160,うれしい反面とても恥ずかしいことと上半身裸で写真を撮られることとこちらに背を向けて泣く有希
それは、なんとも照れくさいものだ。部屋に自分の絵があること自体もそうなのだが、これらの絵を描いている間中、有希が伸の写真を見つめ、本人もそう言っていたように、ずっと伸のことを考えていたのかと思うと、うれしい反面、なんだかとても恥ずかしいのだ。
だが、有希は、それらの絵を眺めて満足そうに言う。
「伸くんがいっぱい。たくさんの伸くんに囲まれて幸せ。……あ。そうだ」
有希が、くるりと振り返って伸を見た。
「今度はカメラ目線で撮らせて」
「え……」
たしかに、今までのものは、すべて伸が何かをしているところを撮った写真をもとに描いた絵で、視線は正面から外れている。
「伸くんの目に見つめられたいんだよ」
有希は、まさに伸の目を見つめながら言う。
「だったら、わざわざ絵にしなくても、こうして……」
「もう。めんどくさいこと言わないの。
本物の伸くんは、二十四時間僕を見つめていられないでしょう? でも、絵にすれば、ずっと僕を見ていてくれるし、いつでも好きなときに見つめ合えるし」
有希は、うっとりとした顔で、さらに言う。
「写真の伸くんに見つめられながら伸くんの絵を描いて、描きながら見つめられて。あぁ。おかしな気分になっちゃったらどうしよう……」
「わかったわかった」
有希がそんなふうに思ってくれるのはうれしいが、やはり、とても恥ずかしい。恥ずかし過ぎる。
こんな地味で平凡な顔。しかも、カメラ目線で写真を撮られなければならないなんて。
今になって、写真を拒み続けた麗衣の気持ちがわかる気がする。
「シャツを脱いで」
「えっ?」
デジカメを手にした有希が言う。
「肩から上しか撮らないけど、上半身裸になってほしいんだ」
「あ、あぁ」
上半身裸になるくらい、今さら照れる仲でもないが、真昼間から自分だけが裸になるのは、どうにも恥ずかしい。だが、有希は、すっかりカメラマンの顔になって、ベッドを指して言う。
「そこに斜めに座って、顔だけこっちに向けて」
有希は、次々に指示を出しながら、何度もシャッターボタンを押す。戸惑いながらも、言われるままにポーズを取り、レンズに視線を向けているうちに、いつしか照れくささはなくなっていた。
やがて、カメラを下ろした有希が、にっこり笑って言った。
「ありがとう。いい写真がいっぱい撮れたよ」
「そう」
伸は、シャツに手を伸ばす。カメラを置いて、有希が近づいて来た。
「伸くん、とっても素敵だった」
そして、シャツを羽織ろうとした伸の体にしがみつく。その勢いで、伸はベッドの上にあおむけに倒れた。
「おっ……!」
有希が耳元で言う。
「あんまり素敵で、写真を撮りながら、だんだん体が火照ってきちゃった」
確かに、有希の体は熱い。
「伸くんの肌、冷たくて気持ちいい……」
そう言って、伸の胸に頬をつけた。
有希はもう、隠すことなく、伸の見ている前で絵を描くようになった。
何枚も撮った中から今回選んだ写真は、正面を向いて、何か言おうとした途中だったのか、少し唇を開きかけている伸だ。有希は、その表情がとてもセクシーだと言うのだが、自分では、とてもそうは思えない。
ほかの写真も、別の絵に描くと言っている。まだ恥ずかしさはぬぐえないが、有希が絵を描くことに熱中しているのは、とてもいいことだと思う。
今は趣味として描いているだけだが、将来的には、何か形になるかもしれない。そう思っていたのだが。
ある夜、ふと目を覚ますと、有希がこちらに背を向けて泣いていた。小さくしゃくり上げながら、肩を震わせている。
「ユウ。どうしたの?」
有希は、涙をぬぐいながらこちらを向いた。部屋の灯りは、今も点けたままだ。
「起こしてごめん……」
「うぅん」
伸は、有希の顔にかかる髪をかき上げる。有希の目は真っ赤だ。
「嫌な夢を見た?」
有希は、首を横に振る。
「じゃあ、どうしたの?」




