151,細い体に腕を回すことと胃の辺りが冷たくなることと言わなくてはいけないこと
もともと色白の有希の肌は、長い間陽に当たっていないせいで、より一層白くなったように見える。ずっと冷房の利いた室内にいたせいか、体調を崩したため、今はエアコンの温度を高めに設定している。
エアコンを切って窓を開けることは、有希が承知しないのだ。おそらくは、外に出られないのと同じ理由で。
長袖のシャツを着て、タオルケットをかけてベッドに横たわる有希のそばに行って話しかける。
「生野くんからメッセージが来たよ」
それには答えず、有希が言う。
「伸くん、ここに来て」
言われるまま、横に腰かけると、彼は伸の腕に触れた。その手のひらは、ひんやりとしている。
「冷たいね。いったんエアコンを切ろうか」
立ち上がろうとすると、有希は、伸の腕をぎゅっと握って言う。
「伸くんがあっためて」
「えっ。それって効率悪くない?」
「いいから」
起き上がった有希がしがみついて来たので、釈然としないまま、伸は細い体に腕を回す。
伸の肩に頭を預けている有希に、もう一度言う。
「生野くんからメッセージが来たよ」
有希が気だるそうな声で言った。
「……なんだって?」
「もうすぐ名古屋に戻るから、その前にここに来てもいいかって」
「伸くんに会いに来るの?」
「ユウ……」
もちろん有希はわかっていて、わざと話をはぐらかしているのだろう。
「そんなわけないだろう。生野くんはユウに会いたいんだよ」
「僕は会いたくない」
「だけどユウ。生野くんはユウのことを」
突然、有希が、伸の体を突き放すようにして言った。
「どうしてそんなに会わせたいの?」
鋭い口調に、伸は面食らいながら答える。
「……それは、生野くんの気持ちがわかるから」
有希が、真っ直ぐに伸の目を見ながら言った。
「生野の気持ちって何?」
「彼は今もずっと、ユウのことを思い続けていて……」
「伸くんは平気なの?」
「え?」
「伸くんは、僕の恋人でしょう? それなのに、僕のことを思っている生野と僕を会わせて平気なの?」
「それは……」
「もしかして、優越感?」
「……え?」
「生野のことがかわいそうだから僕に会わせてあげるって、僕が伸くんのことしか見ていないから、生野になんか目もくれるはずがないって自信があるから、それで同情するふりをして、優越感に浸っているの?」
胃の辺りが、すっと冷たくなる。
「ユウ。今のはちょっとひどいんじゃないかな」
伸も、有希の腕に添えていた手を離す。
「もちろん、平気なわけじゃないよ。ユウのことを愛しているし、誰にも渡したくないと思っている。
生野くんにだって渡したくない。だけど、そう思うからこそ、彼の気持ちも痛いほどわかるんだ」
有希の目元が赤らんでいる。泣き出してしまうかもしれないが、それでも言わなくてはいけないと思う。
「俺とユウが付き合っていることもそうだし、こうして一緒に暮らしていることを知って、生野くんだって辛い思いをしているだろう。
それでも彼はユウのことが好きで、傷ついたユウのことが心配で、うとまれているとわかっていても会いたくて仕方ないんだよ。会えば、余計に辛くなるとわかっていても。
しかも、それを俺に頼まなくてはいけないなんて、どれほど屈辱的なことか……」
有希の目から、涙がこぼれ落ちた。
「伸くん……」
あぁ。かわいそうに。
「ユウの気持ちだってわかっているよ。本当は、ユウが辛いと思うことはさせたくない。
今言ったことは気にしなくていいよ。生野くんには断っておくから」
「あぁ……」
有希が、顔を歪めて泣き出した。伸は思わず抱き寄せる。
ひとしきり泣いた後で、有希がつぶやいた。
「生野に、会う」
「えっ。いいの?」
後で生野には断りのメッセージを送るつもりでいたのに。だが、有希は言う。
「さっきはひどいことを言ってごめん。伸くんにも生野にも失礼だった。
みんなに心配をかけているのに、生意気なことを言って……」




