どこかぎこちない。有希と付き合うようになるまで、友達もなく地味な生活を送っていたので、あまり撮られ慣れていないのだ。




