164,白い素肌がまぶしいことと不意に後ろから抱きしめられることと朝もやの中を歩くこと
「そう」
少し残念そうに言いながらも、有希は、シャツを脱ぎながら一人でバスルームに向かった。
夕食は、スーパーで買って来た出来合いのもので済ませた。麗衣は、明日も午後から店に顔を出すということで、夕食が終わると、明日に備えて早めに部屋に引き上げた。
二人も部屋に上がり、伸は、実に久しぶりに一人でシャワーを浴びた。
バスルームから出ると、有希は、二つ並べて置かれたシングルベッドの右側で、頭から布団を被っている。枕元には、家から連れて来たシンノスケが座っている。
有希は物音にも反応しない。久しぶりに長時間車に揺られて、疲れて眠ってしまったのだろうか。
少し残念な気もするが、今日はゆっくり眠ることにしよう。そう思い、空いているほうのベッドに体を滑り込ませると、隣の布団がごそごそと動いて、有希が中から顔を出した。
「なんだ、起きていたのか」
「伸くん、もう寝るの?」
「うん。ユウも今日は疲れただろう」
すると、有希が言った。
「つまんない」
「え?」
「僕は、伸くんが出て来るのを、今か今かと待っていたのに」
そう言いながら布団をはねのけると、有希は、何も身に着けていない。
「あ……」
白い素肌がまぶしい。
有希が、口を尖らせる。
「伸くんは、僕としたくないの?」
「いや。……したい」
「じゃあ、パジャマなんか脱いで」
そう言うなり、全裸のまま伸に馬乗りになって、パジャマのボタンに手をかける。有希の久しぶりの大胆な行動に、戸惑いながらも、体が熱くなる。
小鳥のさえずりで目を覚ますと、まだ五時になったばかりだった。昨夜は有希の体の隅々まで丁寧に味わい、さらにバスルームでも淫らな時間を過ごしてくたくたになったというのに、ずいぶんと早く目が覚めたものだ。
伸は、有希を起こさないように、そっとベッドから抜け出し、分厚いカーテンをめくって窓の外を見る。早くも紅葉が始まっている木々の間に、靄が立ち込めている。
靄がゆっくりと流れる様子を眺めていると、不意に後ろから抱きしめられた。
「びっくりした」
振り向きながらつぶやくと、伸の肩に頬をつけた有希が、ふふっと笑う。
「伸くんの後ろ姿が素敵だったから」
「ほら、外を見てごらん」
伸は、カーテンを開ける。有希が、目を見開いて言った。
「わぁ……。きれいだね。あの中に入ってみたいな」
「行ってみようか」
二人は、着替えて外に出た。さすがに、朝は空気が冷たい。
「風邪を引かないように、あったかくして」
「うん」
有希は、フリースのジッパーを喉元まで閉めた。伸も、スウェットシャツの上にブルゾンを羽織っている。
階段を下りて、目の前に広がる森に足を踏み入れる。有希が手に触れたので、伸は、その手をしっかりと握りしめた。
下草に降りた朝露が、二人の靴を濡らす。木々の間から見える空は、薄いオレンジ色に染まっている。
歩きながら、有希が言った。
「きれいだね。カメラを持って来ればよかったなぁ」
伸は微笑みかける。
「これからチャンスはいくらでもあるさ」
「そうだね。こうやって毎日お散歩しよう」
「いいね」
山荘に戻ると、麗衣が朝食の支度をしている最中だった。
「すいません」
伸は、あわててキッチンに向かう。幻想的な朝靄の中を歩くことは思いのほか楽しく、すっかり遅くなってしまった。
麗衣が微笑む。
「朝の散歩? 健康的でいいじゃない」
伸は、手を洗いながら言う。
「朝食の支度のことをすっかり忘れていました」
実は、ロマンティックな雰囲気に、つい盛り上がってしまい、森の中で、熱いキスを交わしていたのだ。
「いいのよ。たまには私もこのくらいしないと。帰ったら、当分は自分で料理しなくちゃいけないんだし」
「はぁ……」
「何か困ったことがあったら、管理会社に連絡して。すぐに対応してくれるはずだから。ほしいものがあったら、次に来るときに持って来るから、いつでも言ってね。
それじゃ、二人で楽しく過ごしてちょうだい」
そう言って、麗衣は街に戻って行った。




