152,気まずそうな二人とチーズケーキと深いため息
伸は、有希の髪を撫でる。
「もういいよ。無理して会わなくてもいいんだよ」
有希は、伸の腕の中で首を横に振る。
「うぅん。会うよ。何度も言ってくれているんだし」
「大丈夫?」
「うん。だけど、そのときは伸くんも一緒にいて」
「わかったよ」
前の晩、有希はベッドの中で少し泣いた。翌日のことを思い、緊張していたせいかもしれない。起きてからも、体調がすぐれないようで口数が少ない。
生野は、前回と同じくらいの時間にやって来て、出がけの麗衣と挨拶を交わした。
「どうぞごゆっくりね」
生野をリビングに案内して来た麗衣は、艶然と微笑んで仕事に出かけて行った。
「久しぶりだね。こっちに来て座って」
ドアの前で立ち尽くしていた生野は、伸が声をかけると、ぺこりと頭を下げてソファまでやって来た。迎えに出ようにも、隣に座った有希がシャツを握りしめているので、立ち上がるのがやっとなのだ。
生野は、ちらりと有希に目をやってから、緊張の面持ちで言う。
「お久しぶりです。無理を言ってすいません」
「いや……」
有希は、伸のシャツを握りしめたまま、うつむいて押し黙っている。
「今、飲み物を取って来るよ」
そう言いながら、そっと有希の手をほどくと、握っていたシャツの裾がしわしわになっている。有希は、伸について来たそうな顔をして見上げたが、そっと押しとどめてキッチンに向かう。
二人とも、えらく気まずそうにしているが、かつての同級生なのだから、少しくらい二人きりにしても大丈夫だろうと判断した。これで二人の間のわだかまりが解けてくれれば……。
だが、三人分のアイスティーとレアチーズケーキをトレーに載せて戻ると、有希も生野も、相変わらず気まずそうにうつむいている。おそらく、まだ一言も交わしていないのではないか。
伸は、生野の前にケーキとグラスを置きながら尋ねる。
「レアチーズケーキは大丈夫?」
生野が顔を上げる。
「あ……はい。好きです」
「よかった。チーズが苦手だって言う人もいるからね」
「はぁ」
有希の前にも置く。
「ユウは好きだよね」
「うん……」
「さぁ。二人とも食べて」
「いただきます」
生野が、アイスティーを一口飲んで言った。
「このケーキも安藤さんが作ったんですか?」
「うん」
「へぇ。すごい」
生野は、ぎこちなく話しながらフォークを手に取ったが、有希は膝の上で拳を握りしめている。
「ユウも食べて」
「うん……」
返事をしながら、動く気配はない。生野も、うつむいたままの有希を見つめている。
「食べて」
伸が微笑みかけると、ようやく生野はケーキにフォークを入れた。
どうしたものかと思いながら、伸もケーキを食べ始める。生野の切ない胸の内を思ってこの場をセッティングしたのだったが、まったく話が弾みそうな気配はない。
有希は辛そうにしていて、やはりまだ無理だったのかと、後悔が頭をよぎる。
「ユウ。紅茶だけでも飲んだら?」
すると有希は、再び伸のシャツの裾を掴んで言った。
「気分が、悪い」
確かに顔色がよくない。
どうするべきかと考えていると、生野が、カチャンと音を立ててフォークを皿に置いた。
「俺のせいなのか?」
伸は、はっとして生野を見る。彼の顔も青ざめている。
「そんなに俺に会うのが嫌だったのか?」
「生野くん」
生野が、深いため息をついて言った。
「俺は馬鹿だな……」
困った。この場をなんとかしなくてはいけない。そう思いながら、どうしていいかわからずにあたふたしていると、有希がうつむいたまま言った。
「そういう生野こそ、僕の惨めな姿を見て満足した?」
「……なんだって?」
有希が顔を上げる。
「襲われて、顔に消えない傷をつけられて、何ヶ月も引きこもっている僕を見て満足かって聞いているんだよ」
「ユウ! 何を言うんだ」
「俺が、そんなことのためにここに来たと思っているのか? 昔、お前に振られた腹いせに?」




