165,行動のまま快楽に身をまかせることと行為の最中に写真を撮ることと数時間後のこと
麗衣の車を見送り、玄関前の階段を上がる。二人きりの生活の始まりだ。
「伸くん」
家の中に入ると、さっそく有希が抱きついて来た。
「これから、ずっと二人きりだね」
「そうだね」
「二人きりだから、いつでもどこでも、好きなときに好きなことが出来るね」
「そうだね」
「たとえば、こんなこととか」
有希は、伸の手を取って、自分の胸に導く。思わず顔を見ると、有希の目が妖しく潤んでいる。
「服、脱がせてくれてもいいよ」
麗衣は、やはりすごいと思う。こういう変化を予想していたのかどうかはわからないが、ここに来るなり、あっという間に二人は変わった。
誰もいない場所で、二人きりになるということ。山腹の深い森の中に建つ美しい山荘で過ごす、非日常の開放感。
有希は、以前のように無邪気で大胆な姿を見せ、伸の中からも、追いつめられるような緊迫感は消えてしまった。毎日、二人で森の中を散策し、衝動のまま快楽に身をまかせる。
有希はまた、精力的に写真を撮り始め、絵を描くことも再開した。伸も、再び料理を楽しむようになり、ときには有希のカメラで写真を撮ったりもする。
あるとき、行為の最中に有希が言った。
「伸くん、僕を撮って」
「……え? 今?」
伸は戸惑う。事件以来、有希は自撮りどころか、顔を洗うときも、なるべく鏡を見ないようにしているのだ。もちろん、伸も有希の写真を撮っていない。
「伸くん、お願い」
「いいの?」
「伸くんに撮ってほしい」
本当にいいのだろうか。半信半疑ながら、部屋の隅の机の上からカメラを取ってベッドに戻る。
汗ばんだ有希の顔は上気し、傷跡も、いつもより赤みを帯びている。有希は、切なげな表情でこちらを見ている。
伸は、デジカメの電源を入れる。
「ユウ。とてもきれいだよ」
有希はカメラの前にすべてをさらしている。肩から上しか撮らないようにしているものの、細い体はなまめかしく、その部分は、すでに恥ずかしい形になっている。
それを見た伸の体も反応する。夢中でシャッターボタンを押し続けた後、カメラを床に置いた伸は、有希の上に覆いかぶさった。
すべてが終わった後、枕に顔をうずめながら、伸は考える。お互いに興奮状態にあるときの出来事だったが、本当にあれでよかったのだろうか。
平常心に戻ったとき、有希は後悔して泣いたり、不安定になったりしないだろうか。そうなったときは、速やかに画像を消してしまおう。
傷に関係なく、レンズ越しの有希は、とても美しかったが。
案の定、有希は不安げな表情を浮かべてうつむいている。数時間後のことだ。伸は机の前の椅子に、有希はベッドに腰かけている。
「どうする? もしも見るのが辛いなら、全部消去してしまうけど」
伸は、机の上のデジカメを手に取る。有希が、上目遣いにこちらを見ながら言った。
「伸くんは、どう思う?」
伸は、カメラの画面を見ながら言う。
「俺は、嫌いじゃないけど」
画面の中の有希は、たまらなくセクシーでかわいいと思うが、どの写真も、頬の傷がはっきりと写っている。どちらにしても、麗衣に見せられるような代物でないのは確かだ。
机の上には、有希がいつも使っているノートパソコンも置かれている。伸は提案した。
「じゃあ、この画像は俺がパソコンの中にフォルダを作って入れておく。そうすれば、ワンクッションあるから、うっかり目にしたりしないだろう?
それで、いつか見てもいいと思えるときが来たら開けばいい」
「……ありがとう。やっぱり伸くんって頭いいね」
伸は笑う。
「そんなことはないよ」
ただ、伸はそれらの写真の中の有希はとても魅力的だと思うし、撮ったときのシチュエーションを考えても、簡単に消してしまうのは惜しいと思ったのだ。あのとき、伸に撮ってほしいと言った有希のことも愛おしい。
有希は、まだしょんぼりと肩を落としている。




