157,濃厚で官能的なキスと裸のまま部屋を出てバスルームに行くこととスケッチブック
「もうすぐお昼だよ。ご飯の用意をしなくちゃ」
「そんなこと」
「でも、麗衣さんが……」
結局伸は、無理矢理衝動を抑えて、座り込んでいる有希をうながして部屋を出たのだった。
昼食のとき、押し黙る有希の泣いた跡の残る顔を見て、麗衣は心配そうにしていた。問いかけるように伸に視線を送って来たが、答えられるはずもない。
有希が少し前進したことは、とてもうれしいが、麗衣の目を気にしなければならないことは、もどかしくもあり、気まずくもある。
今までは、そういうことがなかっただけに、具体的に考えたことはなかったのだが、この家で暮らすということは、こういうことの繰り返しなのかもしれない。
昼食の後、有希は、階段を上る伸の後からついて来た。有希がドアを閉めるのと同時に、伸は振り向く。
「ユウ」
有希は、ドアを背にしてうつむいている。
「さっきはごめん」
いくらタイミングが悪かったとは言え、数少ない貴重な機会を逃してしまったのかもしれない。
「ユウ?」
有希が伸を見上げる。
「あの、もしよかったら、その……」
「さっきの続き?」
「あぁ、うん。大丈夫かな」
もう二度と、有希がそういう気持ちにならなかったらどうしよう。今さらながら、伸は不安になる。
「わかんない。でも」
有希がしなだれかかって来る。
「試してみたい。……伸くん」
「うん?」
「優しくして」
伸は、有希の肩を抱いてベッドに向かう。ベッドのそばまで行くと、こちらを向いた有希が、伸び上がって唇を重ねて来た。
それは、さっきよりも、さらに濃厚で官能的で……。たまらなくなって、伸は有希を抱えてベッドに横たえる。
わずかに唇を開いた有希は、潤んだ目で伸を見上げている。
「ユウ。すごくかわいいよ」
「伸くん……」
再び唇を重ねながら、伸は、有希のシャツのボタンに手をかける。
「あ、あぁ……」
有希が、細い肩を震わせて泣いている。室内はエアコンが効いているが、有希も伸も素肌に汗を浮かべている。
「ユウ。大丈夫?」
伸は、そっと有希を抱き寄せる。有希が、しゃくり上げながら言う。
「ずっと出来ないままだったらどうしようかと思っていた……」
「ユウはとても素敵だったよ」
有希が、長い髪の間から、伸を見上げて言う。
「伸くんは、気持ちよかった?」
「あぁ。すごく」
その後二人は、裸のまま部屋を出てバスルームまで行った。麗衣はもう出かけた後だったが、とても大胆でいけないことをしているようでどきどきした。
毎日一緒にシャワーを浴びているのに、いつもとはまったく気分が違う。たった今愛し合ったばかりだというのに、もう妖しい気分になっている。
この数ヶ月のことが嘘のように、二人は長い時間をかけて、さらに淫らな行為にふけった。
翌朝、ベッドの中で目覚めた有希が伸びをした。少し前から起きていた伸は、微笑みかける。
「おはよう」
「おはよう。昨夜はよく眠れた」
今朝は気分がよさそうだ。
「昨日、久しぶりに『運動』したからじゃない?」
「そうかも」
有希は、伸の肩におでこをつけながら言う。
「じゃあ、毎日『運動』しなくちゃ……」
「出来るの?」
「伸くんがリードしてくれれば」
「そう?」
伸はくすりと笑う。リードするまでもなく、昨日の有希はとても積極的だった。
ひどく痩せて体力も落ちているので、倒れてしまうのではないかと心配したのだが、今までのブランクが嘘のように大胆で奔放だった。
さすがに疲れたようで、夜はベッドに入るなり、ストンと落ちるように眠ってしまったのだが。
有希は、おもむろに起き上がると、ベッドから出て机のそばに行った。見ていると、引き出しからスケッチブックを取り出している。
そして、戻って来て、スケッチブックを開いてこちらに差し出した。
「見て。まだ完成はしていないけど」
「いいの?」
有希が出来上がったら見せると言うので、今まで、ちらりとも見ていないのだ。
「いいよ。見て」
あ……。伸は言葉を失った。




