166,荷物を送ってもらうことと顔を見合わせて笑うことと帽子とマフラーと手袋
「どうした?」
「うん……。あんなことを言って、僕って馬鹿だなぁと思って」
「写真を撮ってほしいって言ったこと?」
「うん」
「俺はうれしかったし、セクシーなユウを撮りながら、たまらなく興奮したけど。あぁ、もちろん、顔しか撮っていないけどね」
有希は、頬を赤らめる。
「傷を見るのも嫌だし、写真なんてとんでもないって思っていたけど、あのときは、伸くんになら撮られてもかまわないし、伸くんに撮ってもらえば吹っ切れるかもしれないと思ったんだ」
「でも、やっぱりまだ吹っ切れない?」
「うん……」
「焦ることはないよ。無理しなくていい。それでも、そういうふうに思ってもらえたことはうれしいよ」
「ありがとう……」
日に日に気温が下がり、小此木山の紅葉は盛りを迎えている。手をつないで森の中を散策しているときに、有希が言った。
「今までは、撮った写真を見ながら絵を描いていたけど、直接風景を見ながら描いてみたいなぁ」
「いいね。外は少し寒いけど」
「伸くんも付き合ってくれる?」
「もちろんいいよ。ユウが絵を描いている間、俺は写真を撮ろうかな」
「そうだ。今度ママが来るときにイーゼルを持って来てもらおう」
その日の昼過ぎ、電話をすると、麗衣が言った。
「そうなの。紅葉、私も見てみたいわ。でも、お店でちょっとしたトラブルがあって、すぐには行けそうにないの」
「大丈夫ですか?」
「えぇ。お店のことは大丈夫だけど、イーゼルは宅配便で送るわ。それに食材も」
「すいません。麓に買いに行ければいいんですが」
麓にはスーパーなどもあるのだが、徒歩で行くには遠過ぎるし、有希のこともある。
「いいのよ。管理会社に言えば代行してくれるかもしれないけれど、今回は私が送るわ。
食材じゃなくても、何かほしいものはある?」
「そうですね……」
今のところ、特に不足しているものはないし、これといって思いつかない。
「今、ユウに代わります」
伸は、すぐ横にいる有希にスマートフォンを渡した。
「ママ。……うん。元気だよ。あのね……」
有希は、好きなお菓子や、マフラーなどの防寒具がほしいと言い、景色のことや、絵のことなどを楽しそうに話している。
「じゃあ、あとでこのスマホで外の写真を撮って送るね」
そう言って、伸にスマートフォンを返した。麗衣が言う。
「荷物は今日にでも用意して、時間指定で送るわね」
それは、有希を気遣ってのことだろう。家にいるときも、玄関のチャイムが鳴るたび、有希はひどく緊張していた。
あらかじめ時間がわかっていれば、有希が宅配業者と顔を合わせなくて済む。
「よろしくお願いします」
午後、二人で外に出て、有希がスマートフォンで辺りの景色を撮って送信すると、しばらくして麗衣から、明日の午後、荷物が届くとメッセージが来た。
山荘に戻りながら、有希がつぶやいた。
「お店のトラブルって本当かな」
「え?」
「僕たちを二人にしておいてくれるために、そう言ったのかも」
「そうかな。考え過ぎじゃない?」
「それとも、一人の生活が快適過ぎて、来るのが面倒くさくなっちゃったとか」
「そっちのほうがありそうだね」
二人は顔を見合わせて笑った。
翌日届いた荷物の中には、イーゼルや食材、お菓子のほかに、帽子とマフラーと手袋のセットが二対入っていた。有希が歓声を上げる。
「かわいい! 僕のと伸くんのだよ。お揃いだ。
伸くん、どっちにする?」
モヘアの毛糸で編まれたそれらの一方は白、もう一方はブルーだ。
「それはやっぱり、ユウが白だろ?」
「そう?」
「うん。ちょっと被ってごらん」
ふわふわの白い帽子を被った有希は、とても愛らしい。
「よく似合っているよ。シンノスケみたいだ」
「あはっ。そう? 伸くんも被ってよ」
「こういうの、初めてだけど……」
物心ついてから、ニット帽を被った記憶はないし、いい年をした男がモヘアの帽子なんて見苦しくないだろうか。そう思いながら、伸は渋々帽子を被る。




